鉱石採取と無駄話
カン! カン! と響くのは、鉄のツルハシが岩を打つ音。
砂の広間を進んだ先、黒い光沢を放つ石を見つけた俺たちは、これはきっと価値あるものだと回収することにしたのだ。
「ふぁいとーです。頑張って下さい」
ツルハシを振るのは俺。ホトゥルナはそれを横目に、蟻や蛙がやってこないか警戒している。
「これ回収したら次の部屋に行きたいな」
「ですね~。ここから奥に行くには崖を上らなきゃ駄目みたいですし、ちょうど良く扉もあるし、これはさっさと次の部屋に行けって言われてるような物ですからね」
俺たちが居る小部屋の奥、砂岩の壁に張り付いている見慣れた扉。あの扉を使えば、別の部屋に行けるだろう。
暇なので適当に話をする。ツルハシを振り続けるのも飽き飽きしてるのだ。
「さっき使ってた雷の矢、あれって自分は痺れないのか?」
「魔力の操作を間違えたら感電しちゃいますよ。さすがにそんなヘマはしませんけど」
「あ、やっぱり感電するにはするんだな。自分だけは効かないなんて便利な事は無いか」
「そもそも矢の形にして射ち出すのが間違いなんですけどね。魔術師は自分の魔術に触ることなんてありませんし」
「……前言ってた、弓使いは不人気って言うのを思い出すな」
「敢えて弓使いを求めるパーティーなんてありませんからね。自分で言っててあれですけど」
「俺は普通に強いと思うけどなぁ……。単体攻撃しか出来ない訳でもないし」
「世の中の弓使いが、みんな私と同じこと出来る訳じゃないですからね。私、弓使いとしては上位の人間なんですよ! これでも、弓術はAなんですから!」
「ピンとは来ないけど凄そうだな。Aってだけで高いのが分かるぞ」
「あ、実はそんなに凄くないです。基礎の基礎ですし。Sにまで行けばかなりの物なんですけどね」
凄くないのかよ。……いや、騙されんぞ。これは弓使いの中では基礎ってだけで、俺のような人間からすれば十分に凄いんだ。
「Sになるにはどうすれば良いんだ?」
「もーちょっとコントロールが良ければSだったんですけどね。冒険者になる時のテストだと、魔力が落ちててふにゃふにゃだったんです」
「今やったらSになると」
「なると思いますね。私、弓矢の扱いだけは自信がありますから」
凛々しい表情で言うホトゥルナ。小さい頃から弓矢と触れ合って来たんだ。その言葉に嘘は無いのだろう。
「他にどんなスキルがあるんだ? 結局教えてくれなかったよな」
「全部言ってたらキリが無いですからねぇ……。炎以外の魔術矢はBで、炎矢はC。曲射とか同時展開とかもBですね。というか、試験を受けた時がふにゃふにゃ過ぎて、全部ワンランク下になってるんですよ」
「受け直さなかったのか?」
「スキル認定だけ上がっても、冒険者ランクが低かったら受けれるクエストは変わりませんから。スキル検定もタダじゃないし」
「そういうことか……。なにするにも金が掛かるんだなぁ……」
「スキル検定とか昇格試験の検定料は、ギルドの貴重な収入源ですからね。しょうがないと言えばしょうがないです」
そんな会話をしていれば、鉱石の一つが地面に転がった。あと二つ。まだまだ掛かりそうだ。
「ねえねえタナカ。暇なんだったらさっきの話進めましょうよ。ほら、タナカの未来視と私の弓矢のコンビネーション! 実戦で使えるようになったら便利ですよ」
「そう言われてもなぁ。実際に矢を射ちながら調節しないと難しくないか?」
「それはそうですね……。なら、ダンジョンから出たら練習しましょ。適当な木とか的にして」
「おう。分かった」
構えてから射つまでの時間とか、着弾するまでの時間とか、そういうのさえ分かればもっとスムーズに使えるはずだ。合図は適当に決めればいいだろ。
「こっちに気が付いてない相手の弱点を一方的に探れるってだけで、とんでもない価値がありますからね。それがスムーズに出来るようになれば、格上にだって太刀打ち出来るようになるかもしれませんよ」
「ミノタウロス相手にもそこそこやれたしな」
「そうですよ! 私たち、B級のモンスターだって倒せたんですから! もっと強くなれますよ!」
ホトゥルナが嬉しそうに言うのを聞きながら、俺は思い切り刃を振り下ろす。
がきん! と硬い音。散る火花。鉱石の周囲を覆っていた硬い岩が砕けて、鉱石が床へと転がった。
あと一つだな。頑張ろう。段々コツも掴めてきた。
「私、武器を新調したいんですよね」
「あれ? 最近新しくしたばっかりなんじゃないか?」
「はい。……けどですよ! タナカの血が吸い放題なら、もっと引くのに力が必要な弓も使えるんです。せっかくなら、威力も射程も上の弓を使いたいじゃないですか!」
俺の血があれば筋力も上がるのか。……そう言えばそんな事言ってたな。
「血を吸ってなかったら、たぶんさっきの蛙に矢が弾かれてましたからね。刺さるとは思ってませんでしたもん」
「あ、そうなのか。かなり深く刺さってたぞ」
頭蓋を貫通して、矢の半分以上が見えなくなっていた覚えがある。あれなら、雷の効果が無くても倒せていたかもしれない。
「限界まで引いて射ちましたからね。あれが今の弓の限界なんですけど……」
十分な威力だと思うけど。……自分の最高火力を追い求める気持ちは理解できるから、口にしないけどね! ロマンは大事!
「血を吸ったらどれくらい筋力が上がるんだ?」
「どれくらいなんでしょう……。測ってみないと分からないです……」
「吸えば吸うほどって訳じゃないよな?」
お腹いっぱいになったら終わりだよね?
「毎日吸ってたら力も上がると思います。ヴァンパイアってそういう生き物ですから。一度に吸血できる量には限度がありますけどね」
「それなら、もうしばらく吸ってから新調した方が良いんじゃないか? 急いで買っても、また筋力が上がって買い換えなくちゃいけなくなるぞ」
「それもそうですね。確かにそうです。……一週間くらい、毎日吸ってからにしましょうか」
「それが良いぞ。何なら、一週間ここで稼いでから地上に戻れば良いし」
「あれ……? 一週間分、宿代払ってましたっけ? 追い出されちゃいません?」
「ん……。確かにそうか。一週間は無理だな」
何日だっけ。5日分とかだった気がする。
カンカンと岩を打つ音が響く。最後の一つが中々しぶとい。歯の様な形で奥に入り込んでいて、奥までしっかり掘らなきゃ取り出せない。……時間掛かるなこれ。
「タナカも、新しいナイフ買ったらどうです? そのナイフ、本当にただのナイフですよね?」
「ああ。何の変哲もないただのナイフだ」
魔術的な効果とか皆無だ。
「魔法も魔術も使えないんですし、武器ぐらいは魔術攻撃できる方が良いですよ。この前のミノタウロスだって、もうちょっと良いナイフ使ってたらタナカだけで倒せたんじゃないですか?」
「無理じゃないか……? 刃が肉の下まで届いて無かったぞ」
あいつ、筋肉が分厚すぎるんだよ。心臓とか狙うには刃の長さが足りなかった。
「刺したら炎で焼くとか、雷が流れるとか、そういう事ができる武器なら筋肉とか脂肪とか関係ないですよ」
「ああ~。そんな武器見せてもらった気がするな」
めちゃくちゃ高かったから買わなかったけど。
「今度一緒に武器を探しましょうよ。タナカが囮以外も出来るようになったら、戦える相手も増えます」
「そうするか」
ホトゥルナに頼り切りなのも駄目だからね。何かあって彼女が戦えなくなったら大変な事になるし。……そうなったらさっさと逃げろって話だけど。
くっそ……。この鉱石しつこいな……。なんでこんなに細長いんだよっ!
心の中で悪態をつきながら、俺はひたすらにピッケルを振る。
「掠れば一撃で倒せる! みたいな毒薬があれば、タナカも一気に最強の座を目指せますよ! 自分の指を切ったりしたら一巻の終わりですけど!」
「絶対事故死するぞ」
自信がある。
「最強のナイフ使い、自分の指を切って事故死! 情けないですね」
「ベタ過ぎて笑い話にもならないだろ……」
「作り話にしか聞こえませんもんね! 笑い話にも出来ない死に様って相当ですよ!」
「大体の死に様は笑い話にならねぇだろ!」
むしろ笑える死に方の方がレアケースだ。それに、俺はそんな死に方をするって決めた訳じゃないからな。
「そう言えばタナカ。このダンジョン、やけに炎属性のモンスターばっかり出てくると思いませんか?」
おん? 考えたことも無かったな。
「確かに……そうか……。火を吹くウサギに爆発する蟻に、鬼火……」
「最初に見つけた泉も炎の魔力を含んでましたし、このダンジョン、炎の魔力が多いんでしょうかね」
「かもなっ」
俺は短く返して、ピッケルの刃を奥の岩に食い込ませた。てこの要領で、鉱石を無理矢理に引きずり出す。
「……炎を使うモンスターって、水とか氷に弱いのか?」
「効くモンスターは多いですね~。体温が高いから、温度下げるだけで良いダメージになる事はあります。体温が高すぎて水が蒸発しちゃうこととかもあるんですけどね」
「何だそれ……。そんな事もあるのか」
体重を掛けてしばらく押したり引いたりを繰り返していたら、ようやく最後の一つも掘り出せた。
鞄にしまい、ホトゥルナに報告する。これが掘り出せたら、ここに用は無い。
「掘り終わったぞ。次の部屋に行こう」
「はいはーい。結構かかりましたね」




