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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
7/82

7 決めた

話をしよう。

私にとっては、つい昨日の出来事だが、君たちにとってはたぶん、明日の出来事だ。


ルクスル目線になります。

この話をしないと先に進んじゃいけないような気がして……。



 この国は終わってた。


 そう気づいたのは、私が奪う食べ物も、奪うべき人間もいなくなってからだった。

 国全体で作物が取れなくなったらしい。


 王都の大通りの真ん中で、倒れていた私を拾ってくれたのは盗賊団の首領だった。


 盗賊団でも食糧不足が深刻化して、王都に略奪しに来たそうだけど、ここでも似たような状況だったので人攫いに考えを変えたそうだ。


 盗賊団のアジトに連れ去られた私たちに命じられたのは、食べ物を手に入れるための重労働だった。


「畑はこうやって耕すんだ、やってみろ! 国で作ってた作物は駄目になっちまったから、違う種類のやつをいろいろ植えてみる。俺はここをやるから、お前らはその隣をどんどんやっていけ!」


 農作業はやったことは無い。慣れない仕事だ、精神にもくる。


 ご飯は少量だが、三食でた。


「今の時期は水が冷たいから、めちゃくちゃ辛いぞ。川に入って魚を捕る。もし魚が捕れたら、そこの篭に入れろ。まず、俺がお手本を見せてやろう」


 震える身体で、みんなで囲んだ焚火は暖かかった。


 ご飯は少量だが、三食でた。


「獣だって死にたくはねえ。だから反撃を喰らって死んじまう仲間も出てくるかもしれねえ。仲間の死は無駄にはするな!」


 一匹の獣相手に多勢に無勢でボコボコにした。森に入るのは初めてだったので、葉っぱで手を切って、血が滲んだ。

 これが私たちの主食になる。


「ルクスル、お前は何もできねえなあ」


 首領に呼び出されたので行ってみたら、言われたのは嫌味だった。

 私はまだ小さいから、畑で鍬を持つことも、魚を捕ることもできなかった。馬の世話をしてた時期もあったけど、愛情がわかずに世話がおざなりになって、馬がかわいそうだと怒られた。


「お前は明日から、俺と山に入って獣を捕ってきてもらう。死ぬかもしれねえ仕事だ。覚悟はあるか」


 覚悟なんてないが、やるしかないんだろう。人には得意不得意があるらしいが私には何もない。このままでは、ただ生きてるだけだ。


 次の日、首領と山に入る。

 近場では獣も取れにくくなってるそうで、いつもよりさらに奥の方へ進んだ。


 途中で首領から刀を渡された。私でも持てるように刀身は短めだ。


「このぐらいなら振れるだろ」


 武器を持ってると自分は強いと錯覚できた。

 背中を向けて、前を歩いている首領も簡単に殺せる気がする。でも首領から奪えるのは命だけだ。そんなのは別にいらない。


「殺気がすげえんだが。……ルクスルお前もしかして、かなり使えるのか?……渡さない方がよかったか」

「……私から刀を奪う?」

「いや、山は危険だ。ちゃんと構えてろ、自分の身を守れ。俺からでも、何かからでも、死にそうって思っちまったら、迷わず殺せ。……ここはそういうとこだ」


 今も死にそうだ。

 もう、……囲まれてる。


 狼の遠吠えが聞こえた。


「ルクスル、俺の後ろに居ろよ!」


 私も死にたくはない。

 殺気を首領じゃなくて、狼に向ける。


「おい、ルクスル! 飯が逃げるじゃねえか! お前は本当に何もできねえな!」


 その巨体に似合わず、首領が一瞬で私の目の前から消えた。

 担いできたのは狼一頭。


 今日のご飯だ。

 私は囮にもなれなかった。





「ルクスル、お前の戦闘訓練の時間を大幅に増やす」

「ひどい! 横暴ですよ!」

「やかましい! お前は自分の力と……見た目を自覚しろ!」


 首領に拾われて数年が経った。

 さすがに背は伸びたので、今なら畑仕事も馬の世話も、……ご飯にしか見えないけど、できるはず。


「お前もそろそろ年頃だから、無自覚でうろちょろされたらこっちが困る。ここは男ばっかだから、このままだと絶対にまずいことが起きる」

「たしかに、男の人に声をかけられることが増えました」

「……こいつって、決めたやつはいるのか?」

「いないですよ。うざいんで、最近は刃物をいつも持つようにはしてます」


 見た目は手ぶらだが、服の下には刃物をいくつも隠し持ってる。


「せっかく、あの時から人数が増えて来たんだ。こんなことで殺し合いはさせたくない」

「……私、外に出ますか?」


 王都で暮らしてたことはある。


「まだ駄目だ。お前は狩りしかできねえし、社会に溶け込むのは無理だ。……でもその練習するのがここしかねえんだよなあ」


 獣を狩るのは得意になってきたし、みんなのご飯のために、私に狩りしかさせてくれない首領にも問題があるんじゃ。


「とりあえずはみんなと話せ。コミュニケーションを取れ」

「その結果がこれですよ。私、笑わない方がいいかな」


 獣を狩る時は殺気を消すことを覚えたが、消し続けるのも疲れる。アジトでは力を抜くために笑うようにしていたが、それは逆効果だったようだ。


 話が終わり、私は部屋を出る。


 首領が伝えたかったのは戦闘訓練で獣を殺す技術を上げることで、殺さない加減を覚えろとのことだ。


 首領は仲間が減るのを恐れている。

 私が運よく生き残っただけで、仲間の死を何度も見てきたらしい。


 仲間を減らしたくない気持ちは私も同じだ。そのために仲間を半殺しにする技術を磨くために森に入る。ついでにご飯も手に入れて、仲間のお腹も膨れて、私の好感度もアップだ。


 森へ訓練へ行こうとすると、道中何度も声をかけられる。愛想笑いで誤魔化すが、その頻度は日に日に増えた。


 ある日、仲間に強引に手を引っ張られてどこかへ連れ去られそうになった。離してって言ってもわかってもらえなかった。


 もう、いいや。


 刀の峰で相手の腹を強く打つ。


 首領に話す気は無い。

 黙ってここから居なくなろう。


 お世話になりました。





 森で暮らしてわかったことは、気を休める場所がないこと。


 樹の上だろうが、火を焚いていようが、獣はどこにでもやってくる。休むために試行錯誤した結果、でかい蜘蛛が切断できる糸を使ってきたので、それを採取して自分の周りに張り巡らせてから休むようになった。

 森の奥の方では、強さだけではなく搦め手を使ってくる奴らが多く、糸や毒、擬態など、少しの油断が死に繋がった。


 その力を私は吸収していく。


 そうしなければ生き残れない。


 麻痺毒を腕に喰らってしまい片腕が使えなくなった時に、私もそれが欲しいとトカゲを追い回す時期があった。


 トカゲが棘の射出体勢に入る。

 見つかったかと思ったら、私とは違う方向。 

 棘が打ち出されたところを見ると、人間が転がっていくのが見えた。


 あれは死んだ。


 これからトカゲに食われる。


 弱いのに、こんな森の奥に来るな。


 そう思っていたのに、そいつが大木を切り倒した。

 何の冗談かと思った。


 こんなに小さいのに……。

 死にたくないって泣いてるのに。


 助けてってお願いしてくるその子は、とても臆病だ。

 私が守ってあげないと、ここでは簡単に死んでしまう。


 不安そうについてくる姿は、見た目以上に小さくて。

 抱きついてくる体温はとても暖かくて。


 私が捨てた物をこの子は持っていた。


 決めるのに時間はかからなかった。





「ルクスルなんて大っ嫌い!」


 私が上機嫌でご飯を食べていると、トテが叫びながら入ってきたので、すかさず抱きしめて撫でまわす。今日も柔らかい。


「トテ、トテ、もう一回言って?」

「大っ嫌い!!」

「膨れたほっぺが、かわいいよー」

「やだー!」

「お前ら、話し合ったんじゃないのか!?」

「話した結果、トテに押し倒されたので昨日もトテの身体を堪能しました!」


 みんなにもこの意味がわかるように報告する。


「――――ルクスルが泣くから、仕方なく!」

「仕方なく何したんだっけ? 言って! みんなに言ってあげて!」


 あうあう呻いてるトテの顔は真っ赤だ。

 今日もやることがたくさんある気がするけど、もういいんじゃないかな。


「叫んだら疲れたよね? 私も我慢できないから、もう一度寝よっか?」

「トテには領主の屋敷を建ててもらうっていう仕事があるんだよ! ルクスルは飯を捕ってこい!」

「そうだ! トテに私たちの家を建ててもらってるんだ。トテ、私たちの部屋は一緒でいいからね」

「――――部屋は余るぐらいに作ります!」


 なら、私がトテの部屋に行くだけ。


 これからはずっと一緒に居られる。


 私たちは決めたのだ。




次話は屋敷が完成したり、領主に会ったりする予定です。


隙があれば百合をぶっこみたい!

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