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未来が視えるよ田中くん! 〜Eランク冒険者は、貰ったチートで平和に過ごしたい〜  作者: ____
第一章 Eランク冒険者は、貰ったチカラで平和に過ごしたい
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服屋のチュチュ

物価is適当

 最初に買うべきは、服だろうな……。


 俺が持っている服は、冒険者ギルドで渡されたこの服だけだ。出来れば、何着か持っておきたい。

 

 あれ? 洗濯とか炊飯とかどうするんだろう。部屋にはコンロもシャワーも無いし、そもそもこの世界に存在してるのかわからない。そういう所もソーディに聞いておくべきだったかもしれない。


 言ってなかったが、靴もカリーナに売った。今履いているのはサンダルで、走ったりするには都合が悪い。靴も見繕った方が良さそうだ。


 歩いてきた道をそのまま戻り、冒険者ギルドのある大きな通りに。さっき、右に曲がった角をそのまま真っ直ぐ進んだ所に、服屋らしき看板を見つけたんだ。覗いていこう。


 『タラミララ』と、洒落た字体で書かれた袖看板。服屋だと分かるのは、その文字の後ろに洋服の絵が描かれていたからだ。


「いらっしゃいまし~。あら~、可愛らしい男の子!」


 店の扉を開けた瞬間、きつい香水の匂いが鼻についた。服が並べられた棚の向こうから、派手な化粧をした男が出てくる。刈り上げられた頭にはアシンメトリーの剃りこみがされ、前衛芸術みたいだ。


 ピンクと黒のフリルが付いた服を着ているが、その体付きは可愛らしいものじゃない。筋骨隆々で、腕や足、そして首には、小さな淡赤の鱗が生えていた。どうやら彼も、人間とは違う種族のようだ。


「服を買いんだ。着られればいいから、あまり高く無い物が良いんだが……」

「ん~ま! 駄目よ! そんなに可愛い顔をしているんだから、ちゃんとおしゃれしないと!」


 昔から童顔だとか、可愛いとか言われてきたけど、異世界でも言われるのか。この人の場合は、また別の意味かもしれないが。


「あまり金も無いし、纏まった量を買いたいんだ。下着類も必要だし、出来れば靴も買いたい」

「あら。そうなの? それならさすがに高いものはオススメし難いわね。あなた、身長いくつ?」


「161センチだ」

「予算はおいくら?」


「銀貨一枚とちょっと。出来れば銀貨一枚で抑えたい」

「まぁ! そんなに買ってくれるの!? あなたお名前は?」


「田中。田中朱夏」


 今日だけで何回自己紹介させられるんだ? このままじゃ、人生で一番自分の名前を言った日になるぞ……。


「タナカちゃん! いい名前ね! あたしはチュチュヴァンナ。チュチュって呼んでちょうだい!」

「あ、ああ……。分かった、チュチュ。それで、服はあるか?」


 押しが強い。あと、顔に見合わず名前が可愛い。


「あるわよぉ! 良いのがいっぱい! 昇格試験にあわせてたくさん用意したのに、いまいち売れ行きが芳しく無くて困ってたの! タナカちゃんが来てくれて助かったわ!」


 チュチュは言いながらも、手際よく棚を漁っていく。よく動く口元から、二股に別れた長い舌がチロチロと覗いていた。


「これとかど~お? 一見どこにでもあるようなシャツだけど、見た目の通り、何の変哲もない安物のシャツなのよ!」

 

 一見した通りじゃないか。何で言い直した。

 チュチュが持っているのは、シンプルな黒のシャツ。本当に、何の変哲もないシャツだ。


「いくらだ?」

「銅貨5枚よ。何の魔術素材も使ってないし、工場で作られた大量生産品だから、すっごくお安いの。お買い得よ」


「工場で作ってるのか……?」

「そうよ。質が悪いけどその分お安いの」

 

 工場なんて概念は無いと思っていたけど、そんな事も無いみたいだ。大量生産ができるほどの工場が、この世界には存在しているらしい。見た所、特に目立ったほころびや痛みも無いし、これで銅貨5枚はとても安い。


「同じ工場製の服はあるか? 出来れば、それも見たい」

「この段にあるのはぜ~んぶ工場製。奥にも在庫があるから、持ってきましょうか?」

 

 チュチュに言われた棚を見れば、シャツやパンツは一通り揃っていた。黒か紺か白の三色しかないが、別に下着の色に拘りはないし何でもいい。


「いや、いい。ここにあるシャツとパンツを四枚ずつくれないか」

「いいわよぉ! 色は何がお好み?」


「任せるよ。別になんでも良い」

「ま~! 可愛いこと言ってくれるじゃない! それじゃ、黒にするわ! あなたの髪の色と一緒! それに、あたしも黒が好きなの!」


 その情報は要らないぞ。


「あと、長袖の服とズボンも何着か欲しい。出来れば靴も見たい。頼めるか?」

「任せてちょうだい! 色の指定は?」


「無い。……いや、ピンクとか、そういう目立つ色は止めてくれ」


 一応釘を刺しておく。ピンクのフリルとか渡されたら、俺はどんな顔をして良いのかわからないからな。


「あら~。ピンクはお嫌い? 私の好きな色ナンバーツーなのに、残念……」


 その情報は要らないし、好きな色が随分わかりやすいな……。

 黒とピンクの服を着ているだけのことはある。鱗の色と相まって、そこそこ似合っている様に見えてきた。この短時間で洗脳されたのか……?


「何枚くらい欲しいのかしら?」

「最低でもそれぞれ二枚は欲しい。靴も、出来れば二足」


 雨に濡れて半乾きの靴は嫌いなんだ。常に乾いてて欲しい。靴二足は外せない。


「う~ん。それだと銀貨一枚は厳しいかしらねぇ……。いくらまで追加出来るの?」

「50枚までは……。出来る限り低く抑えてくれ」


「良いわよ! 気に入らない女だったり、臭いだけの男からはぼったくるけど、可愛い男の子には誠心誠意対応するのがこの店のモットー! 任せて!」


 なんだそのモットーは。俺が筋肉ムキムキのマッチョマンなら、とんでもない額を請求されたのか?

 棚を漁るチュチュは、奥の方からも服を引っ張り出している。値札などは付いていないが、もしかしてこの男、全ての服の値段を記憶しているのだろうか。


「ただの服で良いのよね? 魔術繊維だったり、耐火や耐電も必要ない?」

「ああ。大丈夫だ」


 そんな服があるのか……。鎧が着れないってなったら買いに来よう。たぶんそれだけお高いんだろうけど。


「それなら、これとこれね。タナカちゃんに似合うと思うわ」


 渡されたのは、黒と青の長袖のシャツと、灰色のズボン。なかなかいい。奇抜な見た目をしている割に、服選びは無難でちょうど良い所を攻めてくる。やり手だ……。


「良いな……。同じ様な感じでもう少し頼む」

「ま~! あたしを頼ってくれるなんて可愛い! 良いわ! 最後まで選んであ・げ・る!」


 満面の笑みでウインクをするチュチュ。絶妙に下手くそなのが面白い。


 同じ様なやりとりを数回して、最終的に銀貨1枚と銅貨を35枚ほど支払った。服を入れた紙袋を持って、俺は店を後にする。


「また来てちょうだいね~! タナカちゃんならいつでも歓迎よ~!」


 野太い声で見送られ、俺は再び通りに出る。


 一回宿に戻ろうか。帰るのに十分も掛からないし、早く宿代を払っておきたい。

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