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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
41/82

41 暖炉

少しずつ、時間を進めていきます。

作中では一か月くらい経ったのかな?




「ルクスル、ついに完成しましたよ!」


 家の隣に倉庫として作った建物に最近は入り浸っているルクスルを呼びつける。食事のたびにたまる獣の毛皮の処理に困り、ルクスルは狩った獣の毛皮をなめす作業に日々励んでいた。

 私としてはルクスルに新しい趣味が見つかったように見えて大歓迎だけど、倉庫で過ごす時間が多くなってしまっていて、一緒にいられる時間が減ってしまったのが少し不満だ。


 倉庫に乱雑に詰め込まれていた毛皮や骨は土に埋めるようにして埋葬の真似事でもしてあげたかったけど、雪が深く積もってしまっていると穴を掘るのも大変だし、寒くてあまり外には出たくは無い。

 晴れた日はだいたい吹雪が過ぎた後なので、大量の積雪が私のやる気をそいで、久しぶりに外に出ることが出来たしせっかくだから遠出でもしようと後回しになることもあった。


「ルクスルー?」


 返答が無いので直接会いに行ってみるとちょうど作業中だった。この時だけは集中しているのか、私に気づかないので思う存分その横顔を眺めることが出来る。

 いつもの雑な動きではなくて、毛皮を以外にも丁寧に扱う姿に最初は驚いていたけど、これがルクスルなりの弔い方なら私からは何も言うことはない。その毛皮って昨日私たちの家を取り囲んでいた狼のだよねって思っているだけだ……。


「……なにー、トテ? こいつの油がべとついて取れないんだよー」


 今日はルクスルに気づかれてしまった。……私から声をかけたんだから当然なんだけど。


 毛皮を謎の液体に浸しているルクスルは、真剣な表情で鍋をかき混ぜている。私の方に振り返ってもくれないことは寂しいけど、作業の邪魔をするのもなんだし、私が作った物は気温が冷えてくる夜にこそありがたみが発揮されるはずなので、今はいいやと倉庫を後にしようとした。


「あ、……揺れてるね?」


 うん? ああ、確かに何かが近づいて来てるような振動を感じる。

 最初そいつに()()()時はその巨体と迫力にここに住むのを諦めかけた程だけど、今では私が造った家の強度に挑戦してくれる数少ない隣人と言える。


「……それじゃあ、そろそろお昼だね?」

「そういうつもりで呼びに来たわけでは無かったんですけどね。お肉は焼くのと煮るのとじゃ、どっちがいいですか? デジーさんが持って来てくれた保存食もまだ残っているはずです」


 水で手の液体を洗い流してからルクスルが私の後を追って倉庫から出る。家の方へ向かうと大きな二足歩行の獣が、私の造った家に身体を擦り付けるようにして揺らしていた。


 近くの川に行く通り道に私は家を建ててしまったらしくて、眠そうに閉じられたような眼で巨大な獣は前を向いていなさそうに歩き続けようとしている。放っておけば、諦めて少しづつ方向を変えてくれるので最近はこの行動も無視してしまっている。


「トテ、こいつの主食がわかったよ。でかいくせに、樹の葉っぱとかを食べてた」

「本当ですか? ……このヒト、眼を開けて私たちを見たら襲いかかってくると思ってました」


 この獣に何度か家は壊されてしまっている。少し家の場所を移動させてもぶつかってくるし、わざとかと思っていたけど、おかげで私も頑丈な家を造る技術を学んだ。

 今の家は樹を板状に加工しないで丸太のまま使っている。これなら木が乾燥しても大きく曲がってしまうことは少ないし、雪の重みで歪んでしまうことは無い。今まで、この雪山の環境の中で堂々と育ってきていたのだから。


「……いつか、狩ってあげるから待ってて」

「やめてください、可愛そうです」


 この獣がどこから来るのかは知らないけど、現状無害なら無駄に殺したくはない。試しに頭に乗っても大人しくしてくれたので、森で出来た私の新しい友達だ。


「あの毛皮の量はヤバいって。私が本気を出すべき相手だね」


 暇な時は私にひっついていただけのルクスルは、自分にも出来ることを見つけたせいで獣を見る目も変わった。楽しそうなのはいいのだけれど、狼のお肉も最近余りがちで、ルクスルは干し肉の製作にまで手を出してしまっていた。


「あいつ、名前何にしようか? 毛皮一杯取れそうさん?」

「ルクスルの願望で呼んであげないでください」


 ……このままじゃ、そのうち狩られてしまいそうだ。獣はのんびりとしか動いてくれないけど、攻撃されたらさすがに本気を出してくれるよね?


「あれ? 何か出来てるよ」


 ああ、そういえば、そのためにルクスルを呼んだんだった。


「石で作った暖炉です。これで夜でも安心です」


 川から石を一個ずつ運んできて、部屋の邪魔にならないところに毎日積み重ねていって、量が揃ってきたところで一気に組み立てた。

 初めのころはルクスルにも石を運ぶのを手伝ってもらっていたけど、いつ終わるかもわからない作業で諦めかけて放置してしまい、たまに来てくれるデジーさんにも運ぶのをお願いしてやっと完成させたのだ。

 

 薪は乾燥させる暇が無かったから、煙もすごかったし燃えにくい。息が苦しくなることもあったし、夜おこした焚火が朝まで残っている日も少なかった。

 でもこれなら、石造りの暖炉が温まった熱で朝まで暖かいはずだし、煙突も付いているので煙を直接外に出すことも出来る。


「頑張ったねー、トテ。……ごめんね、あんまり手伝えなくて」

「気にしないでください。暖炉を作る前は、ルクスルが作った毛皮で寒さを凌いでいましたし」


 雪山はその本領を発揮してしまい、本格的な寒気に入ると焚火程度では寒さをしのげなくなってきてしまっていた。 


 デジーさんに『暖かい毛布を持って来て、大量にね』とルクスルが言ったところ、『自分で作れよ、材料がそこらに転がってて、墓場かと思ったわ』と皮肉を頂いていた。


 デジーさんの無償の雪中行軍(せっちゅうこうぐん)に悪いと思ってお礼として仕方なく始めた毛皮のなめし作業だけど、金銭で買い取りもしてくれるし、厳しい雪山で暮らしている狼は毛皮の質も良いみたいなのでお互いの懐も温かいらしい。


「……でも、これで、寒くてトテと抱き合って寝る日々も終わってしまうんだね……」

「え、私はずっと一緒に寝るつもりですけど?」

「――――だよね!?」

「当たり前ですよ」


 そんなことをしないようにするために暖炉を作ったわけではない。


 ただ、……作ったことがなかったから挑戦してみたかっただけだ。


 石を扱うことは少なかったから、ただ目的の形に切り出すだけの樹とは違いやりがいがあった。石を成形するための道具も新しく用意してもらったし、削りカスの処理には困ったけど私も楽しかったのだ。


「……ねえ? 火を点けてみたいんだけど」

「私も出来栄えを確認したいです」

「一緒に点けよう?」


 それはルクスルにお願いしたかったけど、願ってもみない提案だ。

 せっかくだから、デジーさんに持って来てもらった普通に乾燥された薪を使ってみる。煙が少なくて煙突が機能しているか確認が難しくなってしまうかもだけど、煙がまったく出ないわけがないし、新品の暖炉なのだ。最初くらいは綺麗に使ってあげたい。


「いくよー、点火ー」


 火種が乗った棒をルクスルと一緒に持って暖炉に火を点ける。……うん、分かってはいたけど、いきなり全力で燃えたりはしないね。少しずつ燃え広がるのを静かに待つしかない。


「……夜には暖かくなってるかな?」

「大丈夫ですよ、私が作ったんですから。……石造りは素人ですけど」

「それでも作っちゃうんだもん、さすがトテだね?」


 褒められるのは嬉しいけど、こんな物を作ってしまったらここから離れられなくなりそうだ。


 首領には町に戻って来ていいよって言われたらしいし、一度挨拶しに帰る必要はある。町で起こした騒ぎのほとぼりが冷めるまでとは言っていたけど、町に戻ったら今度はここで暮らす意味が無くなってしまう。


「あ、揺れが収まったね。毛皮一杯取れそうさんの弱点を探るために今日も追いかけないと」


 ……もしかして、そんな理由で会える時間が減ってしまったの!?

雪山で家ってどう建てるんだと調べたら、おしゃれなロッジとかそういえば丸太で作られているなって。なんで丸太?って考えたら、たぶんそういうことだろうって。


石造りの暖炉も調べたら、海外では家も石で作られているところがあるので熱伝導率が凄いらしいですね。


「熱伝導率って知ってるか?」知らない

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