プロローグ『アル国ノ昔話』
昔々、あるところに小さな村がありました。
その村はとても貧しく、人々はお腹を空かせていました。
そんな村に、ある時、女の子がどこからか現れました。
その女の子は人々の知らない言葉を喋ったりする不思議な子でした。
心優しい女の子はそんな村人達を可哀想に思い、この人達に食べ物を恵んであげたいと願いました。
するとどうでしょう。
女の子の足下から野菜や果物がみるみるうちに生えてきました。
女の子は魔法が使えたのです。
次に、女の子は人々に暖かいお家に住んでほしいと願いました。
すると村のあちこちに大きなお家が建ちました。
人々は大喜びし、それを見て女の子も喜びました。
やがてその噂は他の村まで広がっていき、魔法を見た人々は自分達もその村に住みたいと思うようになります。
女の子の魔法によっていくつもの村が一つにまとまっていきました。
やがて世界中の村が一つの国になり、世界の中心に立派なお城が建てられ、女の子はそこで女王様として迎えられました。
国中の人々が女王様と同じ言葉を使ったり、女王様のまねをするようになりました。
やがて魔法も使いたいと思うようになり、魔法の研究を始めます。
女王様もこの素敵な力をみんなが使えたらどんなにいいだろうと思い、その研究に協力しました。
皆でする研究はとても楽しくて、どんどん新しい発見が生まれていきます。
その結果、ついに女王様の魔法に似たものを皆が使う方法を発見しました。
人々はさらに女王様の魔法に近づけるために研究を続けます。
お姫様は、これで皆がますます幸せになると大喜びでした。
しかし、人々は次第に魔法の進歩よりも、他の人よりも優れた成果を遺すことを優先させるようになりました。
やがて人々は研究成果をめぐって争うようになり、ついには研究を邪魔するために女王様をさらおうとしたり、殺そうとするもの者さえ現れ始めました。
お姫様は深く哀しみました。
どうして争うのか、何がそんなに不満なのか、女王様にはわからなかったのです。
やがてその哀しみは怒りへと変わっていきました。
争うことしかできないのならいっそこんな国滅んでしまえばいい、と思ってしまったのです。
すると、女王様の足元から気色の悪い植物がうじゃうじゃと生えてきました。
魔法がそんな女王様の願いを叶えたのです。
植物はお城の中にいた人々、やがては外の人々やお家を踏み潰しながら、どんどん国中を覆い尽くしていきました。
しかし、女王様は逃げ惑う人々を見て怖くなってきたのです。
一度は国を滅ぼそうとした女王様ですが、やっぱりこの国と人々のことを愛していたのです。
女王様は途中で植物を止めました。
しかし、一度出してしまった植物はもう元どおりには戻せませんでした。
生き残ったのはほんの少しの人々だけです。
人々は植物に覆われてしまった世界で暮らしていくしかありません。
女王様はそのときお城に閉じこもっていたので、今もお城の中にいて、人々は植物に囲まれててお城の場所がわからなくなってしまいました。
だから、植物が止まっても、人々が新しい国を作って、その国が発展した後も、女王様を見たものは誰一人としていませんでした。