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未来が視えるよ田中くん! 〜Eランク冒険者は、貰ったチートで平和に過ごしたい〜  作者: ____
第二章 Eランク冒険者は、仲間とお金を稼ぎたい
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帰還

寝坊しました

「セルジール! 大丈夫かセルジールッ!」


 俺は大きな声を上げながら、床に倒れた獣人の冒険者の肩を揺する。

 仰向けに倒れたセルジール。死んでしまったのかと肝を冷やしたが、その胸は確かに上下している。小さくだが呼吸もしている。


 良かった。生きてる。


「……あ……ん?」


 不快そうに眉間に皺を寄せ、セルジールはうめき声をあげ目を開く。半開きの目で俺を見ると、震える腕で身体を起こした。  

  

「すまん……。気を失ってたみたいだ……。ミノタウロスは……どうなった」

「安心しろ。もう倒した。ダンジョンから出よう。動けるか?」


「倒し……た?」


 壁に手を付き、頭を抑えながら立ち上がるセルジール。信じられないと言った表情で俺の顔を見る。

 肩を貸そうと手を伸ばすが、彼はそれを、俺の肩を掴んで制止する。


「俺の事は良い……。二人の事を……頼む」

 

 立つのすらやっとな状況で、セルジールはそれでも仲間の心配をする。正直、一番危険な状態なのは彼だと思うのだが。


「分かった。行こう」

 

 俺は気絶したセルジールの仲間の女性を抱える。もう一人の男とドワーフの女性は、ホトゥルナが担いだ。背丈がどうしても足りないせいで、村娘を攫う盗賊みたいになっているが、本人は至って真面目なので何も言えない。ドワーフに至っては小脇に抱えられている。


 明らかに身体に負担が掛かるのがホトゥルナの方なので、俺が女性を背負う事になったのだ。お腹いたくなりそうだよね。あの担ぎ方。


 セルジールは、剣を持って数歩進み、そこで膝を付いた。何度も湿った咳をして、剣を杖代わりに何とか姿勢を保っている。


「肩を貸す。一緒に行こう」

「すまん……」


「気にするな。他のモンスターが沸く前に、急いで出よう」


 セルジールの腕を肩に回させて、俺は彼の身体を支える。 

 少し先へ行っているホトゥルナを追いかけ、俺たちは歩く。角を曲がると、ミノタウロスの死体が見えた。出来れば回収して行きたいが、セルジールたちは一刻を争う状況だ。目先の金目当てに、人の命が失われては笑い話にもならない。


 本当に一瞬で仕舞えるだろうが、その一瞬が命取りになる可能性すらあるのだ。

 余談だが、ミノタウロスはそんなに高値で売れないらしい。他意は無いぞ? 


「本当に倒したのか……。あんたたち、相当強いんだな……」


 ミノタウロスの死体を見たセルジールが言う。 


「運が良かっただけだ。……もう喋るな。毒が回ってるんだろ?」

「俺は……毒に耐性があるんだ……。死ぬことは無い……」


「耐性があっても苦しいものは苦しいだろ……」


 気絶しておいて何を言うのか。


「ふ……。それはそうだ……」


 俺の耳元で苦笑交じりに吐息を漏らすセルジール。案外平気……という訳ではなく、からげんきだろう。

 

 モンスターの居ない洞窟を歩き、ダンジョンの外を目指す。モンスターが全く居ないのは、ミノタウロスが現れるのに全ての原初魔力が使用されたからではないか、と、ホトゥルナは言っていた。つまり、しばらくしたら普通にモンスターが湧く可能性があるのだ。


 ホトゥルナはさっきの一撃で殆どの魔力を使い果たしたようで、しばらく休まないと戦えないらしい。あまりゆっくりはしていられない。


 洞窟の先、見知った扉。何度かこの扉を見てきたが、これほど嬉しかった事もない。

 何事もなく扉の外へ。大きく息を吐き、俺たちはようやく足を止めた。セルジールが床に座り込み、顔を下に向けて安堵の声を出す。


「ありがとう……。本当に助かった……。俺だけだったら、きっと今頃死んでいた……」

「早く馬車駅に戻ろう。治療を受けないと……」


「ああ……。ああ……分かった。そうだよな」


 涙ぐみながら、セルジールが立ち上がった。ふらつきながらも自らの足で歩き始める。

     

 螺旋階段を上り、再び扉を開け、ダンジョンの外へ。

 扉の側に置いてあった白い水晶は、床に落ちて割れ、その光を失っていた。その近くには、来る時には無かった岩の塊が転がっていた。これがどこからか落ちてきて、壊してしまったのだろう。


「地震で壊れたみたいですね……。まさか転移石が使えなくなるなんて思ってませんでしたけど、何とかなって良かったです」

「そうだな……。ホトゥルナのお陰だ。ありがとう」


「どういたしまして。……何かこそばゆいですね」


 気恥ずかしそうに、頬をかくホトゥルナ。彼女と共に、洞窟の外へ続く坂道を上る。セルジールは、少し先を歩いてる。


 俺の身体を、湿った風が撫でた。洞窟の出口から星空が覗いている。どうやらもう夜らしい。

 異変に気がつくのが早くて助かった。これが少し遅れていたり、夜が明けてから気が付くなんてことになっていたら、それこそ一巻の終わりだった。 


 一体なぜ、急に強いモンスターが現れたのだろう。やはり地震で何か異変が起きたのだろうか。 


 ……考えても、俺じゃ分からんな。街に帰ったら、カリーナとかに聞いてみよう。


「ん……」


 聞き慣れない声。ホトゥルナに抱えられたドワーフが、もぞもぞと身動ぎする。どうやら目を覚ましたようだ。


「……あの~。ここはどこやろか」   


 横にいる俺を見て言う。もちろん担がれたままだ。

 垂れた目。太めの眉。茶色の髪は三編み。頬はふっくらとしていて、どこかたぬきのようだった。


「ダンジョンの外だ」

「ダンジョンの外……。つまりウチは助かったんやな! いやぁ……死ぬかと思ったけど、何とかなるもんやぁな!」


 たぬき似のドワーフは、そう言うとホトゥルナの腕から抜けて、軽やかに地面へと着地する。


「あ、犬耳のあんちゃん!」


 ドワーフの女は、先を歩くセルジールに声を掛けた。変わった発音だ。方言か何かなのだろうか。

 

「目を覚ましたのか……」


 ボロボロのセルジールが振り返ると、ドワーフの女は驚いたように声を上げる。


「あんちゃんボロボロじゃないか! 何があったのさ」

「あんたを助けた後、スモークの群れに襲われたんだ……」


「へぇ! スモークの群れ! よく逃げたな! あ、ウチはプーチノって言うんや! あんちゃんたちのお陰で助かったわ! ありがとうな!」

「俺たちも、そこの二人に助けられたんだ……。礼ならその二人に言ってくれ……。運が悪けりゃ……俺もあんたもポイズンリザードの腹の中だ……」


「そうなんか! ありがとうな!」


 プーチノは大きな声で言う。さっきまで気絶していたとは思えないほどの快活ぶりだ。血で汚れた身体をよく見ると、どうやらそれは他の人間の血のようで、彼女の肌には目立つほどの傷はない。


「犬耳のあんちゃんを回復してあげたいんやけど、魔力がすっからかんなんや。誰か、魔力回復薬とか持ってないか?」


 俺は首を横に振る。そんなものは無いぞ。

 持っていないのはセルジールも同じようで、肩を竦めている。


「そうかぁ……。残念やなぁ……。助けて貰ったのに、回復の一つも出来んかぁ……」


 眉を下げて言うプーチノに、ホトゥルナが声を掛けた。


「下層では何があったんですか?」

「ああ! 聞いてやぁ! あのな、急にB級のモンスターがわんさか現れてな! これでもそこそこ頑張ったんやけど、魔力が切れて死にかかったんや! いやぁ、大変やったで!」


「B級のモンスターがわんさか……? アラクネだけじゃなかったのか?」


 セルジールが信じられないと言わんばかりに口を出す。


「ミノタウロスやらアラクネやらガーゴイルやら……。戦わんかったけど、ドラゴンもおったなぁ……。いやぁ久しぶりに死ぬかと思ったわ!」


 軽い調子で言うプーチノ。

 ミノタウロスと同じくらいのモンスターが沢山……? 

  

「ミノタウロスと同じくらいのモンスターを倒したのか……?」

「せやでぇ。これでもA級の冒険者やからなぁ。魔力さえ切れなきゃ、もうちょっとやれたんやけどなぁ……」


 残念そうに言うプーチノ。ホトゥルナと出会った時に痛感していたが、人を見かけで判断しては駄目らしい。

 

「それにしてもどうしたんやろなぁ……。急に転移石が使えんようになるし、モンスターが馬鹿みたいに湧くし。皆、何か知らんか?」

「転移石が使えなかったのは、本体が地震で壊されていたからだ……。落石で壊れてた……」


 セルジールが言う。あの水晶、本体って呼ぶんだ。


「はぇ~。でっかい地震やと思ったけど、そのせいなんか。いやあ、腕試しに何匹倒せるかやったろう! とか思わんで、さっさと逃げとけば良かったなぁ」

 

 B級のモンスターの群れを見て、何匹倒せるかやってやろうって、これがA級の冒険者の強さという物か……。

 そう思うと同時に、俺が思い出すのはウリダラの事。


 S級ってやっぱりヤバい人なんじゃないか? 


「助けて貰ったお礼は、駅に戻ってからさせてくれな。とりあえず、駅に戻ろうや」


 丁度プーチノが言ったタイミングで、俺達は洞窟の外と抜けた。

 馬車駅まではもうしばらく掛かるが、ここからはそう危険なモンスターも出ない。普通に帰る事が出来るはずだ。

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