61 仕事
終わらせ方が決まったのでそこに向けて書き進めようとすると、終わりたくないと言う気持ちがあるのか、筆がまったく進まなくなる。
100話くらいで終わるつもりだけど、200話くらいまで書き進める気持ちで、全然終わりそうにないってごめんねって謝る気持ちで……!
何とか、以前の更新スピードまで戻したいな。
追記
ティグルの性格と口調を変えました。
何故ならば、お姉さん振るトテを書きたかったからです!
……名前、名乗らせられなかったよ。『テ』が付く名前多いし、変えるかも……?
ちゃんと今まで働いていたという証拠に森から持ってきた狼の毛皮類を倉庫に納めてくるデジーさんとは別れ、しばらく留守にしていた私たちの部屋にルクスルと向かう。
「維持はしてくれてるんだって」
誰か他の人がすでに使っていたり、荷物だけ押し込めて物置になってたりはしていないそうだ。
「……掃除もせずに、放置してるだけとも言うそうだよ」
「うわぁ、中を見るのが怖いですね」
蜘蛛の巣だらけだったりしたらどうしよう……。
「……私の最初の仕事場は、どうやらここのようですね」
「後で手伝ってくれる人は寄こしてくれるんだって。せめて眠れるくらいには綺麗にしないとだね」
扉の前に立ち、取っ手に手をかける。物音とかはしないので、まだ誰も来ていないようだ。無策でこのまま突入する気はさらさらないので、いきなり部屋の中に踏み込みはせず扉は開け放っただけだ。
「……どう?」
「見た目はそれほどひどくはありませんね……でも、埃は満遍なく積もっているはずなので、入れば足跡が残ると思います」
窓も扉も閉めていたはずなのに、何故埃は積もってしまうのか……? 廊下の空気が流れ込み、空中に埃が漂い出す。しかし、減ることなど無い。
「……窓から開けちゃいますね。風が入って埃が舞うと思いますので、息はしばらく止めてた方が良いです」
私の靴底の方が汚れているわけではないと思うけど、一歩踏み出すたびに残る足跡が気になり、何故か足を上げてまで確認してしまう。
「……布団は駄目だね。デジーが毛皮を持ってたから奪わないと」
「ちゃんと説明したら、普通に用意してくれると思いますけど……?」
「毛皮に細工される時間を与えたくない。一回しか使ってないから大丈夫だろとか、それをトテが良い匂いがしますとか言ったら殺意も芽生えるってもんだよ」
……考えすぎだろう。そんな意地悪なんてするわけが――好意による計画的犯行だったら、もしかしたらあるのかもしれない。
「……奪いましょう」
「私たちと別れて油断してる今なら背後からいけるよ、きっと!」
……後は天井と床の埃か。家具をどこかから持ってくるにしても、まずは掃除しないと置くことすら出来ない。
「……久しぶりの暗殺か、腕が鳴るね」
「奪った布団は廊下に汚れないように置いておいててください。あと、返り血で汚したりしないでくださいよ? 私は掃除用具を探してきますので」
ルクスルと別れ、私が向かうのは玄関前や小さめな部屋。まさか、広い部屋の真ん中に掃除用具がポツンと置かれてたりはしないだろう。掃除用具はこの屋敷を建てた時に用意したのに、そういえばこまめに掃除しているような形跡は無い。
建てたばかりの頃は屋敷も綺麗に使ってはいたけど、長年の習慣という奴で結局掃除はおざなりになっているのかもしれない。
諦めて部屋に一度戻ろうとした時、土でできた靴底跡も綺麗になくなっている区画を見つけた。
取り敢えず、無くなっている跡を辿ってみようと歩き出し、しばらく進んだ先でようやく掃除してくれている人は見つけられたけど、声を掛けようとして身体が固まるほどの衝撃を受けた。
「……あ、あの」
「ん? ……誰だお前? 何か用か?」
……その人は、私と同じ位の身長だった。
年が近そうな、隣に立っても上司と部下の関係には見えそうもない人との関わりが薄かった私には、どんな言葉使いで接すれば良いのか思い出せなかった。
「……はっきり言えよ。こっちも忙しんだからな!?」
「えーと、掃除…してくれてるの?」
砕けた口調は久しぶりだ。盗賊団には私より年上しかいないようだし、王都に居た時もみんなとは仕事仲間のような間柄でしかなかったから。
「見りゃわかんだろ? あ、お前ここの連中の仲間か? じゃあ、わかんねえよな。掃除とか、手伝いもしたことなさそうだもんな」
「それぐらいするよ!? 今も部屋の掃除をしようとしていたところだったんだから!?」
「……そう言って、つまんないから後は任せて外に遊びにでも行こうとしてたんだろう? お前、ちっさくて要領悪そうだもんな」
……何だこいつは!? 失礼にもほどがある!? 大体、同じくらいの身長だろうに、そこまで言われる筋合いは無い!?
「……嫌い」
「俺もだよ」
……はっきりと感じる、こいつとは慣れ合えない。
だけど、このまま逃げ帰るわけにはいかない。ルクスルが頑張って布団を用意してくれている時に、私だけ手ぶらでは帰れない。
「……私は掃除用具を探してただけだから、置いてある場所だけ教えて」
「良いが、誰も使うことなんてなかったから、掃除用具をまずは掃除しないと汚れを広げるだけでまともには使えないぞ。これは、俺が今使ってるから渡すつもりは無い!」
うん、それなら、何とか貸してもらえるようにお願いする――つもりは全くない。ここの掃除用具が使えないのなら私がこの手で作ってしまえば良い。
「……そう、じゃあもういいや」
「何だ、ちゃんとお願い出来たら貸してあげても良かったんだぜ……?」
「いらない、そんなの使いたくない」
「おい、俺の相棒をそんなのとは何だ」
手に持った箒を、こいつが自慢するように構えた。……ちょっとヤバそうだ。言い過ぎかなと思ったけど、敵意を向けられたのなら私も全力で相手する。
ルクスルにさんざん教え込まされた押し倒し方を、まずはこいつで試すことにしよう。
――泣かす!
「(トテの――)」
……あ。
「トテの悲鳴が聞こえたー!!」
「……ルクスル」
「おい、あんた!? せっかく掃除してんのに、走ってんじゃねえよ!?」
……私のルクスルをこいつ呼ばわりとはいい度胸だ。男の子のくせに、ルクスルを見て好意の目さえ向けないなんて、やはりお仕置きは必要らしい。
「ん? 何、このお子ちゃまは? トテの友達? ……トテの友達ー!?」
「違います! 完全に敵だよ!?」
「……だよ?」
「……です」
……油断していた。相手によって言葉使いを使い分けるのは難しい。
「敵なら倒さないとね!? まさか負けたりなんてしないよね、トテ!?」
「もちろんです、泣かしてやりますよ!?」
「おい、姉ちゃん! これは俺とこいつの勝負なんだから横から出て来るんじゃねえよ!?」
「私は手を出しませーん。トテだけで勝つことで褒める理由は生まれるのです!」
……私が勝つと信じてくれてるルクスルの前で無様に負けることなど、私が許さない。
「それで…何の勝負? まさか素手のトテ相手にその棒を振り回してきたりはしないよね……?」
「当ったり前だろ、姉ちゃん!? 男だったら――」
「トテの武器は私が用意するよ、刀で良い……?」
「ルクスル、私の愛用の鉈でお願いします!」
「おい、ただの喧嘩に何を持ち出そうとしてるんだよ!?」
……怖気づいたか。森で暮らしてた私にとって、命のやり取りは日常茶飯事だ。ただ、首領にこの騒動を知られたら私も凄く怒られるだろうし、屋敷の壁も一部無くなったと思うから、喧嘩を過剰に盛り上げることでやり過ぎだとお互いの頭を冷やさせた手腕はさすがルクスルだと思いたい。
「……命拾いしましたね」
「おい、本気か!? どんな教育受けてきたんだよ!?」
「命拾いしたね」
「姉ちゃんの教育の賜物か!?」
……私には一億歩許しても、ルクスルにそんな言い方はないだろう。大体、私のルクスルを気安く姉ちゃんなどと呼ばないでほしい。
「……それで、喧嘩の原因は何? 大丈夫、トテが悪くないことは分かってるよー」
「悪いのはそっちだろ!? ……何か気に食わない!」
「私も嫌いだよ!? ルクスルのこと悪く言うんだもん!」
「うーん、やっぱり、このお子ちゃまが悪いね!」
「ルクスル、もしかしてそれって私のことですか!?」
「トテは大人の階段を2、3段飛ばしで登ってるから、もう子供なんかじゃないよ~」
「……こんな奴が大人~?」
「ルクスル、かがんでください。舌をねじ込みますけど、覚悟は良いですね!?」
「待って、無理。ちょっと泣かせて……」
――こんな時に!
「ん? ルクスルってあの有名人か。噂通り泣き虫なんだな」
「今度はルクスルに喧嘩を売るつもり!? 動けないルクスルの代わりにその喧嘩私が買うよ!? 良いですよね、ルクスル!?」
「泣いてるのは事実だろ!? 首領に頼まれたのがこんな奴らの部屋の掃除だなんてな!? 廊下の掃除も終わらないのに余計な仕事増やしやがって!?」
うん? ルクスルが言っていた、掃除を手伝ってくれる人ってこいつなのか……?
「……トテ、無念だけど私たちだけじゃ部屋の掃除を今日中には終わらせられない。せっかく来てくれたんだし、……仲直りしよっか?」
「大丈夫ですよ、私が頑張りますから! こんな奴の手を借りるまでもありません!」
「……うん、一緒に頑張ろって言いたかったんだけどね。……私、掃除に関しては役立たずだから。……だから…首領に…私に掃除の仕方を教えてくれる人を紹介してもらったんだ。……それが、こいつらしい……」




