54 大人
せーりょくてき 〇
せーよくてき ×
頭の中がエロい事ばっかりだから、恥ずかしい書き間違いをしてしまうんだよ!?
「……」
……ルクスルの視線を感じる。昨夜、デジーさんとは友達になっただけだと何とかわかってもらえたと思っていたのに、朝ご飯の手伝いを買って出た私の隣で精力的に働くデジーさんをルクスルは不機嫌そうに監視しだしてしまった。強行に反対せずに、私の自主性に任せてもらえたのは嬉しいけど、それ以上口には出さずに黙って見張られているのも落ち着かない。
「……ルクスル、怒ってます?」
「怒ってないよー、トテに友達が出来た事はとても嬉しいよ。でも、デジーは……無いんじゃないかな?」
「……デジーさんは良い人ですよ。なんだかんだ言って私に手を出してきませんし、頼りにもなります。ルクスルだってお世話になってるじゃないですか?」
告白を断り続けているのに変わらず接してくれているデジーさんの姿勢には少なからず感謝しているし、私もこの出会いを軽視して良いとも思っていない。物資の運搬という仕事が終わって町に戻っても、私を無視したりなんかはしないだろうと思うくらいには信頼している。
「甘いよトテ。男ってのは狼なんだよ? 油断したら襲われちゃうんだから。その気になったら、信じてたのにって言葉も聞いてくれなくて暗がりに連れ込まれちゃうんだよ?」
「……秘密の路地裏なら、デジーさんに連れて行ってもらいましたけど?」
「……駄目、デジーとは縁を切った方が良い。ちょん切った方が良いよ」
「ルクスル、私はいろんな人と話がしたいんですよ。……ずっとルクスルと二人っきりで過ごしてきたので、私は初めて会う人への話しかけ方を忘れてしまったんじゃないかって……、町に戻ったら私は怖くて自分からは何も出来なくなっているんじゃないかって考えたら不安になってしまって……、友達を作る練習がしたいんです」
これから町に帰るのならばルクスルとは一緒の部屋に住むにしても、四六時中ずっと行動を共にする事は難しくなってしまう。それでなくても、仕事中は別行動なのだ。私も知らない人と触れ合う機会は増える。せめて、屋敷の中で気兼ねなく話せる相手は欲しい。
その時の練習の為にもデジーさんの存在は最適だった。……他に話せる人がいなかったのだからしょうがないと、……消去法ではあるのだけれど……。
「何々、俺ってトテの練習台だったのか?」
朝ご飯をテーブルに並べながらデジーさんが話に割り込んで来る。聞かれてしまったと慌てふためくような真似はしない、町では顔が広かったデジーさんには是非とも協力してほしい。
「そう、トテの練習は成功したからデジーはもう必要無いって」
「……全然終わってませんよ。デジーさんとはこれからも仲良くしていきたいですし、どこへでも顔を突っ込んで来られるデジーさんの図太さを近くで見習いたいんです」
「……図太いって」
「うるせえよ」
「ほら、そこまで怒らないデジーさんには憧れます」
「……ずーっと、『友達』で、いたいんだってさぁ!?」
「止めてくれないかなー!? 泣きたくなる!!」
「……ルクスルとまた町で暮らせるのは楽しみですよ? でもそれ以上に、たくさん人が住んでいる中に、私のようなのが紛れ込むんです。嫌われたらどうしようとか、追い出され――――、とにかく、……知り合いを増やしたいと思うのは当然の事です!」
今までは、私のすぐ隣にはルクスルがいつもいてくれた。過保護のルクスルは、あまり私から離れたがらなかったから……。
だけど、盗賊団の仕事には秘密もあるだろうし、ルクスルも仕事を放り出して途中で抜け出す事なんて出来るわけがない。私も団員が狩りをしていた場所は知らないし、我慢できなくなって探しに行った理由を聞かれでもしたらばれてしまう。
「……トテは独りになってしまうのが怖いんだね。……ねえ、独りでするのは寂しいって言ってみてくれるかな?」
「全然へっちゃらです!」
せっかく町に帰るのに、戻る理由がルクスルに仕事を辞めさせる為だと気づいた時、自分勝手なわがままだと気づかされた時、私は私が良い子であり続ける為に嘘を吐き続けられる道を探した。……寂しさを埋める代用品を、求めてしまった。
「……トテは我慢しなくても良いんだよ? 私が我慢出来ないんだから……。寂しがってるトテを急いで迎えに行くのも、私はとても楽しみにしてるんだからね」
「……はい」
寂しささえ希望に変えられるルクスルの考え方も、私は見習う事が出来るようになれたら良いのに……。
「トテはいつまでも子供でいてね。……本当に、大人ぶって無理しなくて良いんだよ? 大人になりたいなんて心臓が凍るような事を呟いたら、耳聡い連中が忍び寄って来ちゃうからね?」
結局、心配させてしまったルクスルには悪いけど、ここまで子供扱いされるのも私の本意ではない。必死に解決策を探ろうと頑張ったのに、私の成長を喜んでくれていない様子にもやもやする。
大人になったら自分の事は自分で決めなくちゃいけないらしいし、それならルクスルと一緒に住む方法を模索し続けている私は大人に片足を突っ込んでいるようなものだと思う。
……でもそれなら、たまに首領の命令で動かされているルクスルも、本当に大人と言っても良いのだろうか?
「ルクスルは、もう……大人?」
「――――っぶほ!?」
「汚ねえなあ!? ルクスル!?」
……やはり、聞いてはいけない事だったのだろうか……? 私と変わらず寂しがっている様子はとても大人の女性とも言い難いし、身長はルクスルの方が高いけど身体周りは私ともそんなに変わらないし、私より年齢が上だというだけでルクスルも私を心配させないように無理をしているだけではないのか……?
「そんな哀れむような目で見ないで!? これは仕方の無い事だから!? むしろ、トテの為に残しておいた私を褒めて!?」
「……? ……じゃあ、ルクスルもまだ子供じゃないですか?」
「……あ、あう。……そうですー、私も子供ですー。悪い!?」
偉そうにふんぞり返る事で一部の体形が強調されていて、もしかしてルクスルには追いつくことが出来るのかもと希望が持てた。年齢はどうやってもお揃いにはなれないから、今はゆっくりと大人な考え方を身につけていければと思う。
「……あの百戦錬磨と噂されたルクスルさんがまさか子供だったとはな……。男に飽きて、女に手を出し始めたと恐れられていたのも、本当は男が怖かっただけじゃねえのか?」
「……こ、怖いとかそういうのじゃないから!? 男共とは話が合わなくて避けてたのに、いきなり距離を縮めてくるから全力で振り払ってただけだから!?」
「……陰では泣いてたんじゃないか? また、素直になれなかったってな?」
「あ、それは無い。……皆、もげれば良いのにっていっつも思ってる」
吐き捨てるようにルクスルが言う。
「その点、トテは私が距離を縮めたいって思わせてくれたもんね。不安そうに怯える姿は可愛かったし、怖さなんて感じなかったし、……私より弱かったしね」
……一言、余計です。
「……ルクスル、お前……もしかして、自分が一番強いって思いたかっただけじゃ……? だから、力だけでは解決出来ない相手からの感情って奴が怖くて、逃げだした……?」
「うん、そうだよ。トテー、私好きって言われるのが怖いの、何とかして?」
「え、ああ、はい。……頑張ってください」
魔の54でわかったこと。
① ルクスルは処女。
② お前が娘になるんだよ。
③ 噂を広めたのはデジー。トテに振られた腹いせにやった、今は反省している。
そして、魔の55でわかること、それはまだ混沌の中、それが――――。




