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未来が視えるよ田中くん! 〜Eランク冒険者は、貰ったチートで平和に過ごしたい〜  作者: ____
第一章 Eランク冒険者は、貰ったチカラで平和に過ごしたい
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ソーディの宿

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 さあ、どうしようか。


 木綿のズボンのポケットに、銀貨の入った小袋と貰った冒険者のライセンスを突っ込んで、俺はそんな事を考えていた。


 無事に金を引き出して、冒険者ギルドを後にしたのは良いのだが、跳ね橋を渡った所で足が止まった。


 この街の事、俺は何も知らないんだ。散歩でもしながら、街の様子を観察しようか? いや、待て、銀貨十枚もおそらく大金だ。半分くらいどこか安全な場所に保管したいぞ。


 そうだ。まずは宿を探そう。服やら金やらを置いておくための場所が必要だ。


 そうと決まればのんびりしている暇は無い。カリーナはこの近くに宿屋があると言っていた。探してみよう。


 人の波の中を、看板を見ながら進む。

 未来を見る力……いい加減長いな。これからは未来視と呼ぼう。未来視を使って歩けば、余所見をしていても人にぶつかる心配が無い。とても便利だ。


 冒険者ギルドの目の前の通りにあるのは、武具や防具、薬や魔術書を扱う店のようで、宿屋は見当たらなかった。中を覗いて行きたいが、そんな気持ちをぐっと堪えて歩を進める。


「コールマンの武器屋を覗いていかないかい? 今なら在庫処分のセール中だよ!」


 セール。魅力的な響きだ。なるべく金は節約したいし、そんなに大仰な武器も必要ない。宿が見つかったら、ここで武器を探そうか。


「サルサル印の回復薬はいかが!? 打撲に切り傷、火傷に凍傷! だいたいなんでも治せるよ!」


 だいたいってなんだ。だいたいって。そこは明確にしとけ。


「シリ防具専門店は使わなくなった金属製の防具を下取りします! 鎧や盾の買い替えなら、ぜひ当店をご用命下さい!」


 下取りなんてやってるのか……。もしかしたら、俺の服も買い取ってくれたかもな。たぶん、カリーナ以上の金額は出してくれないだろうけど。


「あの有名魔術師スヴェンの新作魔導書が入荷! 残り少しだよ! 早い者勝ち! 早い者勝ち! 買い逃しても知らないよ!」


 新作魔導書……。気になりはするが、俺は魔術も魔法も使えない。買った所で豚に真珠、猫に小判。無駄な買い物は控えよう。


「いやぁ……相変わらず、昇格試験後はどの店も活気があるねぇ……」


 通行人の話が聞こえてきた。そう言えば、つい一週間前に昇格試験があったと聞いたな。こんなに人が多いのはそのせいなのか?


 何となく、通りの角を曲がってみる。特に考えがあった訳じゃないが、どうやらこの通りが宿泊街みたいだ。冒険者ギルドのあった通りと比べると人は少ないが、それでも人は少なくない。


 一番近くにあった『ホテルセラス』に入ってみようかと思ったが、めちゃくちゃ高級そうな雰囲気なので止めておく。

 

 「疲れない」というのが本当なら、別に良い部屋に泊まる必要はない。鍵がかかる部屋で十分だ。


 お。ここにしようかな?


 通りの中ほどまで来た所で、いい感じの宿を見つけた。『ソーディの宿屋』と書かれた吊り看板。建物は古びていて、サイズもほどほどだ。

 

 両開きの扉を押すと、チリンチリンと鈴が鳴る。


「お? お客さんかい。この宿に目をつけるとは、お兄さんもなかなか見る目があるね」


 カウンターに座った男が、気だるそうな低い声で言う。痩せていて、無精髭を生やしていて、そして眠そうな目をしていた。


「なるべく安い宿を探してるんだ。一泊はいくらか教えてくれないか?

「朝夕の食事付きなら銅貨四枚。無しなら二枚」


 安いぞ……? こんなに安いと逆に不安だ。


「おいおい。露骨に嫌な顔するなよ! 一週間以上の宿泊で、纏めて払ってくれるなら、少し安くするぞ」

  

 値段に対して文句がある訳じゃないのだが、良い方に勘違いしてくれたようなので何も言わないでおこう。


「部屋を見せてくれないか?」

「構わないぜ」


 男は言うと、俺に向かって鍵を投げた。  


「階段上がってすぐ左の部屋だ」


 言われた通り、俺は階段を上がって、一番手前にある左の扉を開けた。あまり建付けはよく無いようで、開けようとするとガタガタと音を立てる。


 割と普通の部屋だな……。 

   

 ベッドはきちんと整えられているし、シーツも使い古されているが清潔だ。壁に付いているスイッチをひねると、天井に吊るされた照明が光った。


 電気? なのか? まあ、明るければ何でも良いか……。


 果たしてこの世界に電気という概念はあるのか。あったとしても、一般に普及しているのだろうか。時間があったら調べてみよう。

 

 部屋には机と椅子。そして小さな衣装箪笥の様なものもある。やはり、長期の宿泊客を意識しているのだろう。


 一度扉を閉めて、中から鍵を掛けてみる。ドアノブを捻って数回押し引きするが、扉が開いてしまうようなことは無かった。


 十分だ。予想以上にいい部屋だ。


 この部屋が銅貨二枚。この世界は、予想以上に物の値段が低いようだ。


 部屋の鍵は掛けずに階段を下りる。


「どうだ? 気に入ったか?」

 

 階段を半分くらい下りた所で、カウンターに座った男が聞いてきた。


「ああ。いい部屋だ。とりあえず3日泊まらせてくれ」

「食事は?」


「必要ない」

「了解だ。それなら銅貨が六枚。鍵は渡してるから、それを使ってくれ」


「……今、銀貨しか無いんだ。釣りは貰えるか?」

「銀貨だけ!? 兄さん見かけによらず持ってるんだな……。悪いが、今持ち合わせが無い。適当に崩してきてくれよ」


「支払いは後で良いのか?」

「別に良いぜ。名前を聞かせてくれよ。兄さんはお得意様になるかもしれねえ」


「田中 朱夏だ」

「タナカ。へぇ、変わった名前だな。俺の名前はソーディ。よろしくなタナカ」


「ああ。よろしく」

 

 ソーディとしっかりと握手すると、俺は宿屋を後にする。買い物をして銀貨を銅貨に変えて来よう。

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