↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来が視えるよ田中くん! 〜Eランク冒険者は、貰ったチートで平和に過ごしたい〜  作者: ____
第一章 Eランク冒険者は、貰ったチカラで平和に過ごしたい
13/345

不思議なかばん

 やっと抜けたけど……もうそろそろ夜が明けそうだな……。


 帰り道を見失った俺は、数時間に渡って森を彷徨い、やっとの思いで森を抜けたと思ったら、既に月はかなり下に落ちていた。まだ日は昇っていないし、空も明るくなっていないが、そろそろ朝になるだろう。


 こんなことならゴブリンに道案内を頼むべきだった……。いや、途中で何度かモンスターに襲われたし、それは駄目か……? 


 まあ良いや……。とりあえず、一回宿に戻ってかばんを詳しく調べよう。ハウォンヌルから渡されたかばんはなにやら不思議な力を持っているらしいが、詳しく分かっていない状態で使うのは少し怖い。それに獣臭いから洗いたいし……。


 街へ戻るのは簡単だ。壁の方向に歩けばいい。俺の足は未だに軽い。全く疲れという物を感じていないのだ。カリーナの言っていた様に、俺の身体は疲れないらしい。ただ、腹は減っているし喉は渇いているし、何なら尿意もある。


 軽く脱水症状気味だ。


 どうやら俺の身体は『疲れない』だけであって、それは栄養が必要じゃないと言うことじゃないらしい。いや、まだ栄養補給が必要かどうかはわからないんだけど。


 少なくとも水は必要だ。昔、脱水症状になった事があるけれど、こんな感じだった。


 普通ならもうぶっ倒れているだろうから、スキルはしっかり役に立っているみたいだ。水分さえあればなんとかなるのならありがたい。


 ただ、空腹感が無くならないのは不便だぞ。そこは空腹感も無くして欲しい。


 そんな事を考えている内に壁の近くにやって来た。さあ、門が見えるまで歩こう。


 円形の壁に沿って歩けば、五分も掛からない内に門が見えた。大きな門は閉まっているが、横の扉は開いている。


 門の横で、鎧を着た衛兵が座り込んで居眠りしていた。起こさない方が良いのかな? 居眠りするのはどうかと思うけど、まあ時間も時間だから仕方ないのかもしれない。


 ふと空を見れば、地平線の端が赤と青に色付いていた。そろそろ日が昇る。


 くぐり戸を通って壁の内側に入れば、眼前に広がるのは静まりかえった街。昨日の夜はあれほど賑わっていた飲食街には、人影の一つもない。 

  

 宿に戻るために道を行く。まだ暗いが、どこからかパンを焼く匂いが漂ってきた。やはりどの世界でも、パン屋は早起きらしい。


 冒険者ギルドの前も人は居なかった。ギルド前の跳ね橋は上がっていて、敷地の中に入れないようになっている。残業とかしてないのかな? ホワイトな職場なのか、それとも一度帰るタイミングを逃すと泊まり込み確定のとんでもない職場なのか。今度カリーナに聞いてみよう。


 そんなこんなで宿屋街へ。相変わらずここにも人は居ない。

 数分歩けば、ようやくソーディの宿へ着いた。扉は閉まっているが、鍵は掛かっていない。扉を開けるとちりんちりんと鈴が鳴る。


 カウンターに人は居ない。ソーディもさすがに寝ているのだろう。あまり音を立てないように注意しながら階段を上る。

  

 鍵を開け部屋の中に。


 ようやく帰ってきたな……。


 明かりを付け、大きく息を吐いて、俺は床に座る。ベッドに座らないのは、身体が汚れているからだ。数時間に渡って森の中を駆けずり回ったせいで、俺の身体は綺麗とは言い難い。服の所々には獣の血も飛んでいるし、ズボンは裾や膝の部分が土で汚れていた。


 ソーディに頼んで洗濯してもらおう……。ついでにシャワーも浴びたいし、水も飲みたい。


 さて、ソーディが起きてくるまでの時間を使って、貰ったかばんを調べよう。

 

 見た目は普通のかばんだ。かなり獣臭いが、まあそれは気にしない。

 革製で、リュックサックの様な肩紐が付いている。上部に紐で縛られた口があり、紐を緩めるとかなり大きく口が開く。


 中が見えないぞ……。


 明かりをつけているにも関わらず、袋の中が見えない。口のすぐ下から闇が広がっていて、手をつっこんでも底に手が付かない。ぬるりとした生暖かい空気が手を撫でて、なんとも言えぬ不快感を覚えた。


 試しにひっくり返してみるが、何も出てこない。ハウォンヌルは、ひっくり返して洞窟が水浸しになったと言っていたから、何も入っていないということだろう。


 中身の入っていない紙袋を丸めて、中に入れてみる。

 暗闇の中に吸い込まれて、床や地面に落ちる音は聞こえない。どうなってんだ?


 手を突っ込むと、右奥の方に紙袋があった。水中というか、無重力というか、何故か中空に浮いている。掴んで手を引き抜けば、普通に丸まった紙袋が出てくる。うん。濡れたりはしてない。


 もう一度、丸めた紙袋をかばんの中に突っ込む。今度は立ち上がって、思い切り投げ下ろした。


 やっぱり落下音は聞こえない。手を突っ込むと、やはり同じ様に丸めた紙袋が手に触れた。

 逆さまにすれば、丸めた紙袋が落ちてくる。


 凄いな……。どれぐらい入るんだ……?


 部屋にあるものを、とりあえず突っ込んでみる。回復薬の小瓶。服。靴。

 普通に入った。うん……。手を突っ込むと、ごちゃっと固まっていた。


 重さは変わらないな……。どうなってんだこれ。


 もう少し入れてみよう。ベッドの上の枕を手に取って、かばんの口に持っていく。このままじゃ入らないが、押し込んだら入るだろ。


 そんな事を考えながら、枕をかばんの中の闇に触れさせた瞬間、かばんの口のサイズが変わった。枕が飲み込まれ、闇の中に消える。


「うおッ……」

 

 口の大きさ変わるのか……。

 どうなってんだこれ。さっぱり分からん。

 

 どうやらこのかばんは、内部の闇に触れた物のサイズに合わせて口の大きさを自ら変える機能があるようだ。ただ、触れた物を無造作に飲み込むわけではないらしい。俺はさっきから何度も手を突っ込んでいるし、なんなら空気も触れている。無尽蔵に飲み込むなら、とんでもないことになる。


 飲み込む為のトリガーは、使用者の意識か? 


 ベッドの上のシーツを掴む。かばんに入れないと強く意識しながらシーツを闇に触れさせると、シーツは飲み込まれること無くかばんの上に掛かった。触れさせた端の部分は闇の中にあるが、全体が引き込まれるようなことはない。


 おお……。凄い……。


 今度は、かばんに触れる事無くシーツを仕舞う事を意識する。


 ……。駄目か。


 特に動きは無い。どうやら、遠隔起動は出来ないようだ。


 意識しながらシーツに触れる。やはり何も起こらない。

 意識しながらかばんに触れる。これも何も起こらない。


 一度シーツを手にとって、改めて意識しながらかばんの中の闇に触れさせた。これも駄目。


 シーツを手に、かばんにも触れて、中に仕舞うことを意識する。すると、吸い込まれるようにしてシーツがかばんの中に入っていった。


 誰かが触れて、触れた人間が仕舞おうと意識していれば良いのか。本当にこれ、どんな仕組みになってるんだ……? 

 

 試しに手を突っ込んで見る。手に触れる枕とシーツと靴。小瓶や服は奥に行ってしまったのか、手の届く範囲には無い。

 背負ってみる。重さは全然変わっていない。


 ひっくり返すと、入れたものが飛び出して、床に山となった。


 おお……。便利だ……。これがあれば、倒したモンスターも仕舞って歩けるんじゃないか……?

 

 そこまで考えたところで、部屋に置かれたベッドが目についた。


 もしかして、これも仕舞えるんじゃね?


 探究心と、ほんの少しの好奇心。俺はかばんを横にして、ベッドを仕舞うことを意識しながら、ベッドの角をかばんの中の闇に触れさせた。


「おお……」


 思わず感嘆の声を上げる。かばんの口が大きく開き、ベッドを吸い込んでしまった。広がった口はベッドが消えた瞬間に元に戻り、俺の手の中には、重さも見た目も変わらないかばんが残される。


 手を入れると、ベッドの角に触れた。確かに入っている……。


 何も考えずに逆さまに。かばんの口が大きく開いた。


 どんっ。と大きな音と共に、ベッドが縦になって飛び出す。俺の身体はベッドに持ち上げられ、天井に打ち付けられた。


 いてぇ……。こんな風になるのか……。


 幸い、そこまで勢いは無かった。これがもっと大きいベッドだったら、天井とベッドの間に挟まれて死んでたかもしれない。気をつけよう。


 ベッドからおりて、正しい場所に戻す。なるべく音を立てないように、そっと。ただでさえうるさかっただろうから、怒られないようにしないと。


 さて、次だ。空気を仕舞うことは出来るんだろうか。水も出来るなら、空気も仕舞える気がする。

 だが待て。同じ轍は踏まない。


 未来視を使いながらにしよう。僅かなノイズと共に、頭の中に映像が流れる。

 吹き荒れる風、舞い散るガラス、俺は頭から血を流して倒れていた。


 思わず未来視を解除する。たぶん、あの光景は『俺がかばんに空気を仕舞おうと考えて実行した未来』だ

 危ない。死んでたぞ。


 かばんを見下ろしながら、背中に冷たいものが伝わるのを感じる。

 このかばん、便利だけど危険だな……。

 

 自分を仕舞ったり出来るのかなとか思っていたけど、無しだ無し。出れなくなったらお終いだ。

 普通に便利なかばんとして使おう。


 気がつけば空は明るくなって、窓から朝日が差し込んでいる。朝だ。


 結局、丸一日近く動き回ったのに眠気も無ければ疲れもない。やはり、疲れないというのは本当らしい。喉は渇いているし、腹は減ってるけど。


 ソーディさんに洗濯を頼むついでに、シャワーを浴びよう。ついでに水も飲めるし、かばんも洗える。

 洗って大丈夫だよな……? 型崩れとかしちゃいそうだけど、そもそも口の大きさが変わるこのかばんに型崩れとかあるのか? 


 まあいいや。とりあえず洗おう。形が崩れても使えるだろ。


 そんな事を考えながら、俺は着替えと銅貨の入った袋、そして不思議なかばんを持って部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。