77 羞恥の極みは置いて行く
書き溜まってる、ってやつなのかな?
「ルクスルは仕事ですよね⁉︎ 忙しいんですよね⁉︎ 私は用事があるので出掛けますね、さよなら!」
「ま、待ってトテ⁉︎ 私の話を聞いて!?」
「……聞くだけ聞いてあげます、謝る機会は今しかありませんからね⁉︎」
「謝る気はありません、最高の夜を過ごさせて頂きました! そんなことより、出掛けるってお昼はどうするの? 一緒に食べよう!?」
「……私はノーダムさんと町で食べてきますのでルクスルはお呼びじゃないんですよ!?」
実は私を探していたとノーダムさんに告げられたのは着替えて部屋に戻ろうとした時だ。無駄な時間を過ごさせてしまったと申し訳無く思ったけど、そのことに関してノーダムさんから気にした様子は窺えなかった。
要件というのは、昨日食事中に居なくなってしまった私への確認。そう言えば、ノーダムさんを町へ案内する約束をしていたと思い出したのもその時だ。
「えー、ノーダムさんと一緒かぁ……」
「何です!? もう嫁姑戦争ですか!?」
「……あの人、私を汚物を見るような目で見てくるんだよね……」
「自業自得ですよ!!」
「ああ、でも、ベッドから視線を移した先が私だっただけの可能性も……?」
「……え゛? ノーダムさん、ここに来てたんですか……?」
「うん、トテを探してるようだった。……だから、私が抱いてるのはトテの匂いがするシーツを丸めた物であって、トテをこの中に隠したりはしていないって説明するのには骨が折れたよ」
洗濯するために片付けようとしていたのかと思っていたのに、まさかの使用中と告白され奪い取る。
「やだやだ、トテを返して」
「……これに私の名前を付けないでください! まさかノーダムさんにも同じことを言ったんじゃないですよね⁉︎」
「え、そんなことしないよ。ちゃんと大人しく渡しました。……それなのに首を傾げるなんて失礼しちゃうよね?」
「私をシーツでくるんで拘束していないってわかりやすく広げるだけで良かったんですよ!? こんなの渡されても困ります!」
……もし、私のお風呂の時間が短かったら、このシーツに顔を埋めているノーダムさんを目撃したかもしれないと思うと泣けてくる。
「そんな馬鹿な! トテの匂いがするからってちゃんと説明したのに⁉︎ 想いを分かち合う同士だから、堪能してくれてたと思ったのに⁉︎」
この調子では、私が脱いだ衣服が今までどんな扱いをされていたか想像するのも恐ろしい。
「……ルクスル、さすがの私も引きましたので言わせてください。私の残り香を嗅ぐのはやめてくれませんか?」
「うん、やめる。はい、これでこの話はおしまい! 二度と目撃することはないだろうから安心してね?」
「……その言い方では隠れてするみたいに聞こえるんですけど?」
「私がトテに嫌われるようなことをする証拠は!? 証拠はあるの!?」
「……必死なのがすごく怪しいです。お願いですから、見られたら困る行動は避けてくださいね……?」
ルクスルの奇行は今に始まったことじゃないけど、私の与り知らないところでされるのは、また違う恥ずかしさがある。
恐ろしいのは、私自身に害は及ばないので許してしまいそうなことだ。しかし、表ざたにならなければ問題無いなんて、想像力が乏しいと言わざるを得ない。
「大丈夫だよ。今度はちゃんと鍵をかけておくから。あ、でも、トテを追い出すみたいで気が引けるから、扉は全開にしておいてあげるね」
「閉めてください! 私の留守もしっかり守ってくださいよ!?」
「……ああ、そう考えれば俄然やる気が出るね。わかりました。トテがお出掛けしてる時は、私がこの部屋を全力で守ってあげましょう」
言質は取った――と、安心することなど出来るわけがない。
そもそも、約束したのは扉を閉めるという点についてで、誰かに見られたら困る行為についてではないのだ。
何度も目撃されると、私公認の行為だから放置されていると勘違いされてしまうかもしれない。許してはいないので、もし見かけたら注意してくださいと触れ回るのは愚作の極みもいいとこである。
ルクスルだけの部屋ではないのだし、破る前提の約束が、私の知り合いを招待した時に訪れでもしたら――――
「……とにかく、私は出掛けてきますから恥ずかしい真似はもうしないでください! ルクスルが理解してくれるまでお説教したいところですけど私だって忙しいんですよ!?」




