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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
3/82

3 来客

 朝、目が覚めると真っ暗だった。


「……ルクスル?」


 控えめに名前を呼ぶ。

 身体の疲れは取れてるようだし、眠気もない。今日はやることが一杯だ。暗い中、手探りで出口を探す。……やることに、窓を付けるを加えた。


「……トテ?」


 出口の板を外す。陽はとっくに昇っていた。


「……だって真っ暗だったんだもん。いい感じに暗くて、落ち着くというか……ほら、暗殺者だから!」


 それは寝坊の言い訳にはならないと思う。

 

 出口から恐る恐る顔を出すが、獣の姿は無い。外に出て陽の光を浴びた。暑くなりそう。


「まずはご飯かな。昨日の狼の肉があるから。でもこれで食べ終わります、捕ってこないとね。……もう狼には囲まれてるから、そんな心配はないけど」

「そうなの!?」


 全然わからない。私は家に隠れてた方がいいかな。


「それでね。私はご飯とか、水とか、まだまだ取りにいかないといけないんだけど、トテをここには置いては行けない」


 ……ついて行きたい。


「でもトテには他にやって欲しいことがたくさんあります。まずご飯を食べたら柵作りかな。自分たちの家なのに、危険なのは嫌でしょ?」


 たしかに震えながら家に居るのは嫌だ。


 ご飯を食べてからさっそく柵を作り始める。家の周りの樹を切って整地する。柵用の木材が大量に必要なので余らせても問題はない。釘もロープも無いので、木材だけで組み合わせて作る必要がある。さすがに、細かい細工をするならすぐには作れない。

 柵だけでは飛び越えられる獣もいるかもしれないので、バックパックから小さなスコップを取り出して堀を作った。これで家には近づけないはずだ。


「何それ!? 魔法か何か!?」


 普通に掘ってるだけだよ。とりあえず、これで家の中は安全かな。


「柵を頑張りすぎて私が外に行けないんですけど」


 ……渡し橋が必要だね。


 ルクスルを見送ってから、家の加工を始める。


 その前に、水を汲んできてくれるなら、それを貯める物が必要だ。桶一杯分じゃ足りなくなるだろうし。大きな物が必要なので、樹をくり貫くのではなく、組み上げる必要がある。飲み水にもなるので、野ざらしにできない。ちゃんと蓋は作った。


 肉をしまっておく倉庫を家の隣に建てる。地下に作りたかったが、石もないし、二人分なので食料もあふれることはないと思うけど。


 それから、改めて家の改築を始めた。

 

 柵を作ったので、獣の侵入は無いよね。金属がないので蝶番(ちょうつがい)は作れない。おとなしく、入口は引き戸にした。窓の部分に穴開けて作ってー。


 一部屋だけでは寂しいので、もう一部屋ぐらい隣接して作ろうと家を出た時、外に人が居た。


「……はじめまして」


 禿頭のおじいさんだ。

 別に陸の孤島でもないし、来ようと思えば私たちみたいにここには来れる。それでも挨拶を返せなかったとか、堀を超えて来たのとか考える前に、昨日ぶりに死を感じた。


 ぴーーーーー!!


 ルクスルからもらった笛だ。

 心配だからって渡されていた。ためらいもなく吹いた。


「なんぞ!?」


 一瞬でおじいさんは目の前から消えた。眼で追うことは出来なかった。どこに隠れたのかわからないので、家の中にも逃げれない。


 ――――ルクスル!!


 願いは通じたようで、すぐにルクスルは来てくれた。


「トテ!?」

「ルクスル!! 誰か居ました!!」

「誰かって!? こんな所に!?」

「おじいさんでした! 笛を吹いたら消えました!」


 私はルクスルにすがりついて泣いた。

 一昨日までは一人で生きるって決めたのに、やっぱり、私は弱い。一人は怖い。


「落ち着いて、トテ。……あの堀を越えられる相手なら、ここはまずい。樹が遠いから糸を張れない。トテを護れない。……おじいさんがこんなところまで来て、一人だけってことは無いと思うし」


 私の顔がルクスルのお腹に当たる。私を抱きしめながらルクスルは周りを見てる。私もつられそうになるけど、もし、まだおじいさんがこっちを見てたらと思うと顔を上げれない。


「……どうする? その人と話してみるか。……ここから逃げるか。戦うか……」


 話す? もし、また来たらルクスルが会ってください。私は無理です。でも、それでルクスルに何かあったら……。会わせたくない。そのためには……。


「……会いたくありません。ここに閉じこもります。掘をさらに深くしに外に出るのも嫌です。……柵を高くします。空に届くくらいに」

「できるの!?」

「……ウソです。でも、もっと高くします。誰も入って来れないように」


 籠城作戦。閉じこもる。


 私たちも外に出られなくなるが、関係ない。見知らぬ土地で、見知らぬ人がいきなり目の前に居たという恐怖が勝った。


「わかった。それで様子を見てみよう」


 やることは決まった。手が届く範囲の樹を切り倒して柵を高くする。家にもう一部屋作るのは中止だ。その分の木材も使う。

 家を壊すつもりは無い。これは二人で住むための家だ。

 

 柵を作っていると笛の音で寄って来たのか、狼が堀に落ちてこっちを見ながらうなっていた。ルクスルがナイフを投げて倒したあと、糸を使って回収した。

 肉はあるが、水は残り少ない。これでは長く籠城は出来そうにない。


「いるね」


 ルクスルが柵に登って遠くを見てる。


「獣じゃないね、人の視線だ。けっこうな人数……」


 こんな森の奥でも人は来る。

 安住の地なんて無いのかもしれない。


「ルクスル……」

「大丈夫。護ってあげるから」

「うん」

 

 私はルクスルに頼りすぎだ。


 あと、私には何ができる?


 ぴーーーー!!


 笛が鳴った。私でも、ルクスルのでも無い。


 相手か?


「ルクスル?」

「……まずい。この音、あいつらだ。……私を追って来た」

「ルク……」


 追って来た? ルクスルが捕まったらどうなるの?


 ここから居なくなっちゃうの?


「行かないで!?」

「ごめん、行かないと。あいつらじゃこの森は危険すぎる。あっちが持たない。……死んでしまう」

「え?」

「大丈夫、戻ってくるから。いい奴らだから、話せばわかる」


 行っちゃうけど、行かないの?


「あと、さすがにこの高さの柵は怖いかな。柵っていうか、……壁?」


 仕方無く柵を低くした。切り落とした柵は回収することは出来ずに下に落ちる。落下した音で、周りの樹から鳥が飛び立つ。

 柵を低くしたことで、相手にも戦う気は無いとわかってもらえたのか、いきなり目の前に来ることは無く、森の中からぞろぞろと歩いてきた。

 二十人くらい。ルクスルと同じ、黒いコートを着ていた。


「ルクスル」


 先頭のおじいさんが名前を呼んだ。ルクスルのことを知っているってことは、やはり知り合いなのだろう。

 ルクスルは右手に刃物を構えている。左手には私。


「お前が暴走してるんじゃないかって、様子を見に来たんだが……。その子は何だ?」

「……私の子」

「「えええ!?」」


 私と相手。両方から声が上がる。 


「お前、子供できたのか!?」

「相手は誰です!?」

「俺たちのお嬢が……」

「私、ルクスルの子供になれるの?」


 私も含め、驚いている。


「そんなわけだから。私はこの子とここで暮らすから、みんなは帰って」

「……だったら尚更、手ぶらでは帰れん。その子をアジトの皆に会わせてやりたいし、皆お前のことを心配してる。飯も満足に作れないお前が、こんなところでその子を育てていくなんて無理だ」

「ルクスルが作ってくれたご飯はおいしいですよ。焼くだけですけど……」


 調味料も無いので仕方ないが、おじいさんたちが来なければ、ルクスルががんばって探してくれたはずだ。柵もあるので命の心配も無い。十分にやっていけるはず。


「小っこいの。名前は?」

「トテ、……です」

「お前さん、ウチに来ないか? 不器用なルクスルがあんな柵作れるわけないし、お前さんだろ? あの建築技術はすごかった」

「いやです!」


 ルクスルを連れて行こうとする人たちには、ついて行きたくはない。


「ルクスルは小さなころから、何をさせても駄目でな。建物の補修も、飯も畑も馬の世話も……」

「その話長くなりますよね。家の中で、ゆっくりしませんか?」

「あ、トテが裏切った!」

ルクスルをトテに惚れさせようと考えてたら、トテが先に堕ちました。

泣く子には勝てない。

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