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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
52/82

52 相談

 私は夕食を少ししか食べられなかったけど、他のみんなはまだ食事を続けている。ノーダムさん秘蔵の飲み物がまたもや出され、昨日の失敗に懲りていた私はそれに手を出して強引に会話の中心に飛び込む勇気も、無駄に辛い料理の話題に混ざることさえ出来ずに、手持ち無沙汰なこの時間が過ぎるのを――――ルクスルの膝の上で待たせてもらっていたので特に不満は無かった。


「トテ、もしかして眠くなっちゃった?」


 珍しくルクスルが私以外の人と上機嫌に会話していたので、嫉妬を自覚したうえで邪魔するのもどうかと思い静観していたのに、私が大人しく座っているのがルクスルには気になったようなので、退屈してるなんて思われないようにテーブルに行儀悪く肘をついてそれを枕にみんなの会話に聞き入っている振りを試みた。


「……あまり動かれたら、くすぐったいんだけど」


 謝罪は会釈だけ。……心配しなくても、もうここから動く気は無い。その一瞬の隙をつかれて話題が変わり、お題はデジーさんの仕事と暮らしている町の情勢について。


 所属している盗賊団がどんな拠点に身を隠しているのかから入り、その屋敷は誰が建てたのか。町の一部が崩れその復興作業から逃げられる口実が見つかり、実践している最中だという事。……みんな、私関係の話だった。


 それでも、私が居なくとも進む復興具合に安堵しながら聞いていると、ルクスルがもぞもぞと動き出した。

 座り心地が悪くなったのでルクスルの服を掴みながら自分のおしりの位置を正す。強く引きすぎたみたいでルクスルの身体が前屈みになりかけ、危うく私の身体が滑り落ちそうになったので、せっかくだし私の身体の重心はルクスルの胸に預けることにした。


 ……何か視線を感じたので前を向く。テーブルを挟んで向かい側、ノーダムさんとダイトさんが私をじっと見つめている。途切れた会話に違和感を覚えながら話し始めてくれるのを待っていると、先にノーダムさんが口を開いた。


「……トテ、私の話を聞いていたか?」

「いえ、何も。……何の話だったんですか?」

「……トテの町での活躍の話だ。あんなに知らない誰かのための家を造り続けるのが疲れたと愚痴をこぼしていたトテが、ずいぶんな物を造ったそうじゃないか。町の住人にも受け入れられてきてお世話にもなっていたのに、それなのに……一部の(やから)がまた同じような事を起こしたからといって、その恩を忘れて王都に行ってしまうなんて、そんなこと……許されると思っているのか?」

「いえ、……行きませんよ?」


 ノーダムさんが悲しむと思って王都にはやっぱり行かないと言い出す隙を探っていたのに、何で今度は王都行きに反対される流れになってしまっているのか……。


「え!? トテ、王都に行くつもりだったのか!?」


 ……デジーさんにも誤解されてしまった。自分でも何であんな事を言ってしまったのかはわからないけど、元から王都には行かないと言い張っていたのだ。

 この会話の流れだからこそ自然に言い出せたけど、ノーダムさんが怒っているから行先を変更したように思われるのも嫌なので、行かない理由もちゃんと説明するべきだと思う。


「トテ、頑張って」


 ルクスルからの応援も貰った。後は――――。


「えーと、……王都には行きません」

「――――さっきと同じじゃねえかッ!?」


 ……そんな事言われても、めでたく王都行きは反対されているし、他に言う事も無い。


「大体、何で王都に行くなんて話になってんだ? そこから逃げて来たんだろう?」

「蒸し返さないであげて、トテも辛かったんだから。……二日酔いでね!」

「酒を飲んだのか!? 酔って暴言撒き散らしてごめんなさいってか!?」


 ……その通りなんだけど、もう少し言い方はあると思います。ただ、デジーさんが私の町での暮らしを話してくれたおかげで、ノーダムさんが心変わりしてくれたようなので強くも言えない。


 ……心変わりの理由は、恐らく町で私の噂を聞き回った時に目にしただろう屋敷を造ったのが私だという事を、デジーさんが話してしまったせいだろう。それなのに、他に誰も居ないこの森に十分な生活基盤を作ってしまっている事で、俗世との繋がりを捨てたのではないかと心配してくれているのだと思う。


 諦めずに謝りに行けと、背中を押してくれているのだ。


 ……でも、私が町へ、ただ戻るのを納得してくれたのとは少し違うと思う。


 子供が困っていたら助けてくれる人がその内現れるとは思うし、その恩を感じて屋敷を建ててあげようとする気持ちは誰にでもあるとは思う。


 ――――問題は、借りを返してしまった後に、どうするかだ。


 過去の話だと割り切るか……新しい理由を見つけ出して居続けるのか。つまり、結局離れるつもりなら帰って来いと、ノーダムさんはあれ程強く王都行きを勧めたのだろう。


「……あの、町の人たちにお世話になったから……迷惑をかけてしまったから町に戻りたいだけではなくて、あそこは……ルクスルが育った町なんです。それに、あの町へ私を最初に連れて行ってくれたのは首領で……、首領はルクスルの恩人でもあるので、そんな人が居る町から逃げ出したままなんて選択肢は、私にはありません」


 感情のままに叫んだ今までとは違い、すでに納得しかけているノーダムさんに改めて気持ちを伝えようとしたことで、自分の想いというか……何故、町に帰ろうとしているのかを整理する事が出来た。


「トテは律儀だねー、首領の為だなんて……」

「何言ってるんですか、ルクスルの為ですよ……、ルクスルがお世話になった人だから、手伝ってあげようって思ったんです。それで、首領に恩を返し終わったらルクスルはもらっていきますって言い出します」

「……告白?」

「違います。町でも……一緒に暮らしたいなって想っているだけです」


 伸ばされた指先を絡めて、願いのカタチを手始めにノーダムさんへ見せつける。もう肉体的にも子供では無いと伝える他に、繋ぐ相手は見つけたので親の加護も保護も満たされ終わっているのだと伝えるために。

 

「大切な人の、大切な人か……。母親として挨拶しに行った方が良いかね」

「……そういう気配りは無用ですから。ノーダムさんは王都の人たちに必要とされてますし、ダイトさんの事も考えてあげないと駄目ですよ」


 はっきり言って、町までついて来られたら困る。首領とかはルクスルの性格も知っているので諦めているけど、母親面しているノーダムさんは私たちの関係に土足で踏み込んできそうなのだ。


「ノーダムさん、……今まで、お世話になりました」


 ここでお別れの言葉をちゃんと口にしておかないと、自称母親代わりのノーダムさんは私を手離してくれないと思う。


「いや、待て。……何で今生の別れみたいな流れになっているのだ!?」

「お世話になりました!」

「なりましたー!」


 ……誤魔化すのは無理そうだ。


 私を探す為に旅に出てどれ程の期間王都から離れていたのかはわからないけど、未だに帰りを待ってノーダムさんの分の仕事を残してくれてる人もいないだろう。……たぶん?

 だから、私を探し終えたからといって、ノーダムさんは無理に王都に帰る必要も無いのだ。その事については申し訳ないとは思う。……だけど。


「……だって、ノーダムさんがそばに居たら私が恥ずかしいんですよ」

「……もう少しうまい言い回しは無かったのか?」

「邪魔だって」

「ルクスルには聞いていない! トテのお気に入りだからっていい気になるなよ!?」


 ……面倒臭い。さり気なく伝えた所で、あれやこれやで気にするなと一蹴されるのは目に見えてる。ここに居る事がその証明だ。


「……それなら、最後にするから今日は一緒に寝ないか? 昔の話で盛り上がろうじゃないか」


 その昔話をされるのが恥ずかしいんですよ。そんなに広くない家の中で、深夜に内緒話なんて絶対に聞かれる奴じゃないですか……。


「駄目ですー、トテは私と一緒に寝るんですー。ノーダムさんはダイトさんと一緒に寝れば良いじゃないですか、せっかく告白もされたんだから。……ただし、やるのなら声は抑えてくださいね?」

「よせ、子供の前で恥ずかしいじゃないか」

「そうですよ、声を抑えるのも大変なんですよ? ルクスルも今日はお手柔らかにお願いしますね?」


 ただでさえ人数が多いんですから……。

【下剋上】って言わせても良いのかな?


 室町時代の風潮らしいですよって。



 それなら【五月蠅い】も駄目だったかな?


 一年が十二か月なのは当たり前ですよって。

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