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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
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71 赤ちゃん

 心も(つるぎ)で出来ていれば良かったのに……。




 ルクスルにとっては自分の願いを聞き届けてくれるかどうかの大勝負だったのだろうけど、私にしてみればそんなことで悩んでいたのかという気持ちは拭えない。


「……普通に誘えば良かったじゃないですか。私が断るとでも思っていたんですか?」

「断ります~⁉︎ 変なところに連れて行かれるかもとか深読みしちゃって、行き先を詳しく伝えたくない私の心境を汲んでくれずにやんわりとお断りしてくる姿が目に浮かぶよ⁉︎」


 考えすぎ? いや、被害妄想が過ぎる。


「……行き先は秘密にしたいからとか言ってくれれば……」

「その結果がこれだよ⁉︎ 私の口下手っぷりをあまり舐めない方がいい!」

「……難儀な性格ですね」

「そうらしいよ⁉︎ 私もトテに話そうとした時に言葉が出て来なくて、何が起きたのか分からなかったもん!」

「ルクスルの性格の一端が垣間見れて私は満足ですよ」

「周知の事実だよ⁉︎ 首領からは言葉が足りないどころか、何か言えって言われてたからね⁉︎ まさかこんな大事な時に思い出せるとは思わなかったけど!?」


 ルクスルが怒りながらも私と会話してくれていることに安堵する。無言の殺意をただ向けられるよりも、怒っている理由はこうして話し合った方が絶対にいい。私たちの関係に遠慮なんて言葉は必要無い。


「一緒にやろうって聞くだけでいいんですけどね」


 一方的な愛情表現なら無理やりにでも行使する度胸はあるけど、私のことも考えたうえでの誘い文句をルクスルには思いつかなかったようだ。


「後にしてくださいとか言われたらと思うと……」

「それは、私も忙しい時はありますけど、ルクスルをないがしろにする気は微塵も無いですから。……でも、聞こえていなかった時は、ごめんなさい」


 歩く先は、店が立ち並ぶ通りを抜け住宅街に差し掛かっている。大きく門戸が開けた家は減り、似たような外観の家が外敵の目を欺きたいかのように静まり返っていた。


「トテ、こっちこっち」


 立ち止まり、窓の位置から家の間取りを予想していた私にルクスルから声が掛かる。慌てて追いかけ、手書きの地図のような物を手に持ち道案内に一生懸命なルクスルの隣に並ぶ。


「……ところで、ルクスルはどんな家に住みたいとかありますか?」

「トテと一緒なら、どこでも」

「……新しく家を建てると私の存在感を主張出来ますけど、借りた方がここに馴染もうとしている感じがして、少しお得な気がしますよね……?」

「……待って、考えさせて。ちゃんと考えるから」

「はい、いつまでも待ってますよ。ふたりであーでもないこーでもないって話し合うのが凄く楽しみなんです」


 ずっと住み続けるのだから、この私が家のことで妥協したくはない。

 だけど、それ以上に、ルクスルが気に入ってくれる家を私は求めたい。その為には、お互いの情報交換は必須である。

 

「……この先…かな?」

「そろそろ行き先を教えてもらってもいいですか? 逃げる心の準備だけはさせてください」

「……トテが逃げたら挨拶は私だけでするね。もちろん、お土産は無しです」

「……人に会いに行くんですか?」

「そう、トテも知ってる人。首領に聞いたら、屋敷にはもう住んでいないって言ってたから」

「え? もしかしてデジーさんとかですか? わざわざ会いに行かなくても、放っておけば勝手に湧いてきますよ」

「違いますー。私があんな奴を訪ねるとでも思ってるの?」

「闇夜の不意打ちを狙うなら、常に居場所は把握しておきたいのかなって」


 並ぶ家を数えながらルクスルが進む。一軒の表札も無い家の前で立ち止まり、この家で合っているのかと不安そうに扉を数回叩く。


「……私を誘う時にはたじろんでいたのに、こういうことには躊躇ないんですね?」

「言葉より、行動で示す(たち)なの」

「すっごく分かります」


 家の中から人が動くような気配がしたので、どうやら在宅中のようだ。

 出迎えてくれるのが馴染みの薄い人だったら人見知りを発動してしまおうと構えたところで、ルクスルが隣に居るのだからやれば出来る子だと知らしめるためにと喉の調子を確認しておく。


「――――はいはーい。今、空けますね。……いらっしゃませー」


 ……いらっしゃい…ませ? 家の外観は普通の一軒家だけど、もしかしてお店だったりするのかな?


「あれ、トテちゃん久しぶり」


 出迎えてくれたのはシュアさんだった。お菓子作りが得意な、頼れるお姉さんである。


「……お久しぶり…です」


 これは人見知りなどではない。私はただの付き添いなので、自己主張が激しすぎるのもどうかと思っただけだ。幸いにもルクスルという壁は用意してあるので、私は後ろに隠れてしまおうという魂胆である。


「トテちゃん、元気だった? 相変わらず小さくて可愛いね」


 ……それなのに、何故会話の矛先は私になってしまっているのか。


「ルクスルがちゃんと見つけてくれたんだね。心配したんだよ?」

「……はい、お騒がせしました」

「無事だったのならいいんだよー。家に上がっていくよね? トテちゃんもその為に来たんだろうし」

「……はい、お邪魔します」

「……トテちゃん、元気ないね。…………もしかして、パンツの中に何か入れられてる?」

「――――何で、そんな結論に至るんですか!?」

「震えてるし、話すのも辛いのかなって……? 椅子を勧めてもいいのかな? 漏らさないでね、エルみたいに……?」

「誰ですか!? そんな恥ずかしい人は!?」

「私の子供。生まれたばかりだから仕方ないんだけどねー」

「……え゛」


 ……シュアさんの子供?


「……見てみたいです!!」

「うん、会ってあげて。ちょうど寝たところだから、なるべく静かにね?」

「はい!!」

「元気一杯だね? 私よりも会いたいだなんて、少し妬けちゃうよ」


 シュアさんに続き、恐る恐る家の中に入る。綺麗に並べられている椅子には見当たらない。きょろきょろと辺りを見回したところで、目線の高さに真新しい柵で囲まれたベッドが見える。


「……あわわわわ」


 抜き足で近づき柵に手をかけ見下ろすと、穏やかな寝顔で赤ちゃんが仰向けに寝転んでいた。


「……ふぁ」


 手足がせわしなく動き、話しかけてくれているかのように寝言が聞こえる。触れてみたいと思わず手を伸ばしてしまったことで、私との身体の大きさの違いが如実に表れる。


「……ちっさいです」

「トテちゃんと良い勝負だよね」

「触ってみても?」

「優しくね? あと――」


 ……まさか予測出来る訳が無く、赤ちゃんに触れられるというところで逆に私の指先を掴まれてしまった。


「捕まらないようにね?」


 思った以上に強く掴まれ、その手の柔らかさと温かさを感じる。引き離すことが出来ないので、和んだ身体で固まっていると、自分が望んでいた人ではないと気付いてくれたのかゆるりと手が落ちる。


「ほああぁ」


 溜息を吐きつつ手を引き戻す。動いていたのに変わらない寝顔を思う存分堪能し、ここに来た理由はそうでは無いと思い出す。


「……お騒がせしました」

「いいんだよー。良く動く子でね、手が早いのは旦那譲りかな?」

「……旦那…さん?」

「そう、一目惚れだって言ってね。私への告白もその日のうちに……。今はお仕事中で、町中を駆け回ってるんじゃないかな……? 仲間の目を盗んで仕事中でも帰って来ちゃうことがあるんだけどね」



 ようやく出せました。

 もちろん名前を確認する為に読み返しましたよ。


 百合と子供はどうしようもなく相反するものでして、望むためにはファンタジー設定がつきものであります。

『咲』の世界ではiPS細胞での女性同士での妊娠は確立されているようですね。調べてみると、再生医療への応用が主な目的のようでして、病気や欠損などで損なわれた機能を――


 うっ、欠損……? ……頭が…痛い。

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