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未来が視えるよ田中くん! 〜Eランク冒険者は、貰ったチートで平和に過ごしたい〜  作者: ____
第三章 Eランク冒険者は、もっとお金が稼ぎたい 
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燃える森 (中)

「この炎は普通に熱いですね。迂闊に触ったら火傷しちゃいそうですよ」


 森の入口。枝の先で燃える炎に手をかざし、ホトゥルナはそんな風に呟いた。

 

 音もなく燃える炎の光が、彼女の顔を暖かに照らしている。ふと、右目の下に付いた小さな傷跡が目に付いた。それ以外、彼女の肌には傷も皺もシミも無い。美麗なその顔に付いた一本の傷跡が、むしろ彼女の美しさを際立たせているように感じる。


 いつもは化粧で隠しているのだが、今日は珍しく顕になっていた。寝坊気味だったからだろうか。


「……どうしたんですか? 人の顔をじっと見て。見惚れました?」

 

 顔を見つめていたのを気付かれてしまった。

 あまり認めたくないが、見惚れていたのは間違いない。間違いないのだが、認めるのはどこか気恥ずかしいので適当に誤魔化すことにした。


「その傷が気になってな。ほら、目の下の。どうしたんだ? それ」


 ホトゥルナはそっと、嫋やかな指先で自らの傷跡を撫でた。ただそれだけの姿が、やけに絵になっている。

 ……改めて思うが、彼女は顔が良い。普段は敢えて意識しないようにしているのだが、ふとした瞬間に目で追ってしまうような魅力がある。


 本当に顔が良いんだよなぁ……。 


「小さい頃に怪我しちゃったんですよ。あわや失明って所だったんですけど、間一髪で躱して事なきことを得たんです」

「矢が掠めた傷なのか……?」


 そこに矢が掠めるってどんな状況なんだ。頭に林檎のせて、矢の的にでもされたのか。

 

「はい。お父さんが矢の練習してる所に何も言わずに近寄っちゃって、モンスターと間違われちゃったんですね」


 ホトゥルナは遠い昔を懐かしむように、柔らかな笑みを浮かべる。笑っている筈なのに、瞳の奥には悲哀があった。

 心がちくりと痛む。その表情にどんな意味があるのだろう。……知りたいとは思いつつも、あまり立ち入るべきではないと、俺の勘が告げている。


 そういうバランス感覚はあるんだ。必要以上に他人の過去を詮索するのは、賢い人間のやることではない。


「……そんなに目立ってます?」

「目立っては無いさ。いつも隠してるのに、今日は隠してないから目についてな」


「どうせ落ちちゃうから要らないかなって。……見苦しいなら、今からでも隠しますよ?」

「おいおい、見苦しいなんて言ってないぞ」


 俺が言えば、ホトゥルナは俺の事をじっと見つめて来た。「傷があっても気にならないんですか?」と、試すような視線を向けてくる。


「えっ……? その__」


 そのサイズの傷で気にしてるのか? と続けようとして口を噤む。男が気にしないだけで、女子は傷とかそういうの気にするもんな。危ない危ない。地雷を踏み抜く所だった。


「なんだ……俺はそのままの方が良いと思うぞ。少なくとも、俺はそっちの方が好きだ」


 完璧な物より、少し傷とか欠けがあったほうが馴染みやすいからね。綺麗過ぎる部屋だと居心地が悪いのと一緒だ。


「……そ、そうですか。それならこのままで行きます」


 伏し目がちに傷を撫でながら、ホトゥルナはか細い声でそう言った。

 彼女は何かを考える様に押し黙り、俺たちの間に沈黙が流れる。

 

 えっと……。何の話をしてたんだっけ?

 この話をする前も、実はホトゥルナの話に集中出来ていなかったのだ。それも彼女の顔が良すぎるのが悪いのだが、そんな事を言うのは理不尽が過ぎる。

 

 えーっと……? 傷の話の前は……。


 駄目だ。思い出せん。諦めてさっさと先に進もう。

 

「そろそろ先に進まないか? このままここに居ても始まらないし」

「えっ……? あ、はい。分かりました。行きましょう!」   


 我に返ったホトゥルナを連れ立って、俺は燃える木々の間に入る。


「熱いな。あまり長居は出来ないか」


 サウナの中の様な温度だ。水分が奪われ、肌がじりじりと焼ける。明るい光も目に痛い。

 

「こんな感じに、燃える木のモンスターが居るんです」

「そうなのか」


「トーチャーって呼ばれてるモンスターで、燃えない木だから凄い高値で売れるんです」

「へぇ……。そんなに高値で売れるなら、みんなが狩って値段が下がるんじゃないか? 燃えない木に、そこまでの需要があるとは思えないけど」


 ぱっと使いみちが思い浮かばないもん。


「常に湧くモンスターじゃないんです。特別な場所で稀に湧くモンスターで……だから高値が付くんですね」

「そもそも供給が少ないのか。それなら、ここの木を切って売ればいい値段になりそうだな」


「斧でも持ってくれば良かったですね」


 ホトゥルナが言った瞬間に、俺は彼女の肩を掴んだ。ぐいとこちらに引き寄せて、姿勢が崩れた彼女の体を受け止める。


「きゃっ……。な、何ですか急にっ……!」

 

 驚愕に目を見開いて俺を見るホトゥルナを横目に、俺は並んだ木の一本を指差した。 


「三つ先の右の木。モンスターだ。横を通った瞬間に襲われる」

「えっ……?」


 未来視を使っていて助かった。知らずに通って居たら、木に押し潰されて死んでいた。


「さっき言ってた……なんだっけ?」


 忘れちゃった。我ながら鳥頭だな。


「トーチャー?」

「たぶんそれだ。顔の付いた木で、根っこを使って動いてた」


「腕はありました?」 

「無かった」


「試しに射ってみていいですか……?」

「ちょっと待ってくれ。もう少し距離を取ろう」


 わざわざ近くで試す必要は無い。追いかけられても逃げられる場所で試すべきだ。

 素早く静かに曲がり角まで戻って、俺は周囲を警戒しながらしゃがみ込む。俺の横、右斜後ろでホトゥルナが矢を構えた。


「もうバレてますかね?」

「分からん。ただ、俺たちが横を通るまで動きは無かった」


「射ちます。牽制なので、倒すほどの威力はありません」


 ホトゥルナがいつも使う、半透明の魔術矢。特に特殊な効果はない、ただの矢だ。

 きりきりと鳴る弦。最近、彼女がどれくらい力を込めているのか聞き分けられるようになってきた。これは五割くらいの力だろう。


 未来視を使う。彼女の矢が当たったらどうなるのかを予知して、どう動くべきかを知るために。


「当たったらすぐに動きだす。木の陰に隠れよう」 

「はい」


 ホトゥルナの返事。すぐに、ひゅん。と音が鳴った。


 真っ直ぐに飛んだ矢は、俺の言った木に命中。瞬間、木がもぞもぞと動き始めた。

 ホトゥルナと共に、木の影に転がり込む。 


 ミシミシと音を発しながら、そのモンスターは小道へと躍り出た。

 一般的な広葉樹の幹。根本に行くほどに太くなっていて、でこぼことした樹皮は乾燥し、鱗状にひび割れている。広げた枝の先は他の木々と同じ様に燃えていて、動くたびに火の粉が散った。


 異彩を放つのは幹の真ん中にある大きな顔。人間のような目鼻がある訳ではない。そう見える穴が空いているのだ。暗い穴で、目のように見える穴が二つ。その下に、一回り大きな口に見える穴が一つ。

 

 ムンクの叫びを彷彿とさせる不気味な表情。穴の中が真っ暗なのも相まって、不安を煽るような面持ちである。

 不気味な樹木の化け物は、キョロキョロと周囲を見渡して、自らを攻撃してきた相手を探している。ミシミシと鳴る幹、散る火の粉、鳴る枝。根っこがタコの足の様に蠢いて、体を持ち上げる。 

 

 息を殺し、モンスターがおとなしくなるのを待つ。幸いこちらには気が付いていない。動く必要も無いだろう。

 二度、三度と、体を回転させて周囲を伺ったモンスターは、敵を見つけられず、元いた場所へ戻っていった。


 声を抑え、ホトゥルナが囁く。


「あれがトーチャーです。見ての通り、燃えている動く木で、炎を押し付けたり、幹で押しつぶしたりしてきます。他のダンジョンだったらレアなモンスターで、湧いても一匹なんですけど、このダンジョンだと違うみたいですね」

「どうする? 一本道でやり過ごすのは無理だぞ」


 森の中を無理やり進もうとすると、あまりの熱さにやられてしまう。道沿いはまだマシな熱さなのだ。


「せっかくなので、トーチャーについて詳しくお話します」


 俺の質問に答える事はせず、ホトゥルナはいたずらっ子の様に笑った。尖った犬歯がちらりと覗く。


「聞こうか」


 俺は表情を固くして、小さく言った。もちろん動揺を隠すためだ。カッコつけてる訳じゃない。


「トーチャーはC級のモンスターで、高い生命力と物理的なダメージへの耐性を持ってます。殴打や斬撃が効きづらくて、傷つけても再生してしまう。さらには、植物型モンスター共通の、『炎に弱い』という弱点も克服したとんでもないモンスターです」

「おいおい。絶望的じゃないか」


 今の所は無敵のモンスターに聞こえるぞ。たぶん前フリなんだろうけど。


「トーチャーは、その炎が燃えている限り、自身の体を再生させてしまいます。穴を開けても平気で再生しちゃうんですね」


 あ、何となく分かったぞ。


「つまりあのほ__」


 口を塞がれた。何でだ。

 彼女は俺の口に手を当てたまま、非難するように眉間に皺を寄せる。


「良い所をとらないで下さいよ……! せっかくいい感じに話したんですから……!」


 オチを取るなということらしい。おとなしく聞いておこう。


「気を取り直して、説明を続けますよ。トーチャーの生命力は、あの炎なんです。あれが燃えている限り死なない。逆に、あの炎が消えたら死んじゃうんですよ」

「つまり?」


「私の前ではただの雑魚です」


 凛々しい表情で、ホトゥルナはそう言い切った。

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