鬼火と蟻と時々蛙 (上)
インフルでした! 無理だと判断したら、更新が数日停止します!
予防接種した年だけかかるのは何なんですかね!
追記:前の話、書き換えたと思ったら書き換える前の掲載してたので、こっちの話を適当に書き直します。たぶんぼーとしてたんだと思います。すまぬ
暗い暗い洞窟の中、光の跡を伴い躍る、青い炎の玉ひとつ。
ひゅんと飛んだ水の矢が、その玉に命中した。
じゅっ!
炎の玉はあっけなく消えて、後には青く輝く粉だけが残る。
「この部屋はこればっかり出ますね。一撃で倒せるから問題は無いんですけど」
ホトゥルナが弓を下ろす。彼女の言う通り、この部屋にはこの、青い火の玉のモンスターしか出てきていない。
「この粉って集めたら高く売れたりしないのか? キラキラしてて綺麗だぞ」
地面で輝く粉を指差す。触ると少し暖かくて、手につくと中々落ちない。
「同じ様なモンスターが、同じ様な粉を落とすんです。鬼火ってモンスターなんですけど、弱くて簡単に倒せるから売値も高く無いんですよね」
「集めるほどの物じゃないか……」
「色が違うから、もしかしたら高く売れるかもしませんけど……。集めるのめんどくさくないですか? 砂とか混ざっちゃいますよ」
「確かになぁ……」
粉を落として、俺は先に進んでいたホトゥルナを追いかける。
魚釣りをしていた二人と別れた俺達は、あの赤い光に満ちた部屋を抜けて、ここにやってきていた。
俺たちが歩いているのは、狭くて細い岩の小路。狭いくせに天井が高くて、話し声がよく響く。明かりを掲げても天井が照らせないから、相当高い天井のようだ。
「あ、またいたぞ」
ふわふわと上下に漂う炎の玉。青い炎は温度が高い物だと思っていたが、この炎は熱くない。ほんのりと温かい程度だ。
正直ほっといても良い気もするのだが、弓使いとしての本能か、浮いている的があったら狙いたくなるらしい。
飛ぶ矢。炎が消える音がして、青い粉が宙に舞う。
「これで10匹目! 鬼火を相手に延々と矢の練習してたの思い出しますね」
「弓矢の練習法ってそんななのか……?」
「狙いを付けながら魔力を練るっていう、弓使いに必要不可欠な技術が身につくんです。昔は、半日ぐらいずっとやらされたものですよ。懐かしいなぁ」
「また過酷な訓練を……」
スパルタ過ぎやしないか……? いったいどんな教育を受けてきたんだか……。
「お陰で今の私があるんですけどね。どうです? タナカも弓の練習してみませんか? 未来が視えるなら、たぶん相性もいいですよ」
「そりゃ魅力的だが、俺は矢を作れないからな。おとなしくナイフを使うよ」
「あ~そう言えばそうでしたね」
分かれ道を二回曲がる。最初の方針として、この部屋は常に右に曲がるようにしている。最悪入り口に戻れるようにね。
進んでいた俺は、角の前で足を止める。視えたのは数匹の蟻。壁や床を忙しく動き回って、何かを運んでいる。
「……この角の向こうに別のモンスター。大きめの蟻。そこそこ居る。戻るか?」
「蟻ですか。あの二人が言っていたモンスターですかね?」
「可能性は高いだろうな。爆発するらしいから、あまり近寄りたくないが」
「 一匹だけ誘い出せたりしませんかね」
「タイミングを見て石でもぶつけてみるか……。ちょっと待っててくれ」
床に落ちている小石を手の中に。未来視を使って、一匹だけが反応するタイミングを伺う。
失敗すると大量の蟻が突進してくる未来が視えるから、成功のタイミングがわかり易くてありがたい。少しでも間違えたら、その光景が現実のものになるのだが。
ここか。
角の向こうに腕だけ出して、握った小石を指で弾けば、それは一番手前にいた蟻の頭にコツンと当たった。
「来るぞ。ご注文の通り、一匹だけだ。もう少ししたら、あの角から出てくる」
素早く下がってホトゥルナに伝える。彼女は既に矢を番えていて、準備万端といった様子だ。
彼女は小さく、「さすがですね」とだけ呟いて、角の先、出てくるであろう敵に向けて狙いを付けた。
出てきたのは赤い蟻。大きさは大型犬ほど。かなりのサイズだが、地面を這っているお陰か威圧感などは無い。
その赤い甲殻は、真紅と言うよりは黄色味を帯びたオレンジに近い色で、カニの殻によく似ていた。
こちらに気が付いた蟻は、ガサガサと音を立てながら俺たちの方へ歩いてくる。口元にある鋭い牙が、ランタンの光を浴びてギラリと輝きを放っていた。
噛まれたら痛そうだな……。
「試しに一発……!」
小さめの掛け声。空を切る矢と硬い音。
真っ直ぐに飛んだ矢が蟻の頭部を貫いて、蟻の身体が地に伏せた。
__その直後、ボコン。と何かが膨らむ音が、薄暗い洞窟に響く。
見れば、蟻の腹部がパンパンに膨れ上がっていた。
ぼん! と乾いた鈍い破裂音。蟻の腹部が、炎を撒き散らして弾ける。
「うわぉ……。爆発しましたね……」
「あの二人から聞いた通りだったな。毒とか投げりゃ殺せるらしいけど、毒の魔術とか使えないか?」
「毒矢は打てますけど……。たぶん矢の部分で殺しちゃって爆発しますから、普通に倒すのと変わらないと思います」
「そうか……音自体は大したことなかったから、他の蟻にはバレてないみたいだ。どうする。他の蟻も片付けるか……?」
「あと何匹くらい居るんですか?」
「10匹は居ない。手前に3匹。奥に4匹か5匹。俺の視えた範囲に居たのはそれだけだ。もっと奥に居る可能性もある」
蟻は1匹いたら100匹居ると思えって言われてるからね。……あれ? それって蟻だっけ?
「誘爆して全滅してくれれば楽なんですけどね」
「無理じゃないか? あれだけ盛大に弾けた腹もしっかり形が残ってる。炎には耐性がありそうだぞ」
「やっぱりそう思います? 囲まれたら大変な事になりそうですし、気合で全部射抜くしか無いですかね」
「そんな事出来るのか……?」
「同時に27までなら射抜けますよ。……それ以上撃つと精度が下がりますから、あんまりいっぱい来ると手こずっちゃいますけど」
「凄いな……」
格好良いなおい! 俺もそんなセリフ言ってみたいぞ!
「ほら、タナカと追いかけっこした時に使った多重展開ですよ。覚えてます?」
「あれか。あれ27本も展開出来たのか」
何本も同時に射ってたね、そう言えば。
「あの時は手加減してましたからね。あ、27本も同時に操作したらとんでもない魔力使っちゃうから、その時は血、飲ませて下さい」
技としては手加減してたんだ。威力はガチだったけど。
「それは構わないぞ」
「ようし。そうと決まればちゃちゃっと仕留めちゃいましょう! タナカ、適当におびき寄せて来て下さいな」
弓を構えるホトゥルナに「りょーかい」と手を振って、俺は通路を進む。
角を曲がると、一番手前に居た蟻が俺に気が付いた。
ひいふうみい……。あ、良かった。7匹しか居ないな。奥を見ても追加の蟻は居ない。とりあえず未来視を使って警戒しておくが、この周囲に居るのはこの7匹だけみたいだ。
触覚を震わせ、小さく鳴く。さっきはこんな動き見せなかったが、仲間に伝えているという事か。
賢いんだな。……サイズが上がれば脳も大きくなるから、当たり前なのかもしれないけど。
一斉に、一糸乱れずぴったり同時に、7匹の蟻が俺の方向へ振り返った。
「……おおう。一気に振り向かれると、中々クるものがあるぞ……!」
カチカチと牙を鳴らして突進してくる蟻。未来を視る必要すらない。追いつかれたら噛みつかれて美味しく頂かれてしまう。逃げろ逃げろ!
急いで身を翻し、元いた通路に。奥で矢を構えたホトゥルナが見えた。
番えた矢は一本。しかし、いつもより強い輝きを放っている。後から別れるタイプなのかな?
「来たぞホトゥルナ!」
走りながら叫ぶ。背後からガサガサと足音が聞こえる。
「そのまま真っすぐ走って下さい! 横にずれたら当たりますよ!」
「分かった! 頼むぞ!」
最悪、未来視を使えば躱せるのだが、ホトゥルナが当たらないように気を使ってくれるならそっちの方が楽だ。万が一があるから、一応未来視は使うけどね。
真っ直ぐに、ホトゥルナの方向へ走る。言われた通りに真っ直ぐに。
「魔力練っちゃったので、27本同時に行きますよー!」
ホトゥルナの声と共に、その右手の輝きが弾けた。若草色の髪が風に揺れ、その顔を白い光が照らす。
放たれた矢。その輪郭が滲んだと思えば、1が3に。3が9に。瞬きをする間も無く、それは10を超える数に。
3の倍数で増えるシステムなんだ……。なんて事を思いながら走る。おそらくは27本に別れたのだろう。
別れた矢はまるで意思でもあるかの様に、俺の身体を綺麗に避けて真後ろへと飛んでいく。
顔の近くを通った一本が空気を揺らして、ふわりと肌を撫でた。当たらないと分かってても、中々怖いぞこれ!
硬い甲殻を貫く音。
もう大丈夫か? なんて事を思いながらも走り続ければ、少し遅れて背後から爆発音。
「終わりましたよ! 全部きっちり当てました! やりすぎた感じはしますけどね!」
振り返れば、頭を矢に貫かれて息絶えた蟻たち。二本も三本も刺されて、少し可愛そうだ。
「いっぱい来たら大変だと思って用意してましたけど、無駄でしたね。結局無駄に魔力を使っちゃいました」
「凄いな……! 感動したぞ!」
強くて綺麗で格好良い。最高だな!
小学生みたいな感想しか出てこないけど、実際凄かったんだから語彙力も失うと言う物だ。
俺もあんな魔術を使ってみたいぞ! 無理だけど!
「ふふん! 凄いでしょう!」
腰に手を当て自慢気なホトゥルナ。
本当に手加減してたんだな。と改めて思ったけれど、言う必要もなさそうだから黙っておく。嬉しそうな彼女にわざわざ伝えることでも無いだろうからな。
「仲間が来るかもしれませんから、急いで蟻の死体を回収しちゃいましょう! ……高く売れるかは分かりませんけど、銀貨1枚分くらいにはなってくれるんじゃないですかね」
緑髪の彼女は、鼻歌混じりに上機嫌。大きな蟻の身体を引き摺って、手早く鞄に詰め込んでいく。




