59 外
「……と言うか、お前ら俺のこと信用し過ぎじゃね?」
うん、まさかその結果、デジーさんがこんなにも積極的に近づく理由を模索し出すとは思っていなかったのだ。やはり危険だと、改めて認識する必要はあるようだ。
「大丈夫だよ、トテ。なんだかんだ言って、デジーは何もして来ないから。……それに、トテのことは私が守るし、私のこともトテが守ってくれるんだよね……?」
「はい、それはもちろん!」
私が前から抱きついているのでルクスルの身体は隠せているし、もしデジーさんが無理やり私を引き離そうとしてきたら全力で抵抗する所存である。
……問題は、見られていることに鈍感なルクスルが、焚き火に薪を継ぎ足そうと、めいいっぱい手を伸ばして動き始めたことだ。もう少し見られていると言う危機意識は持っていてほしい。
「……ルクスル、大人しくしててください」
「うーん、薪を足さなくても私は別に寒く無いんだけどね。トテも、何故か発熱してる私にくっついているおかげでそれほど寒くは無いでしょ? ……だけど、ここで私が大人しく座っていたら、トテはこんなにも必死に私に抱きついてはくれないじゃない!?」
「……ルクスル、私疲れてきました」
「大丈夫!? 私の膝の上で眠る?」
……付き合いきれないと私だけ眠ってしまうと、からかい終えたと満足したルクスルなら濡れた服でも平気で着てしまうかもしれない。……さすがに、この恰好のまま放置されるのは恥ずかしすぎる。
「……すまん、さすがにからかい過ぎたな」
デジーさんが誤ってくれたけど、大体はルクスルのせいです。それでも、残念ながらデジーさんの評価は下降気味だ。誰にでも反応すると言われたら、敵認定されても仕方が無いと思います。
「トテの可愛い姿を見られたから私は満足。だけど、デジーにまで晒す羽目になるなんて……」
「……言っておくが、ルクスルも同じ恰好なんだぞ。……他人に自分がどう見られているかなんて、深く考えていないんだな」
「私はトテからの評価で十分だから」
「……他人の感情に興味が無いなら、尚更今みたいな思わせ振りな態度は取るな。ちょっとしたことで、好かれてしまう瞬間はあるってことだけは覚えておいてくれ」
「……そんなの要らないって言ってるのに」
「ルクスルが取られるのは困りますので、それなら他の人に評価されること自体を避けさせた方が良いのかもしれませんね」
「任せて、それなら得意だから。トテが近くにいない時は、常に無表情で過ごすことを誓います!」
「……いつもじゃねえか。それで、トテに会ったら笑顔になるんだろう?」
「当たり前じゃない!」
「だから余計に相手が勘違いするんだよ。……その笑顔を自分にも向けさせてみたいってな」
……だけど、町のみんなはルクスルの駄目っぷりと怖さは良く知っているはずだ。
よほどのことが無い限り、近づこうとも思わないはず……。
「……はっきり言うとだな、この前の騒動でルクスルに好意を持った奴が町に溢れている。……危険なのは俺だけじゃないってことを、町に着く前に知らせておきたかったんだ」
「……ルクスル、好かれてるんですって」
「いやー、モテる女はつらいね。でも、告白してきた奴の返り血を浴びていけば、そのうち馬鹿な幻想を見たって、みんなも気づくと思うから」
……それはそれで嫌だけど、料理も掃除もようやく覚えようとしてくれている段階のルクスルでは、共同生活もままならないことを思い出してくれるだろう。
やはり私だけなのだ、ルクスルと一緒に居られるのは。
「……じゃあ、ルクスルと一緒に暮らせることの凄さを、私がみんなに教えてあげます!」
「うん……? トテ、私頑張ってたよね?」
翌日、途中にいくつもあった破壊の跡をデジーさんに弄られながら森は抜けた。
倒れて苔生していた樹々は二人にも歩きにくいと言われてしまったので、綺麗に加工して積み上げておく。このまま朽ち果てさせるのも悪いと思ったし、もしかしたら取りに来ることもあるかもしれなかったから……。
「……トテは大丈夫? 疲れてない?」
後ろから付いて来てくれているルクスルから声がかかる。
「はい、今回は自力で森を脱出することも出来ましたし、まだまだ歩けそうなのもルクスルの指導の賜物ですね」
「……俺が案内してやったからだろうが」
「……前は結局力尽きて、ルクスルに背負ってもらったんです。気づいたら森の外でした……」
「そうか、少しは成長したんだな」
ゴツゴツとした岩を乗り越える。
樹が生えていないと言っても、歩きにくいことに変わりは無い。
「……私たちの部屋ってどうなってるかなー? いつまでも空き部屋にしておくわけにはいかないって、別の人が住んじゃってるかもね」
「他の部屋が空いていたら良いんですけど。……しばらく振りに帰って来て、屋敷の中を我が物顔で彷徨くのも気が引けますし……。私たちを知らない新人さんに追い払われたりしたらどうしましょう……?」
「その時は、元気良く自己紹介からだよ。デジーに人付き合いの仕方も教わったし、役に立つと良いね」
遥か遠くに町が見えた。
まだまだ先は長そうだ。
森を抜ける場所を間違ったのかと思ったけど、ちゃんとした道を歩いた方が早く着けるに決まっている。
まばらだけど他に歩いている人もいるし、遠くに馬車が走っているのも見える。
「トテ、あそこに走っている馬車を奪いに行くよ!」
ルクスルが楽しいことを思い出したようにいきなり走り出した。
馬車は走っていると言っても、荷物を運んでいるようで動きはゆっくりだ。それでも距離があるし、このまま歩いて追いつくことは出来ないだろう。
「……走る元気は無いんですが」
「仕方ないなあ、私が背負ってあげましょう」
「遠慮します、デジーさんならまだ知れず、初対面の人にそんな恥ずかしい格好で突撃したくはないです」
「……良いことを聞いた。まさか、我慢を忘れた私と一緒に居て無事で済むとは思っていないよね?」
……まずい気がする。
「トテが恥ずかしがってる顔が見たいなー」
本当のことを言うと、朝から歩き詰めで町までの道のりにはうんざりしているのでルクスルに背負ってもらうのもやぶさかではないんだけど、ルクスルのお願いに簡単にうなづくつもりは無い。
「……ルクスル、私を背負ったら私の恥ずかしがっている顔は見れないんですけどそれでも良いんですか? そんなので…ルクスルは満足してしまうんですか?」
「…………」
……思いっきり悩まれるのもどうかと思う。
「俺が背負えばルクスルからも見えるだろう?」
――デジーさん! っバッカ!?
「まさか、トテに一本取られるとはね」
「え? 納得してしまうんですか?」
「……うん、トテも成長したね。じゃあ、トテが単純に心配だから背負ってあげたいってことで。……乗ってくれる…かな?」
「……はい、私もルクスルに連れて行ってほしいです」
ルクスルの背中に手を回す。
……別の意味でますい。心地良くて、一瞬で眠ってしまいそうだ……。
「よーいっしょっと!」
……その掛け声はどうかと思います。
「……しまった、馬車に追いついたらトテを降ろすことになっちゃう」
「ゆっくり行きましょうよ。……ルクスルには悪いですけど……重くないですか……?」
「全然平気、トテだもん」
「……どういう理屈ですか」
軽やかに歩いてくれる振動で意識が少しづつ奪われる。
森は抜けられたけど、町まで体力は持たなかった……。
次は無い。
もう……森に逃げ込むことは……無い。
「…………」
うん?
「……すいません、待ってもらっちゃって」
……待って?
もしかして…馬車?
……背負われてる私を見て…待ってくれた?
「良いってことよ、あの町に行くんだろ。……行くんだよな!?」
「はい、……迷惑かけてすいません。首領」
――首領!?
心の準備が!?
格好いい行動
恰好いい服
……どちらでも良いらしいけど、使い分けるのもめんどいから、かっこいーで
まずい と やばい は昔からある言葉らしいね
まさか、調べる羽目になるとは……
一本取られた は柔道用語かと思ったら、そんなことも無いらしい……




