79 不慣れなエスコート
門番さんが言った通り、町の中はいつもより通行人が多い。しかし、人の流れに目的があるような気がしたので、そのうち居なくなるのではないかと私たちは道の端でのんびりと待つことにした。
「……みんなが向かうあの先、何があるんでしょうねー? ルクスルが私を観光地的な場所に連れて行ってくれなかったおかげでまったくわからなくて」
この私に案内を頼んだノーダムさんのためにも入念な下調べは必須だったのだろうけど、調べる時間も理由も生憎と失念していた。なので、その原因を作ったルクスルに全責任を押し付ける腹積もりなのである。
何より、ただ知らないと言うには少しばかり情けない。この町は、私の第二の故郷と呼べるような場所になっているのだから。
「私は知ってるぞ、ダイトと昨日あらかた廻ってみたからな。純粋な気持ちで観光することがようやく出来て、充実した時間だった」
「――――!?」
……私がこの町に居たかもしれない、そんな噂話の真偽を確かめるためにも聞き込みに専念せざるを得ず、観光などしている余裕など無かった――そんなやるせない日々は終わり今は恋に生きてると笑顔で藪を突かれたら、まるで過去なんかもう気にせず存分に嫉妬してくれても良いのだぞと言われているようではないか⁉︎
「うらやましい!!」
日用品の買い出しや仕事とかでルクスルと私も当然のように遊びには来ている。だけど、そもそもルクスルは私が楽しむことを優先しすぎていて、世間一般の観光というものを注視していない気がする。
綺麗な風景や町並み。優雅で美味しい食事の後に告げられる、愛の告白。
私もそんな普通を所望したいとルクスルに無理を言ったところで、不慣れなルクスルにそんな甲斐性があるとも思えない。そもそも、私自身はそこまでのことを望んではなく、歴史のある建築物を見学に行ってもきっと私が最後に呟く言葉は『同じの造れますよ』だろうし、食事はむしろお互いの手料理を食べさせようと切磋琢磨している。愛は――重過ぎるけど。今のままで十分幸せなのだ、……これは負け惜しみなどでは決して無く――……というか、昨日も確か、ふたりで並んで散策したはずだ。私たちも、充実な時間を過ごしたはずだッ!
「……ああ、いやー。私たちも昨日はお楽しみでしたよ、ルクスルといっぱい遊び尽くしてました! 勝ってたことを忘れてるなんて勝者の余裕ですかね……?」
「だが観光はしなかったのだろう? 行き先に不満があると、さっき言ったじゃないか」
――――失態である! ルクスルを悪者に仕立て過ぎたか……!?
ルクスルの頑張りは私に特化し過ぎたせいで周りに理解されにくいのだ、言葉が通じないと思われるほどに!
「……いや、それでも楽しかったです」
だから、そう弁解したところで――
「そうか、まあ、あそこはトテが見ても仕方ないか。ルクスルもそのことを察して連れて行かなかったのだろう――と思っておこう。ルクスルにだって案内くらい出来るだろう。すまないな、自慢するような形になってしまって。……それにしても、好きな人と想いが通じ合えるというのは良いことだな」
これである。
嫉妬と怒りの感情が渦巻いて向けるべき相手を間違えてしまいそうだ。思わず、歯の噛み合わせ具合を確認してしまう。
「……なんだ、そんな顔して。悔しかったらルクスルに一緒に出掛けたいって言えば良いじゃないか、仲直りしてな」
私を焚きつけてまでルクスルと仲直りさせようとする魂胆は素晴らしいけど、痛いところを突きすぎだ。……なので、引くつく頬で私が尋ねるのは昨日は町に居たというダイトさん。再戦を申し込むためにも居場所を把握しておきたい。
「昨日はこの町の宿屋に泊まったと思うからどっかに居るだろ。トテとの親子水入らずの時間を邪魔されたくないから、もし会えても挨拶だけだな」
「……さんざん自慢しておいて逃げられると思ってるんですか? 屋敷に招待してくださいよ」
「旅費が浮くのはありがたいが、この町の情勢がどうなっているのか聞き込みをお願いしている。賑わっているようだから安定しているのかと思ったら、どうやら異常事態のようだな。人が増えすぎて各地で混乱も起きているようだ」
増えた住人は他の町から流れてきているようなので、この町独自の決まり事を知らないのだろう。一番は建物の屋根の上を飛び交う不審人物の存在だ。言うまでも無く、この町を陰から取り締まっている盗賊団員たちだ。
「……もしかして、ルクスルを屋敷で掃除させておくなんて…遊ばせてる暇は無いんじゃないんですか……?」
「騒動の元だ。それに、ルクスルは狩りしか出来ないと首領に聞いたぞ? 揉め事の仲裁やら、道に迷った人の案内やらをこなせるとでも思うのか?」
「……私が何も言い返せないのは、ルクスルのことを一番分かってるからだということだけは肝に銘じておいてください!?」
書き溜めると、まだ直せる箇所があるんじゃないかと限界までいじってしまいますね。
なので――――全然溜まりませんでした!!
次話からは書いたら出すよ。




