白い花に背を向ける少年
たくさんの白い花があるから、
濃い霧のなかで その一つを掬い上げる。
少年の出身地は
紫の花でいっぱいだった。
少年は旅をしてきて、
この白い花畑に来た。
くんくんと匂いを嗅ぐと、
白い花特有の匂いが むせかえる程 濃く匂った。
もうすぐ、駅に列車のお迎えが来る。
そしたら、もうこの白い花畑ともお別れだ。
終着駅という名の 目の前の駅。
少年は前にもここに来たことがある気がする。
遠い遠い、昔に。
きっと誰もがここに来る。
そして、列車に乗って、旅立つのだ。
霧がもっと濃くなって、
白い花畑の匂いも濃くなる。
少年は14歳。
少年は白い肌。
少年は痩せている。
少年は歩くのが久しぶり。
たくさんのことを、
たくさんのものを、
たくさんのひとに、
貰った気がする。
なのにもう、
少年は手ぶらだった。
何もかも故郷に置いてきた。
置いてきたつもりはないけれど。
もう故郷がどこだったのかも うまく思い出せない。
汽笛の音がして、
列車が少年を迎えに来た。
たくさんの白い花に、
さようならを告げる。
駅へ向かう少年の背中は、
濃い霧に包まれて消えていった。
誰もが聞いたことのある汽笛の音が、
そこら中にこだまして、
列車が出発した。
たくさんの白い花、
列車を見送るようにして
揺れて音を立てた。
ちりんちりんと、
音を立てた。