5 盗賊団アジト
最終章開始。
建築やら魔物の素材剥ぎ取りやらはおまけです。
恋もしらない女の子が、姉として好きになった女の子に押し倒された理由を考える物語なんです。
「トテ、そろそろ起きて」
いつのまにか眠ってた。
私の体力では森を抜けることはできない。そう判断されてしまった私は、おじいさんに背負われて森を抜けることになった。
「トテ、起きたか? 森を抜けた。もう来ることもないかもしれないから、よく見ておけ」
…………。
あれ? ルクスルの背中だ。
いつの間にか、ルクスルに背負われていた。
「トテ起きた?」
「起きた。ごめん、……歩けるから、降ろして」
「やだ、もうちょっとトテの体温を感じていたい……」
森を抜けるのに一週間以上はかかってしまった。……私の歩く速さが遅いばっかりに。その間、一緒に居た盗賊団の人たちは先に帰ったり、交代したりしてメンバーは変わっていた。
夜は私がその都度、家を建てたのでみんな安心して休んでいたが、ルクスルは何かに怯えたように、私のそばを離れてくれなかった。
その結果、ルクスルにすごくなつかれた。
私も姉のように慕っているのでうれしいけど。
「すいません、役立たずで……」
「そう、思ってるのはお前だけだ。誰一人欠けずに森を抜けれた。夜は安心して眠れたし、飯もちゃんと食えた。よくがんばったな」
おじいいさんの優しさが胸が痛い。この借りはこれから返す。何日も一緒に過ごせば、情もわいた。
私はおじいさんのところで本格的にお世話になることに決めた。
つまりは盗賊団の一員だ。
「それじゃあ初仕事だな。あそこに馬車があるだろ? あれを頂きに行く」
さっそく悪い仕事だ。この盗賊団のノリに慣れないと。……慣れていいのかな?
「おじさーん! 乗せてくださーい!」
ルクスルが声を上げて馬車に近づく。……止めた方がいいのかな。でもここでお世話になるって決めてしまった。
「……荷物があるからそんなに乗れないぞ」
「大丈夫、荷物を整理すれば三人くらい乗れるでしょ。……アジトまでお願いします」
「あいよー」
アジトを知ってる?
「知り合いなの?」
「そうだよ。うちの団員。街中では声かけちゃだめだよ」
「お前らは、先戻って準備してろ!」
おじいさんが後ろにいた盗賊団メンバーに声をかける。森の中での動きを見た感じ、馬車よりも走った方が早いよね。
馬車がゴトゴトと砂利道を走る。
森を抜けたばかりの道なので舗装はされていない。遠くに民家が見えるが、まだまだ先だ。
「この人も盗賊って、行商人とかじゃないの?」
「うちはいろいろやってるから。街の人に成りすまして情報を持ってくるの」
私にもできる仕事はあるんだろうか。とりあえずはアジトにいる人たちに挨拶して、建築をやっていきたい。アジトがボロボロなら修理して、そのあとはどうしようか。街で仕事してくれとか言われたら、また追いかけられるかもしれない。
「トテ、馬車を降りたらちょっと歩くよ」
馬車がゆっくりと停まり、三人で降りる。アジトは街中では無く、山の中にあるそうだ。森の中に入ると人が通った形跡がある。ゆるやかな登りになり、少し歩くと洞穴が見えてきた。
「トテ、ここがそう。丸太で補強してるから今までは崩れたこと無いよ」
鉱山の跡地みたいだ。おじいさんが先頭で中に入る。中は所々に松明が壁にさしてあるだけで薄暗い。奥の方に行くと、広いところに出て、三十人くらいの人が待っていた。
「「首領、お待ちしてました」」
「おう」
おじいさんが集まっている人たちに声をかける。……人数はこれで全部なのかな? 行商人の人も居たし、まだまだ居るとは思うけど。
「仕事中で、ここに居ない人も居るからね」
ルクスルが耳打ちで教えてくれる。
何人くらい住める家を造ればいいかな。あとでおじいさんに聞いておかないと。
「それじゃあ、新しい団員を紹介する」
「……トテです。よろしくおねがいします」
「こんなに小さい子がここでやっていけるのか」「拾われてきたか」「……俺が一から教えてやる」
「トテは私のなんで、手を出したらぶっ殺しまーす」
ルクスルが私のものだと主張する。
「とりあえずトテには、アジトの補強工事をしてもらう予定だ。……面倒はルクスルが見る。それでは解散」
「トテはこっち」
ルクスルが私を奥の方へ連れていく。
「……こっち側が女性エリアね。他のところをあんまりうろつかないこと。食べられちゃうからね」
怖いところらしい。
床は木の板が敷かれていて、壁も岩肌がむき出しというところは無い。家具も最低限はあるようだ。
「……こんなところ。寝るだけのところかな。街の方で隠れて生活している人が多いから、普段はあんまり人は居ないんだ」
なるほど。
……言っちゃだめだと思うけど、ひどいところだ。
……。
気持ちが、たぎってしまう。
「……ルクスル」
「何? テト」
「……ここにお城、建てたい」
「だめです。あんまり目立つのはだめー」
……おじいさんと話がしたい。
ここまで来ちゃったし、私も首領って呼んだ方がいいかな。
「首領の部屋ってどこ? 話がしたい」
「トテは私と話をするの。……もっとトテのことが知りたい」
散々、森の中で話したけど。
「トテは首領のことが気になるの?」
「うん、首領がここで普段何をしているのか知りたい」
「……トテは首領のことが好きなの?」
「? 好きだよ。助けてもらったし。これからは私がお世話になるからお返しがしたい」
「…………私よりも?」
「ルクスルも好きだよ。ここに来た理由ってルクスルがいるからだし」
絶望していた私を助けてくれたのはルクスルだ。私にとっても一番大事なのはルクスルだ。いつか、ルクスルをお姉ちゃんと呼んでみたい。
「えへへー。私もトテが好き」
嫌われてないようでよかった。ここまで役立たずだったからね。そのためにこのアジトをちゃんと人が住めるように改造して――――。
「……トテ」
「何、ルクスル?」
キスをされた。
軽く触れるようなキス。
「……私は、トテが好き」
うん? さっきも言ったよね。
森を歩いた疲れは簡単には取れてなかったみたいで、毛皮を敷いたベッドで横になったら寝てしまっていた。洞窟の中なので、陽の光も入ってこなくて今の時間はわからない。
「トテ、首領が呼んでる」
眼を開けるとルクスルが私の顔を覗き込んでいた。
「もうちょっと、トテの寝顔を眺めていたかったんだけどなー」
呼んでるなら行かないと。私も話をしたい。
「トテ、あとでね」
「うん、またね、ルクスル」
……ルクスルは何故か泣きそうな顔をしている。顔が赤い。
もしかして洞窟の中だから熱いかな。冬は寒くなるだろうし、本格的に家を建てる話を首領と話しておきたい。
「首領、来ました」
「何か痒くなるな。おじいさんでいいぞ」
「はい、……それで呼ばれたって聞きました」
おじいさんの周りには団員が十人くらい輪になって座っている。ここで話をするのか、緊張する。
「まあ座れや。話ってのは他でも無い。トテの家を建てる技術のことだ。……見ての通り、ここには何にもねえ。団員は何人もいるが、盗賊団員ってことは隠して街の方で暮らしてもらっている。……全員をここで寝泊まりさせてやる場所が無いんだ」
ここが盗賊団の重要な会議をする場所なのか、それとも首領の部屋なのかはわからないけど、たしかに狭すぎる。
「ぶっちゃけ、……トテはどのくらいの大きさまでの建物を造れる?」
「王都のお城は私が建てました。それを簡単に壊せるってことを知られて、逃げてる最中です」
「……まじか」
冷静になると、ここにお城を建てることはできない。
そんなことをしたら。
……私がここに居るってばれてしまう。
「……明日、ここの領主のところに行って話をするか。顔見知りで、持ちつ持たれつの関係だ。どれくらいの大きさの建物なら建ててみてもいいか聞いてこないとな。……トテもついてこい」
「わかりました」
「それじゃあ、一旦解散だな。明日から忙しくなる。トテには頑張ってもらわないとな」
「はい、そのために来ましたので」
「おう、頼む!」
団員がそれぞれ立ち上がり、居なくなる。私もルクスルのところへ戻ろうとした時、おじいさんから声をかけられた。
「トテ、本当にいいのか?」
「何がですか?」
「家を建ててくれるってやつだ。そんなことをしてたらここから離れにくくなる。ルクスルと一緒に街で暮らしてもいいんだぞ?」
「私は街に戻れませんから」
「それなら、ここからずっと遠くで暮らしたらいい。盗賊団に入るって言ってくれたが、無理はするな。トテはこの生き方には合っていないと思う」
この人は本当に盗賊の首領だろうか。それだから恩を返したい。森を出るのにずっと手伝ってくれてた、助けになりたいのとは違って、……こんな人を目指したい、かな。
「私は家をずっと作ってきました。それでも、自分の家には住んだことが無いんです。だから、ここならみんなと暮らせるかもしれない。家族が欲しいんです。……姉もできましたし」
「そうか」
おじいさんは笑ってくれた。それだけでうれしい。
本当はおじいさんじゃなくて、お父さんって呼びたい。でも、年齢的に違うかな。
「それじゃ、ルクスルのところに戻ります」
「おう、お姉ちゃんにいっぱい甘えてこい!」
ルクスルにところに戻ろうとしたら、ごそごそと音がした。起きてるかな。
「トテー、話は終わった?」
「はい、明日から家を建てる相談をするそうです」
「そっか、よかったね」
ルクスルの顔はまだ赤かった。
もしかして、森を出るのに無理をさせちゃってたかな。私を背負ってくれてたし。
「ルクスル、そろそろ寝ましょう。疲れてるんじゃないですか?」
「うん、……寝よっか」
いつもと同じようにルクスルと一緒に寝る。
「……トテ」
「ルクスル、大丈夫? 顔がすごく赤いですよ」
「トテは私のこと、……好きなんだよね?」
「うん、好きですよ」
また、キスをされた。
「ルク……スル?」
ほっぺたを両手で包まれた。
動けないんだけど。
えっ?
「……トテ」
「ルクスル、どうしたの?」
ん。
なんで?
お姉ちゃん、……苦しいんだけど。
百合が本格的に始まりました。
必要以上にエロくさせないのが難しい。
次回はトテが男の女の違いを知る話です。実技なしの見学のみです。
次話の更新は遅くなります。遊びに行くわけじゃないんだからね!