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高時が首  作者: チゲン
4/15

第4幕

 翌朝、照隠が目覚めたときには、すでに由茄の姿はなかった。

 荷はあるが、首桶がない。

「由茄?」

 不安に駆られ、照隠は宿屋の表に出た。すると首桶を抱えた由茄とばったり鉢合わせた。

「どこへ行っておった」

「殿がお目覚めになったので、辺りを散策しておりました」

 真顔で言われ、照隠は思わず息を呑む。

「今はまた、お休みになられたようです」

「そうか」

 密かに安堵あんどする。

 宿場の人間はとうに起きている。首が、昨日のようにまたぞろ妖気を振りまきでもしたら、大変な騒ぎになるだろう。

 朝餉あさげでは、由茄は男が食うほどの量を平らげてしまった。

「殿と、二人分を食さねばなりませんので」

 臆面もなく言う。

 かえって照隠の方が、はしが進まなかった。

 由茄の行動は、余りにも首に準じすぎている。

「それで、体の作りまで変わってしまうのか」

 悪しき物の怪の類いに取り憑かれた者を目にしたことがあるが、彼らは常に狂気をまとっており、ひと目でそれと判別できた。

 だが首桶さえ持っていなければ、由茄は一介の娘にしか見えない。

 あのとき感じた死者の匂いも、あれから感じることはなかった。錯覚だったような気さえしてくる。

 己れの未熟さを痛感する。

 それでも、首桶に怨霊が宿っていることだけは間違いない。

「得宗家か。自業自得とはいえ、哀れなものよ」

 北条高時は、十四歳の若さで幕府の執権となった。二十四歳でその座を譲って得度したが、それも形ばかりで、日々遊蕩遊楽ゆうとうゆうらくふけっていたという。

「御坊は、殿がお嫌いにございますか」

 心中を見透みすかしたような由茄の問いに、一瞬、言葉を詰まらせた。

「……わしには何とも言えんが」

 さすがに身内同然の者を前にして、死者の批判ははばかられた。それが、いかに悪名高き人物だとしても。

 それきり由茄は何も訊いてこなかった。

「得宗家のことを、まだしとうておるのか?」

 そう質問を返そうとして、照隠は口をつぐんだ。

 進まない箸を、少し強引に動かした。

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