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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
6/82

6 想い

エロくしない。エロくしない。


気持ちを伝えたいだけだから……。



「トテちゃん、起きれる?」


 知らない声。

 聞いたことない声。


 さっきまで私と一緒に居たのは……。


「……ルクスル?」

「違うよ」


 誰?


「首領が呼んでるけど、動ける?」


 動きたくない。

 体がだるい。


「私はシュアっていうんだけど、トテちゃんが起きないから様子見てきてくれって、……ルクスルの同僚」


 ……ルクスル。

 こんなことされるとは思わなかった。

 苦しくて、恥ずかしくて、めちゃめちゃ泣かされた。


「ルクスルが首領にすっごい怒られてたよ。ルクスルが謝りたいって。今日は首領と外に行く用事があったんでしょ? 動けなくしてごめんって」

「……会いたくない」

「でも首領が呼んでる。そこにルクスルもいるよ」


 泣きたくなる。


 見られたくない。

 私の気持ちは知られたくない。 


「ご飯の用意もできたんだって。行こ!」


 ……喉はカラカラだ。

 全身の水分が抜けたみたいに。


 それでも涙は出た。


「ほら、行くよ」


 シュアさんが手を貸してくれる。私をおぶって、連れて行ってくれた。






 昨日も来た広間だ。

 ここで首領と、これからの予定を話したっけ。


「トテ、大丈夫か?」


 満足に動けない私を心配して、首領が声をかけてくれた。

 その隣には土下座したまま、顔を上げないルクスルの姿もあった。


「……だいじ」


 大丈夫とは言えない。言いたくない。


 ルクスルの前で。 


「トテ、ごめんなさい!」


 ルクスルは申し訳なさそうに謝ってくれるかと思ったけど、昨日の私みたいに泣いてるかと思ったけど、やっぱり……すっごい笑顔だった。

 

 許せない。

 絶対に、絶対に、絶対に許せない。


「トテ、怒った?」

「すっごい怒ってる。もうやめてね、あんなこと!」 

「……どんなこと?」

「ずっと、ずーーーーとキスしてたこと! あと私の身体を変に触らないで! 今も全身がくすぐったいんだから!」

「お前ら! そういう話はここですんな!!」


 首領の怒鳴り声で、言い争いは終了させられる。


「……何か、この部屋熱くない?」

「誰のせいだと思ってんだ! このバカ!!」


 食卓を囲んでいる他の男性陣はうつむいてる。

 何か、下に落としたのかな?


「ルクスル! お前のおかげでトテが起きて来なくて、領主のところに連れて行けなかったんだぞ。もう次の日に影響するようなことはするな!」


 ……そんな予定だった。

 昨日はルクスルが疲れたかなと思って、私も今日は用事があったので早く寝ようと思ってたのに、……途中でよくわからなくなってしまった。


 ……何故か、今も体中がおかしいのだ。


 だから、ルクスル! 私に抱きついてこないで! 

 頬ずりしてこないで。


「トテ、顔が赤いよー?」

「ルクスルのせいだからね!」

「トテ、トテ、かわいいよー」

「離れてー!」

「お前ら、そういう関係になっちまったのはわかったから離れろ!」


 ……どういう関係?

 お姉ちゃんとして慕いたかったのに……。


「トテ、外に出るぞ。……ルクスルはついて来るな。お前は森に行って獣でも狩ってこい!」


 首領が私たちを引き離してくれる。


 私もこれ以上ルクスルと話していたくない。

 ルクスルを見てるとすごく恥ずかしい。

 

 昨日は私が私じゃない声が出た。

 私が知らない私を、ルクスルに見られた。

 それなのにルクスルは平然としてるし、何故かすごくもやもやする。


「トテ抜きでここの領主と話してきた。建物自体は、今の領主の屋敷以上の大きさじゃなければ建ててしまってもいいそうだ」


 首領に引きずられてアジトから出る。陽は高い。どのくらい眠ってたんだ私は。


「……少し歩くぞ。建てる場所は街中じゃなく、この山を下りたところに造る。一応、領主の別荘という程で造るから、街道からも少し離す」


 案内された場所は、すでにローブで建物の造る配置をおおまかに決められていた。何人か作業している人がいる。


「さすがに全部、トテに任せっきりってのも何だから、手伝ってくれる仲間だ。仲良くやれよ」

「……はい」


 仲間か。ロープの位置を見る限り、かなり大きい屋敷を造るつもりのようだ。一人で造るのも時間がかかるし、手伝ってくれるなら、ありがたい。

 

 ……造ってしまってもいいのだろうか?


 これからルクスルたちと住む家には、もう不安しかない。


「トテ、ルクスルが嫌いになっちまったか?」

「……少し」

「そうか、あいつも急ぎすぎたんだよ。ここにはいろんな奴がいるから焦ったんだ。お前のことを取られると思って、……心配だったんだよ」

「……でも、くすぐられて苦しかったし、ルクスルはいじわるしすぎです」


 まさか気絶させられるとは思わなかった。

 さすがに、それはやりすぎだ。


 ルクスルはどういうつもりだったんだろう。


「トテ、もしかしてわかってないのか?」

「わからないですよ。何でルクスルがあんなことしたのか!」

「あー、お前はまだ、小っこいからなあ」


 首領は頭を抱えている。


「トテ、今日の夜に見せておきたいことがある。お前には早いと思ったんだが、ルクスルがあんな感じなら知っておいた方がいい」

「……何を?」

「この世界のことだ」


 なんだか、スケールが大きそうな話だ。

 

「飯食ったら、俺のとこ来い。ルクスルには内緒だぞ」

「……うん?」


 それからは、手始めに領主の屋敷の玄関ホールを作った。ドアはとりあえず後で作って、見栄えがいい広いホールを作って階段で二階へ上がれるようにする。各部屋はまだ作らないので、ドア予定の壁を通ったら空中だ。ロープを張って立ち入り禁止にする。

 領主の屋敷に行けなかったのは残念だ。別荘予定らしいので似たような装飾にしたかったけど、ルクスルのせいで。


 



 アジトに戻ったら、ルクスルがいるかもしれないと考えると尻込みしてしまった。


 会いたくはないんだけど、それでももし、ばったり会ってしまったら、なんだかんだでいつも通りに戻れればいいと思ってしまう。ルクスルにはルクスルの仕事があって、私とは過ごしてる時間は違うんだけど、それでもいつも一緒に居たいって思ってしまう。


 会えなかったけどね。


 ご飯の時間になってもルクスルは戻ってこなかった。仕事が忙しいらしい。


 時間が来て、私はおじいさんのところへ向かう。

 アジトから外に出て、少し歩くと小さな小屋が見えてくる。


「ここだ。あんまり大きな声は出すなよ」


 おじいさんが木で出来た扉を開ける。扉の裏側は鉄で出来てた。なんで?


「あれ、トテちゃんじゃない」


 中に居たのは十人ほど。私を起こしてくれたシュアさんも居た。


「首領、さすがに早すぎるのでは?」

「見学だけだ。絶対にお前ら、トテには手を出すなよ。俺がルクスルに殺される。……マジで」


 私が困惑していると首領に部屋の端に連れられた、邪魔にならないようにって。

 これから何が始まるの?


 ……。

 …………。


 何をしてるの。

 昨日の私と同じこと……?


「トテ、これが世界ってやつだ。別に秘密ってわけじゃない、これは大人になれば自然にわかることだ。……先に言っておくが、これは悪いことなんかじゃない」


 服を脱いで。

 なんで、みんな平気なの?


 悪いことだよ。

 だって、私は昨日、とってもつらかった。


「これをしないと仲間も人も家族も増えない。虫も獣も人も、みんな同じだ」


 みんな? 私だけ知らなかったの?

 秘密だから。


 私が知らなかっただけで、ルクスルは知ってて、教えてくれた。

 でも、……私は嫌がった。


「当たり前のことなんだ、これは。……トテが知るのは早すぎると思ってた。でもルクスルがしたって聞いて、されたその意味をトテは知るべきだと思った。無理やりされたとは聞いた、苦しかったと聞いた。それなら、ルクスルに嫌だってちゃんと言ってやれ。お前はまだまだ子供で、……女同士だしな」


 つらかった。

 恥ずかしかった。


 でも、ルクスルのことは嫌いでは無い。


 私はただ、ルクスルとずっと一緒にいたかっただけ。

 それだけでよかったのに。


 それなのに、これはしないといけないの?


 ……嫌だ。


 嫌だ!





 茫然としている私を首領が部屋まで連れて行ってくれた。


 ……ここには居たくない。


 ルクスルが帰ってくる。

 シュアさんも帰ってくる。

 みんながこれは当たり前だよって言ってくる。


 怖い。


 人どころか、世界が怖い。


 私が知らないことを、これは普通って言ってくる世界が怖い。  


「トテ?」

「――――ひっ!?」


 ルクスルが帰って来た。私の喉からは悲鳴しか出てこない。


「首領とドコ行ってたの?」


 首領とは今日のことは内緒って言われた。私も世界の秘密を知ってしまったことを、ルクスルに知られたくはない。これは普通のことなんだからって、手を伸ばされるのが怖い。


 それでも、ルクスルはいつも通りに私を抱きしめてくる。


 身体が強張る。足が震えて、立っていられなくなる。


「……やめて」


 私の精一杯の言葉だ。

 出そうになる涙を我慢して、なんとかルクスルの眼を見る。


「トテ、そんなに……嫌だった、かな?」


 泣き出したのはルクスルの方だった。


「私じゃ、駄目だったかな? 嫌いになったかな? もしかして、もう……会いたくなかったかな?」


 そういうわけじゃない。


 ルクスルとは一緒に居たいのに、こういうことをされるとは知らなかっただけで。

 大好きだから、こういうことしないと駄目だと知っただけで。


「……ルクスルのことは大好きだよ」

「じゃあ、なんで!?」

「……知らなかったから」

 

 私は家を作ることだけに夢中で、人のことを知らなかった。


「私はトテのことが好きってちゃんと言った!! トテも、私のこと好きって……」

「こういうことをするなんて知らなかった!」

「……トテにとっては、私はただの友達だったの? ……私、勘違いしてたのか」


 力が抜けたように笑うルクスルは泣いてて。


「ごめん、ごめん、ごめん!」


 泣かせたかったわけではなかった。

 ただ、傍に居てくれれば。

 それだけなのに。


「ルクスルは大事な人だよ?」

「姉としてだよね! ただの家族としてだよね!?」


 違う! 

 

 大事な人で、家族で、好きな人で。


 あとは……。

 言葉が思いつかない。


「ごめんねトテ。これからはちゃんといつもの私に戻るから。……もう、大丈夫だから」

「違うの! ルクスルは大好きな人で!」

「……ありがとう」


 どうすればいい?


 ルクスルが行っちゃう。

 私から離れていく。


 このアジトからも、居なくなってしまうかも。


「ルクスル!!」


 私から手を伸ばす。頭には届かないので、首の後ろに手を入れて引き寄せるしかない。ちょっと苦しいかもいれないけどお相子(あいこ)だ。

 昨日の私みたいに……。


「トテ? んん……!?」


 キスをした。


 私が大事だって伝えるために。

 言葉では伝えられなかったから。


「……トテ?」

「私はルクスルが大好きなの。……わかった?」


 返事はない。

 

 言葉じゃなく、舌で伝えられた。……何故!?


 仕方なく、私に入ってくる想いをさらに押し返す。


「トテが好き」


 私はその言葉を返すことができない。

 

 単純に苦しいから……。


 本当にこんなことしないと駄目なの?


 それでもルクスルを繋ぎとめることができたから。

 

 これでいいんじゃないかって思った。





 昨日の二の舞にされた。


 また、私は私じゃ無くされた。


 ルクスルが、耳元でずっと好きって言ってた。 


 私には答える余裕は無くて、ルクスルの体温だけを感じてた。私とルクスルの想いは一つだったから、私がルクスルになってしまったような気がした。


 目が覚めて、一人で泣いた。



書きたいことは書けたかな。


最終話は考えてるけど。

さすがにまだ続けた方がいいよね……。


トテが国王に見つかって、アジト解体して、みんなついて来ての投げっぱなしエンド!

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