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QUEEN'S WORLD  作者: 猫本
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幕間 『日常生活』

「慶、ちょっと来なさい」

部屋で過ごしていたら、お母さんに呼ばれました。リビングに行くとお母さんは今日返されるはずだったテスト用紙について話し始めました。

「英二君のお母さんから聞いたんだけど、今日テストが返されたんでしょ?」

 確かにテストは返されました。でも、僕のほうが少しだけ点数が良かったという理由だけでその英二君にごみ箱に捨てられてしまいました。英二君もむしゃくしゃしていたのだろうし、それが解消されるならそれでいいかなと思って、作り笑顔をしながら黙って見ていました。

 いいえ違います。自分は怖かっただけです。人に嫌われるのが。怒ったりしたら人に嫌われてしまいますから。英二君やほかのクラスメイトは、僕の顔が女の子みたいだとかよくバカにしてきますが、それには決して悪気がないのはわかってます。それに、英二君のお母さんとうちのお母さんとは仲がいいので、その関係が悪化するのも嫌です。

 だから、全部自分のせいにします。そんな風に衝突を回避して、今日までの12年間、僕は生きてきました。

「ごめんなさい。点数が悪かったから捨てちゃいました」

「またなの? この間もそういってたじゃない。そんなことだからいつまでも成績が上がらないのよ。大体通知表以外学校の様子がわかるようなもの持って帰らないけど、ちゃんとやってるの? 先生は真面目な生徒だ、とか言ってるけど、ならなんでそんなに成績が悪いのよ」

「ごめんなさい」

先生に対しても僕は愛想よくしているので、教師受けはいいです。先生っていうのは自分の言うことを素直に聞く子供のことが好きです。

「ごめんなさいごめんなさい、って、ほかに言うことないの? 言いたいことがあるんならはっきり言いなさいよ。」

「……ごめんなさい」



 次の日、学校に行くと、他の子たちはいつも通り僕と仲良くしてくれます。パッチリした目に、小さな顔、それでいてみんなに優しくするので、みんなも僕に好意的です。人間は顔や言動など目で見てわかるものでしか人を見ていませんから、いじめられることはありませんし、僕がそのことで悩んでいるなんて誰も気づきません。

「慶君、おはよー」

「うん、おはよー」

女の子から挨拶されました。女の子はかわいい男の子が好きですが、それは単にかわいいペットみたいな扱いをしているだけで、決して恋愛対象としてみているわけではありません。女の子が本当に好きなのは運動ができて、自分の思ったことをすぐに口にして女の子を怒らせてしまうような人なので、僕は女の子とは付き合えません。

「慶、今日も女みたいだな」

「うん、そうだね」

英二君です。昨日したことは忘れているようです。なので僕も気にしていないことにします。いつも通り僕のことをからかてきます。でもこれはからかわれても何も言わない自分が悪いので英二君は悪くありません。

「慶君、今日の掃除当番変わってくれない?」

「うん、いいよ」

「ありがと」

そんな会話をした女の子は他の子に「放課後、遊ぼー」と言って向こうに行ってしまいました。



 それもこれも全部僕が悪いのです。お母さんに口答えできないのも、クラスの子に逆らえないのも、悩みを打ち明けられないのも。そもそも、悩んでいるならカウンセラーにでも相談すればいいのに、そんな勇気もないのです。

 だから僕は自分の気持ちを押し込めたままほかの人に愛想を振りまきます。他のみんなには責任はないので、僕が嫌な思いをすればそれでいいのです。それで丸く収まるのです。僕が家に帰るたびに部屋で一人で泣いているのも、それでみんなが嫌な思いをするわけではないのですから関係ありませんし、それで何が変わるというものでもありません。

 そんな風に、自分を犠牲にしながら僕は僕の人生がガラッと変わる3年後まで生きてきました。

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