8 屋敷完成
そのキレイな顔を吹っ飛ばしてやる!!
腹ばいに寝転ぶことで、双眼鏡を持つ腕のふらつきを抑える。遠くに見える領主の屋敷の部屋は、布で目隠しをされていて中の様子を伺うことはできない。
「倍率を上げろ」
「……了解」
屋敷の柱の数で、部屋の間取りをおおよそで確認する。屋敷は左右対称に建てられているが、高いところから見ると正面から見えない奥の方に大きくせり出して作られた部屋がある。
あれが恐らく領主の部屋だ。
「首領、楽しそうですね」
「領主が会ってくれずに、屋敷にも入れないなら隠れて見るしかないだろ」
おじいさんたちの会話を聞きながら、双眼鏡をずらして一番気になっていた外壁を見る。
柱の装飾は花をイメージしているのかな、いや咲いてはいない。樹かな。
屋根はここと同じく平坦。何か取っ手が見える、中から屋根に登れるようになっているようだ。
壁は白色で装飾は無し。
「トテ、そっくり同じに作って、領主をびびらせてやれ」
「了解。正面に玄関ホールがあって、そこから東西に部屋が伸びています。そのままだとつまらないので、領主の部屋を反対の西側に作ります。……西から」
ドン!!
西を領主の部屋として使うなら、あちらは今のアジトと同じ男性エリア。盗賊団は男性が多いので部屋は多めに。
東は女性エリア。部屋が余るので、倉庫として使うために一階に大きな部屋を幾つか。
「建物は出来ましたけど、装飾はまだです。あと家具までは作ってないので中は殺風景ですよ。そこはゆっくりやっていきます」
「おう、そいつはいつでもいい。それより屋敷が完成したんだ、外に出てる奴らを呼んで盛大に祝うぞ」
私が作った屋敷の玄関ホールの屋上で、おじいさんが立ち上がって豪快な笑みを私に向けてくれた。借りていた双眼鏡を返してから、私を背負ってもらい一緒に地面に降りる。
屋根には自分たちで登れるようだし、屋上への階段は必要ないかも。
建てたばかりの屋敷の左右のバランスを見る。
周辺の木は切り倒しているので広い庭がある。花壇を作っているけど、誰か花を植えて世話とかをするような人はいるかな?
何か違和感が……ああ。
「おじいさん、あっちの屋敷みたいに周りを囲む柵は必要?」
「……いらねえかな? 見た目は立派な屋敷だが、住んでるのは盗賊団だからなあ」
正面の扉を開けて、おじいさんと一緒に屋敷の中に入る。
「……白いな」
建てたばかりだからね。
建設途中だった時に張った立ち入り禁止のロープは外して、扉を押し開ける。
こっちが食堂です。長いテーブルが欲しいな。みんなで座れる奴。椅子は何個必要かな。このくらいでいいよね。
「くそっ! 目を離した隙に!」
そうだった、珍しくご飯を作る前に起きているのだ手伝わないと。屋敷を作り終えたら、私がすることが無くなってしまうのでなんでも覚えていきたい。
「トテは座ってろ。じきにみな集まる」
「でも、なんかしたい……」
「大丈夫だ、今日は休め。明日から忙しくなるから」
おじいさんと話してる間に人が驚きながら食堂に集まってくる。椅子が足りなくなることがないよう人数を数えていると、知った顔が入って来た。
「トテ、出来たの!?」
……ルクスルが来てしまった。私を抱き上げて、私が座っていた椅子にルクスルが座る。その膝に私が下ろされる。
「……なんで?」
「しっ、首領の話が始まるよ」
私がルクスルの膝で震えていると、おじいさんが立ち上がりみんなの顔が見える位置に立った。
「……屋敷が完成した。これから俺たちはここに住む。名目上はここの管理を任されていることになる。そんなわけで、今までは俺たちがしなかったことをするはめになる。……ルクスル、お前ちょっとこっち来てみろ」
ルクスルがおじいさんの隣に並ぶ。……私を抱えたまま。
――――だから、なんで!?
「……お前らには、これがおかしいと思えるようになってもらいたい」
ちょっとグサッてきてしまったけど、おじいさんが言いたいことはわかる。ルクスルの見た目だ。
返り血を浴びていて、生臭い。
「今までの洞窟のアジトとは違って、ここは人の眼もある。土埃の一つでも落とすなとは言わないが、せめて一般人として見えるようにふるまってほしい」
ご飯を捕るために頑張ってくれてるのだろうけど、正直引く。
「いきなり身綺麗にしろと言われて困ると思うが、一番困ってるのは俺だ。とりあえず掃除用品とか、使い方もわからねえ物が必要になってくる。金はかかるが、そこんとこは領主に丸投げするんで大丈夫だ」
いいのかと思うけど、私もわからない。家の補修依頼はあったけど、掃除は住んでいる人がするから私もしたことがない。
「他に家具とか必要な物があったら言ってくれ。ここで人が住んでいるってことをわかるようにと言われている。――――以上だ。部屋割はそれぞれで話し合ってくれ」
自分の部屋か。
考えていると、……ルクスルが手を繋いできた。逃がすつもりは無いらしい。
「……ルクスル、部屋はどこにするの?」
「トテと一緒!」
勝手に決めないでって、この手を強引に離したくなる。
もう少し話し合おうって、同じ屋敷に住んでるんだから大丈夫だよって……。
それはただの強がりだ。
「うん、だからどこにしようか。ルクスルって荷物多い方?」
「……多いかな。棘とか武器の素材が大量にある」
「倉庫があるから、そっちに保管しても大丈夫だよ。とりあえず、見て回ってから決めようか」
ルクスルからは逃げられそうにないからあきらめた。
……なんて、失礼なことを思ってしまうけど。
嬉しいのだ。
迷うことなく私と居てくれると言ってくれる、ルクスルの言葉が。
私がこの屋敷で一人部屋で住むなんてできっこない。寂しくて泣いてしまう。
森で一人で生きていくなんて言っていたのが懐かしい。
「……トテ、本当にいいの?」
人は変わる。
好きな人ができたのだ。
「好きだって言ったよね。あまりいじめないでくれると嬉しいんだけど」
泣き虫で、甘えん坊なのが私だ。
そんな私を見つけてくれたのはルクスルだ。
「……トテを説得する作戦を考えるのに夢中で、何も考えてない」
「どこの部屋も出来たばかりで何も無いから、何が必要か考えないと。私は工具をしまう棚が欲しいかな」
「……部屋には何もない。……ベッドは一つでいいよね」
「……ルクスルってそういうことしか考えてないの?」
「ああ、トテにあきれられてる! ちょっと待って!」
話を脱線させないよう無理やり修正させた。好きだって言ったけど、……私はルクスルのことを何も知らない気がするのだ。
二人で同じ部屋に住むって決めた。
ルクスルは何が欲しいのか、何が好みか、なんでも知っていきたい。
「うーん、武器をしまっておく所が欲しいけど、部屋に置いておくのもなあ。……服をしまう場所くらいかな」
「お互い、何もないんだね」
「ふっふっふー。それは大丈夫。これから一緒に探すから」
ルクスルがおじいさんのところへ行って話しだす。二人が部屋を出て、戻って来た時に持っていたのは盗賊団のみんながいつも着ているコートだ。
「トテの分、用意してもらってたんだ。それでですねえ……」
一拍置いて、私を見るルクスルは笑顔。
「私とデートしよ! コートのフード被れば顔は見えないし、この町で一緒に買い物して欲しい物探そうよ」
自分の頬がゆるむのがわかる。
「トテ、しょうがないなあって言って!」
にやにや笑うルクスルはとても楽しそうだ。
「うん、とっても楽しみ!」
言ってしまって後悔したのは恥ずかしさから。照れ隠しで断ろうとしないのは、私のことを考えてくれたルクスルが大好きだから。
「トテが笑ってくれるのは久しぶりな気がする! いつも泣かせてごめんねー。トテがかわいすぎる!」
本当だよ。
だけどそれに慣れてしまった自分もいる。
……そんなことルクスルに言えるはずもないけど。
恥ずかしさで泣いてしまう自分がいて、ルクスルと一緒にいられることがうれしい自分もいて。それが鬱陶しい自分もいるけどこんな毎日が続けばいいと思っている。
乙女心は複雑なのだ。
トテの大っ嫌い宣言で何を考えているのかわからなくなってしまった。
その結果、乙女心を文章化するという苦行をするはめに……。
後半、無駄な会話をしている気がするけど、この二人日常会話してないんじゃないかって。
キノコタケノコ戦争するくらいに無駄会話して!