9 町
屋敷は完成したけど、中の構造は考えていません。
装飾のイメージとしてはバイ〇ハザードの洋館かな?
「先生! 急患です!」
「うん! すっごく似合ってない!」
せっかくなので貰ったコートを着てみたら、ルクスルからは不評だった。丈を引きずっているということはないし、動いた時にも引っかからないのでサイズは合ってると思うんだけど。
「うーん、トテのイメージと合ってないのかな? これから殺しに行きますって感じの戦闘服なのに、……初めてのお洋服を着てはしゃいでる子供、……みたいな?」
その通りなんだけどね!
ずっと着ていたいのに似合っていないんじゃ悲しくなる。コートの前を閉めてみたり、フードを深くかぶってみたりしているとルクスルが駄目だししてきた。
「笑顔だから駄目なんだよ、この世のすべてを憎んでますって顔してみて」
「…………むむ!」
「ぶすーって顔、いただきました!」
「ルクスルの、ばかー!」
一連の動作を周りのみんなは微笑ましい笑顔で見ているが、それをみかねたおじいさんが会話に交じってきた。
「……コートに合うように、靴をごつい奴に変えてみるか?」
「えー、重いと疲れちゃうじゃん、トテは小さいから身体にも良くないし……」
「服も黒に変えるとか……」
コートに合うように全身真っ黒の服装にする。
合うと言えば、合うんだけど……。
「ちょっと待って! それだとトテが可愛くなくなっちゃう!」
服にこだわりはないんだけど、少しでもルクスルには良い印象を持たれたい。
「ごついベルトで前を閉めるのが合ってないんじゃないか? ボタンに変えてみるか……」
「えっ!? 変えちゃっていいの? それならものすごくいじっちゃっていい?」
「そこは考えどころだなー。戦う時に危ないからこの厚手のコートを着てくれって用意した物だから。外に出てる奴にも持たせてるけど、着る意味が無いから着てない奴は多いし、……だからトテが一日中着る必要もないっちゃあないんだが」
「ルクスルとおそろいがいい」
「……それなら思い切って変えてみるか。別に普段着なら何着てもいいんだが、団員のコートとして使うならあまり派手な色にはするなよ」
「色も変えちゃっていいの!?」
「ああ、住処も変わったし、怖い連中が出入りしてるって思われても嫌だからな」
「トテ、可愛いくしようね」
そこはお任せします。
いろんな服を試しに着させられるのは疲れると思うけど、似合う服を選ぶためだ、我慢はできる。
「そうだ、これ持ってけ」
ルクスルが手渡されたのは小さな袋。
「――――こんなに!?」
「……ルクスル、なんなの?」
「ルクスルに渡しておくけど、トテの給料な。屋敷を造ってもらったんで領主からかなりの額をいただいた。千回払いの一回目だ」
お城を建てた時はお金じゃなくて勲章をもらった。飾る場所もないのでしまっておいたら、いつのまにか何処かにいってしまって失くした。
今から必要な物を揃えに行くし、お金が貰えるなら貰っておこう。
「おじいさん、ありがとう」
「トテの金だ好きに使え、無駄遣いはすんなよ」
「うん」
「トテ、私も準備するから、部屋の方を先に決めちゃおっか」
「空いてる部屋を適当に使え。今までの習慣で大人数で住む奴が多くて、部屋は余ってる。……トテなら領主の部屋でも文句は無いぞ」
自分が造ったのであの部屋の大きさはわかってる。
二人で住むには広すぎるし、あれはおじいさんが使うべき部屋だ。……おじいさんが仕事している姿は見たことが無いけど。
おじいさんと別れ、ルクスルと一緒に食堂から屋敷の二階の方へ。部屋は二人で住めるような広めの所を選ぶ。部屋の中は当然何もない。とりあえず、前のアジトから私のバックパックを持ってきて部屋に置いてみた。
……荷物はこれだけ。
日中はルクスルは外に狩りに出て居ないから、ここで一人で帰りを待っているのは寂しすぎる。ルクスルの腕に抱きついて、この冷え切った部屋での唯一の暖かさを少しでも感じておく。
「大丈夫、私がすぐに散らかしてあげるから」
「いや、掃除しようよ。私も手伝うから」
これから家具を揃えに行くし、すぐに物は増えるはず。今もルクスルが着替えた血濡れのコートが脇に避けられて増えたし。
「……ここが私たちの城になるんだね」
「うん、ルクスルが仕事で居ない時は私が守ってるから。だから、ちゃんと帰って来て……」
「……もちろん!」
少し泣いてしまったのは、私がまだまだ弱いからだろうか……。
言ってしまって後悔した。ルクスルは私たちのために、いつも危険な目にあっているのだ。……考えていなかったけど帰って来ない可能性は当然ある。
居なくなって欲しくないから、もう戦わないでなんて言えるわけがない。
「……ルクスルが帰ってきたいと思える部屋にする」
私の独り言は聞こえてしまっていたようで、何でもない表情で振り向いてくれたルクスルの頬は、赤くなってくれてた……。
私が建てた領主の別宅から町までは、そう離れてはいない。
それでも私の歩く速さでは少し時間がかかった。
「トテは疲れてない?」
「……これくらいなら大丈夫」
町の入口では通る人を確認しているようだ。だけど、立ち止まらせてまでの確認はしていないらしい。一応コートのフードを深く被ってさっさと通り過ぎようとするが、なんだか余計に目立っているような気がする。
「おっ、お前、森は出られたのか?」
……何故か門番の方から声をかけられてしまった。でも、私が森から来たことを知ってるってことは、もしかして出るときに居てくれた団員なのかな?
「……はい、みなさんのおかげで」
「子供なんだから、無茶はするなよ」
「私が守ってるから大丈夫だよ。タスクさんは門番をがんばってくださいね」
軽く手を振って門番さんとは別れた。ルクスルはというと門番さんを笑顔で見ているが、瞳は曇っている。
「……知ってる人なんだね」
「そう! 通る時に会っちゃうんだけどトテは近づかないでよ! あいつ、女の人だとすぐに声かけてくるから!」
「……仕事熱心なんだね」
「トテは純真だねー、そこがいいんだけど!」
町の大通りは人で賑わっているが、武器を持っている人が多いように見える。ここは戦える人が多いみたいだ。
「ルクスル、この町ってもしかして危ないところ?」
「大丈夫、私が守るから。トテをナンパなんてさせないから」
そうじゃなくて。
「なんか武器を持ってる人が多いから……」
「ここは王都からは離れているし、森も近いからね。獣の被害も多いんだよ」
そうなのか。それじゃあ一人で町に行くのは難しいかも。
「だから、うちの盗賊団が周辺に出る獣の駆除をしているの。みんな死にたくないからね」
それで領主とも交流があるのか。……複雑な町みたいだ。
「トテ、こっちー」
ルクスルに手を引っぱられて向かった先は、軒先で肉を焼いていた食べ物やさん。串焼きを二本注文して私に一つ渡してくれた。
「はい、どーぞ」
「ありがとう、ルクスル!」
店の前でルクスルと一緒に食べる。
街並みをゆっくり眺めながら食べる串焼きはただ焼いているだけではなく、香辛料も使っているみたいですごくおいしい。
いつかルクスルに私の手料理を食べてもらいたいので、おいしい料理を食べ歩くのは今日は目的の一つだ。この町に来るのも難しいようなので、ついでに香辛料も探しておこうかな。
「ルクスル、暫くいなかったけどどこかに仕事でも行ってたのかい?」
串焼きのおばさんが声をかけてきた。
「ちょっと団員といざこざがあってね、しばらく森の奥に逃げてた」
「気を付けなさいよ」
ルクスルの知り合いなら、ちゃんと挨拶した方がいいよね。
「あの、トテっていいます。串焼きおいしいです」
「あらま、かわいいお客だ。ゆっくりしていきな」
「今は私が面倒みてる」
ルクスルの素っ気ない態度に違和感を覚える。
でもちゃんと紹介されてもそれはそれで恥ずかしいし、なんて紹介されてしまうのかが気にはなるけど、ルクスルが秘密にしたいっていうんなら、私からは何も言わない。
「……トテ、そろそろ行こうか。服を見なくちゃ」
「うん、ごちそうさまでした」
「はいよ、またね」
おばさんが優しい顔で見送ってくれる。
「……ようやくかい」
見てたのは私の顔か、それともずっと繋ぎっぱなしの手だったのか……。
ルクスルにも優しいこの町の人たちとなら、私もやっていけるような気がした。
告白大会は終わったけど、百合にはまだまだ無限の可能性がある。
キラ〇では当たり前の日常らしい……。