48 宴
意外! それは『飲み物ッ』!
ローマ字入力めっちゃしにくい!!
「飯なら私が作ろう。トテも私の懐かしい手料理さえ食えば、機嫌を直してくれるだろう」
そんなことをしてもらっても、ノーダムさんへの私の敵意が消えることは無い。作ってくれるって言ったのに、私までキッチンに引きずっていくのでは尚更だ。
「私も手伝おう。……じっとしているのも落ち着かなくてね」
ダイトさんの申し出はありがたく受ける。旅をして来たのなら、新しい調理方法や味付けとかも色々知っているかもしれない。珍しい調味料とかを自前で出してくれたら気になるし、遠くの土地の名産とかだったら買いに行くことも考えてしまいそうだ。
「トテ、肉しかないが、葉物とかの野菜は無いのか?」
「……そこの足元にまとめて箱にしまってあります」
「置いている調味料を見せてもらっても良いか? どんな味なのかも確認しておきたい」
「そこの戸棚に入ってますよ」
二人暮らしを前提に建てた家なので、キッチンは三人も入ると少し手狭だ。それでも、相手が掴んでいる食材を見たら何を作ろうとしているのかは何となくわかるので、お互いの領域は犯すことなく作業していく。
「娘が頑張ってお手伝いしているようにしか見えなくてほっこりするねえ」
「……そろそろ出来上がりますので、ルクスルはテーブルでも拭いててください」
「まっかせてー。……なんだかんだで、4人分作ってくれるトテは偉いね。……何もしていない私の分は作ってくれないかと思っていたよ」
「そんな訳ないじゃないですか。……どうでも良いからこそ作ってあげるんです、意識してるなんて思われたくないですから」
「おっ、トテの黒い部分が垣間見えたね。でも残念、その小ささじゃ反抗期にしか見えないないよ」
私の背が低いから、敵認定しても受け流されてしまっているようだ。……だけど安心してほしい。成長期の私は、明後日くらいにはルクスルでさえも見下ろして旋毛の位置も確認出来てると思いますから。
「出来た料理はどんどん運べ。トテ、ウロチョロしてんな」
「子供扱いしないでもらえますか?」
「……半端に頑張ってるからイラついてるんだよ。椅子に座って、出来立ての料理に目を輝かせて待っていて欲しかった……。スプーンを握りしめていたら、なお良し!」
馬鹿にしすぎだ、そこまで子供じゃない。……ルクスルがすでにやっているから、真似をしたかったなんてことも思っていない。
「これで料理は最後だな。……なかなか豪勢じゃないか」
ダイトさんが持ってきた料理が置かれて、テーブルの上には大皿がいくつも並んでいる。それぞれが座りだした所で、お茶の用意がまだだと、それに気づいた私は凄いと意気揚々でキッチンへ戻る。
「待て、トテ。……再開した時の為に用意していた物がある。これを空けられる日が来るとは、……感慨深い物があるな」
「……長かったものな。その話もこれからしよう。……どれだけノーダムがトテのことを想って探して来たか、親の苦労を知ればトテの考えも変わるかもしれない」
そんな話をされても、私だって今まで大変な目に合ってきた。狼には何度も追いかけられて、暗い夜を独りで超えて来た。……自分だけが辛い目に合ったなんて思わないでもらいたい。
「あ、これか。……トテは飲んだことある? というか、飲んでいいの?」
「良くわからないですけど、飲めるに決まってるじゃないですか。……もしかして、甘い飲み物だったりしますか?」
「甘くはないよー。……人生も甘くない!」
「……ルクスルはいきなり何を言い出してるんですか?」
透明な液体だ。嗅いだこと無いような香りもする。粘り気は無いみたいで、ゆらゆらと揺れるたびにきつい香りが漂う。
「それでは、いただきましょう」
ルクスルの言葉でそれぞれの声が後に続く。とりあえず、大皿に盛りつけられた料理を自分のお皿に取り分ける。もたもたしてると、身体が小さいからって料理を大量に食べさてくる人がここには混じっているので注意が必要だ。
「おっ、トテー。私が作った料理から手を付けてくれるなんて嬉しいじゃないか」
……偶然です。目の前に置かれていたから取っただけです。私が食べ始めるのを眼を輝かせながら待つのは止めて欲しい。……ルクスルまで見てくるのはなんで?
「……このトテの食べっぷり。これが故郷の味か、後で作り方を教えてもらわないと……」
「王都では食材は色んな所から集まってくるので、他の町だと作るのが面倒なんです。だから厳密には王都料理ではありません。……王都産の食材は入っていませんので」
「……それで、味はどうなんだ、トテ?」
ノーダムさんの問いには普通ですとだけ答えておく。家庭料理だから珍しい味でも無いし。ただ、とろみのある料理だから好みは別れた。
「……あ、トテ。それはそういう飲み方をする物じゃ無いよ?」
口の中がねばつく感じがしたので、ノーダムさんが用意してくれた飲み物で洗い流す。鼻に突き抜ける香りでむせそうになったけど、喉の奥で痺れるのが気持ち良くて一気に飲んでしまった。
「……冷たい飲み物なのに、身体がポカポカしてきた気がします」
「ご飯も食べた方が良いよ。酔っちゃうから」
「それなら、ダイトさんが作ってくれた料理も美味しそうだから食べてみたいです」
「はいはい、取ってあげるね」
「……ルクスルに食べさせて欲しいんです」
「すぐ取ってあげる!!」
色が赤いのが気になる。
「どう、……美味しい?」
「甘くて、少し辛いです。……お水飲みたいです。ノーダムさん、さっきの飲み物もっとください」
「おっ、トテはいける口か……」
「トテ、大丈夫なの?」
「美味しいんだから、大丈夫です。……ダイトさんは良いお父さんになれますね」
「ありがたいな」
「ノーダムさんにお母さんになってくれって言わないんですか?」
「……ははは、何の話をしているやら」
「ヘタレですね」
「ヘタレたね」
「……ここで、ヘタレるのかい!?」
「面目ない、……もっとちゃんとした時にな」
ダイトさんは意気地なしです。
「ルクスル、大好きです」
こう言うのですよ。
「私もだよー、トテ。今日も一緒に寝ようね?」
「えー、ルクスルと寝ると口を塞がれてしまうので好きって言いずらいんですよ」
「あんたら、もうそんなことまでしてるのかい!?」
「毎日ですよ。……毎日ですよ、毎日ですよ」
「トテ、本当に大丈夫なの!?」
「……大丈夫と言えば、ノーダムさんは大丈夫なんですか? さっきまで疲れて寝てたのに、私のせいで……うあーーーー!!」
「トテ、どうしたの!? 泣かないで!?」
「だって、私のせいで……」
「もう平気さ。トテに会えたら疲れも吹っ飛んだよ!」
「……良かったです。私を探しに来てくれて、ありがとうございます」
言えた。
「じゃあ、一緒に王都に帰ろうか、トテ」
「えー、嫌です。……面倒くさい」
「……そんな理由なのかい!?」
「だって、王都って面倒くさいじゃないですか!? 家を建てるのに色々申請が必要で……。ルクスルと一緒に住む家を建てたいのに、もう建てる場所がありませんとか言われたら……」
「その言葉は嬉しいけど、トテはもう休んだ方が良いよ?」
「……そうだ、場所が無いなら作れば良いんです!!」
壊せば……。
「トテー、こっちおいで。一緒に寝ようね、子守歌歌ってあげるから」
「それなら、私の方がうまいに決まってます。何度もノーダムさんに歌ってもらいましたから!!」
なーなー。
「なーなーななーな ♪」
「トテ、上手いね。それって王都で流行っていた歌?」
「なーなななーななーー ♪」
「……聞いてないのね」
「――――王都に帰りたいです!!」
「ど、どうしたの、トテ!?」
「ノーダムさんのせいです!! 王都の料理を食べさせたからと言って、私が王都に帰るとでも思ってるんですか!? そういえば甘いお菓子があったなとか、久しぶりに食べたいなとか……言うとでも思ってるんですか!?」
「……それなら、私が少しなら持っているが」
「ダイトさん、助かります! トテ、ほらー、お菓子だよー?」
ぐー。
「寝た!? トテ早いよ!?」
……痛い。
頭が、凄く痛い。重い。ふらつく。うえー。
「……トテ、もしかして起きた?」
「ルク、……スル?」
あー。
「私、病気になっちゃいました。……ごめんなさい」
「うーん、動ける? ほら、水だよ」
「あ、ありがとうござ……います」
お水が身体の中を駆け巡っていくの感じで、どれだけ水分を欲していたかがわかる。……何故こうなったのかは……わからない。お腹には水しか入っていないけど、何かを食べたいとは思わない。……どれくらい眠っていたのだろうか。
「トテ、起きたのか?」
耳というか、頭の奥底にまで声が響く。
「……静かにしてください」
「ああ、ちゃんと休まないと私みたいに倒れて心配されるものな。……それで、元気になったら一緒に王都に帰ろうじゃないか!?」
「……嫌です。何度断れば気が済むんですか? あんな怖い人たちが居るところなんて帰りたくありません」
……自分の声で頭が痛む。二重に響いて苦しめてくる原因を、考える気も起きはしなかった。




