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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
44/82

44 尋問

あっ、そうだ(唐突)。


2話くらい前の「精神面の方を鍛えようか」のセリフを回収したことにしよう。


 ルクスルと静かな時間を過ごしていたのに、扉を強く叩かれる音に、私の心臓の鼓動も速まったと勘違いしてしまいそうだ。


 こんな時間に、この時期に、この吹雪の中を訪ねて来たから警戒しているだけで、嫌な予感とか微塵も感じていない。何も焦っていないからと平静を保とうとする私の感情は、ルクスルの考えを求めた。


「……お肉が冷めちゃうから、無視で良いんじゃない?」


 さっきまで、一緒に笑って過ごしていたのだと教えてくれる、ルクスルの冷たい言葉に安心する。


 私たちが居ることは焚き火の灯りが教えてしまっているから、今更 火を消して隠れるなんて面倒なこともしたくはない。放っておけば、私たちの返事なんか待たずに勝手に入って来るはずだし、何より 不用心に扉に近付きたくは無い。


「……ご飯を釣ろうとしたはずなんですけどね」

「本当に狼かもしれないから、トテは気を付けること! まあ、森って言ってもそこまで奥地でも無いし、近道しようとして遭難でもしたんでしょ」

「……困っているのなら、助けてあげた方がいいんでしょうか?」


 少しだけ休ませてあげて、帰り道を教えたら、出て行ってもらう。私たちの笑い声を途絶えさせたのだから、家に入れてあげるだけでも感謝して欲しい。


「保存食があるからそれをあげて少し休ませたら……追い出す。それでごねて泊まりたいとか言い出したら、狼の毛皮を渡して外で寝てもらおう」


 私たちの意思疎通が完了すると、扉が勢い良く開け放たれて雪と共に人間が雪崩れ込んで来た。息も絶え絶えといった様子で倒れ込む姿に既視感を覚える。デジーさんが良くやる奴だ。

 私たちには特段珍しい光景でも無いから、そんな同情を誘うような真似は止めて欲しい。


「……居るじゃないか」


 私たちが返事をしなかったことに怒りもせず、その男の人はニヤリと笑った。自分の身体で押すようにして扉を閉めると壁にもたれかかり、力が抜けたように座り込む。


「……ここに、住んでいるのか?」

「そうだよ。保存食を少し分けてあげるから、落ち着いたら出て行って」


 突き放すように告げるルクスルは、この人に興味が無いかのように顔さえも向けずにいる。それなのに、焼きあがったお肉を私に差し出してくれる表情は笑顔だ。


「……厳しいな」


 死にそうな目に会いながらも、せっかく辿り着いた避難所から追い出されそうになっているのに、何が可笑しいのか男の表情は晴々としている。


「ここは私たちの家なんです。おじさんを泊まらせる場所なんてありません。期待はしないことですね」


 私も強気で前に出る。この程度の吹雪で弱音を吐いているくらいだ。私だって沢山戦い方を学んだし、お肉を食べてお腹も膨れたし、疲れきっているこの知らない男の人なら楽に無力化できる。


「……う」


 微かなうめき声が聞こえて、もう1人入って来ていたことにようやく気付いた。この人が抱え込むように運んできていたようだ。


「…………もう1人居たんだね? 疲れて歩けないようなら、……泊まっていく?」


 ルクスルー!??


 いきなりの態度の変化についていけない。


 話が違う!


 追い出すって言ってたじゃないですか!?


 混乱して泣き出しそうな私を見るルクスルの表情は変わらず笑顔。私の思考は働かないまま、優しく引かれた手に導かれて……ルクスルの膝の上に座らされた。


 男の人に見せつけるように、私の身体を強く抱きしめてくる。自分のだと主張するかのように少し息苦しいくらいに抑え込まれて、恥ずかしいやら、やっぱりルクスルは優しい、なんてことは――――見当違いだった。


「そこの倒れている人が着ている服装を知ってる。……あなたたち、王都の人?」


 好奇心で聞いただけというようなルクスルの疑問の声に、私の身体は固まってしまう。逃げたい衝動を思い出させてくれたのは、その言葉の意味を私に考えさせるために拘束していたらしいルクスルの腕が解かれてからだった。


 これからの行動を試されているかのように、ルクスルは私と目線を合わせてはくれない。


 少し浮かせてしまった私のお尻も気にしてくれずに、逃げたいのならどうぞと突き放すかのように、ルクスルは男の次の言葉だけを待っている。


「こいつだけな、俺は違う。道案内を任された」

「……どこかに向かっていたの?」

「いや、この森だ。……近く町で城壁が壊される程の被害が出た。それをやった奴がここに逃げ込んだと噂で聞いて、捕まえに来た」


 ……完全に私のことだ。


 また、逃げる?

 逃げないと、今度こそ追いつかれてしまうから、逃げる。


「……トテ、認識(わか)る?」


 紅く染まる視界が揺らめきながら熱を持ち、音を立てて崩れる。気持ちが沈み過ぎて視界までが暗くなり、何を言えばルクスルはついて来てくれるのかと、言い訳ばかりを思い浮かばせる。


「――――トテ!?」

「はい!!」


 呼ばれた。


「わかる!?」

「ルクスルこそ、分かっているんですか……? また、逃げなくちゃ――――」


 もう何処に行っても私は追いかけられ続ける。どれだけ壊せば諦めてくれるのか、私を知らない人はこの世界の何処にも居ないんじゃないかと……。


「……私のこと、わかる!?」

「何、……言ってるんですか? せっかく家をまた建てたのに、また逃げ出すことになっちゃいますけど、……お願いします、また、……ついて来てください」


 自分の指先が冷えてしまっていることがわかる。きっと夜の寒さのせいだ。ルクスルにこんな手を伸ばすのも悪いかなとは思うけど我慢して欲しい。


「――――何で、私よりも冷たくなっているんですか!?」


 私以上の冷たさだったルクスルの指先に驚いて、条件反射で引き戻してしまった。繋いでいればそのうち温かくなるはずだと思い直して、強引にその手を取ろうとしたけど、怯えるように逃げる指先を捕まえることが出来ない。 


「私と逃げたい? もう置いて行ったりしない?」

「しません!!」

「王都の話題が出ただけで暴れたりしない? 逃げて、自分を見失って、…… また、暴れて、私のこと、……知らないって眼で見たりしない!?」

「そんなことは、もう、ありえません!! ルクスルが大好きですから!!」


 繋いだ想いに誓う。


 ルクスルにこんな顔をさせたくは無い、……もう、二度と!!


「……だったら、もう大丈夫かな?」

「何がですか?」

「暴れないって約束してくれたから、町に帰ってもいいかなって。首領に謝りに行っても大丈夫かなって。今度こそは、……トテとずっと一緒に暮らせるのかなって」


 あの件は、ルクスルの中でずっと(くす)ぶっていた。


 自分の手が届かない範囲に逃げ出して、離れて行ってしまうことをずっと恐れていた。


 私はもう、逃げ出さなければいけないようなことはしない。自分がしたことでどういう状況になっているのか、どれだけの人に迷惑をかけてしまっていたか向き合うべきだと思う。


「……町の城壁を壊した犯人を捕まえに来たんですよね? それは、私です。こんな所まで探させに来させてしまって、ごめんなさい」

「言っちゃうの? まあ、口を封じればいいか。吹雪で遭難して、行き倒れたことにしよう。実際そうだし?」


 さっきは、泊まりますかとか言ってたのに……。


「……俺はただの道案内だ。あんたを捕まえる気なんて無えよ。……捕まえようとしてたのはこっちだ。悪いが、目を覚ましたら顔を見せてやってくれないか?」


 マスクにゴーグル。分厚い毛皮のコートを着て、それでも寒さに震えている身体を見下ろす。慣れない土地で、私を捕まえるために無茶な真似をしてくれたようだけど……。


「私はここで捕まる気はありません。ルクスルと、また一緒に逃げます」

「トテー」


 抱きついて来るルクスルを無視して、道案内の男の人とちゃんと向き合って話をしたかったのだけど、痛いほどの強さで締め付けられて明後日の方向を向いてしまった。


「……知り合いじゃないのか?」

「え?」

「あんたの話は道中で聞かされてた。会って、話をしたかっただけのようだぞ?」

圧倒的完結――――!!


……言ってみたかっただけです。まだまだ続きます。

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