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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
28/82

28 焚火

僕は、ついてゆけるだろうか、君のいない世界のスピードに。


いざ、物語を進めて行こうとしたら思った以上に単調に進んでしまうので、百合は必要不可欠な成分らしい……。

 建物の正面は大通りに向けて作られているので、路地側には窓も無く壁だけがずっと続いていた。それでも、修理中の人の怒号がここまで反響して聞こえてきていて、寂しい場所だという印象は今は無い。


「……ごめんトテ、ゆっくり歩いてもらってもいいかな?」


 俯きながら、ルクスルは私の後ろをついてきている。さっきまで騒がしいところにいたので、弱音をはくのは遠慮していたのかも……。


「大丈夫ですか? お店で休んでても良かったんですよ?」

「串焼き2本は多かったね」


 怪我の具合の方を心配したかったのだけれど、……どっちにしろ歩くのが辛いなら歩幅はルクスルに合わせる。足下には壁の残骸などが散らばっているし、壊れている箇所は無いかと探しながらなので、2人でゆっくりと薄暗い路地を進んでいく。

 崩れてしまっている壁を見つけたので、一部を切り取って新しく切り出した木材をはめ込む。ぴったりとはまると気持ちいいし、補修した箇所がわからないくらいに加工するのには神経を使った。


「次、行きましょう」

「歩いているだけで直ってくよ、新感覚だね」


 ルクスルは後ろをただついてきているだけだけど、私が壁ばかり見ているせいで転びそうになった時に、腕をつかんで引き留めたりしてくれてる。

 その度に謝りながら、ふらふらと歩く私にルクスルが苦笑する気配を感じながら、一本目の路地の壁を直し終えた。


「トテの緩んでる頬を眺めるだけで、お腹いっぱいだよ」

「串焼き2本も食べたせいでしょ」


 ご飯をちゃんと食べたおかげなのか、ルクスルの足取りはしっかりしている。それでも、しばらくぶりに歩いているはずので無理をさせるつもりは無いけど。


 次の路地の壁も直しに行こうとした時、ルクスルに疑問の声をかけられた。


「そういえばさ、壁ばかり直しているけど、屋根の雨漏りを修理するために呼ばれたんだよね?」


 首領からはそう言われたけど、領主からは壁の方を直してくれと言われている。さっき会った時に、修理する家の数が確認できていないとぼやいていたからそのせいだろう。

 屋根を直すとなると登るしかないけど、私1人で登るなんてことは出来そうもない。梯子でも用意していれば別だけど、運びながら修理もするなんて私の体力では無理そうだ。


「私が抱っこして屋根に連れてってあげようか?」

「……怪我をしてるルクスルにそんなことはさせられません」


 屋根の修理は他の人に任せよう。


「残念、やっぱりトテを屋根に連れて行くのは無理ーって、とりあえず抱きついておきたかったのに」

「傷が開くようなことをしようとしないでください」


 触れ合う理由をせっかく思いついたのに、断られて寂しそうにしているルクスルに私から手を伸ばす。木屑で汚れているような気がしたので、乙女としては失格だけど着ているコートで手を拭った。


「次の路地を直しながら大通りに戻りましょう。向こうの進み具合も確認したいですし」

「……そうだね、今日1日で終わらせろなんてことを言うとは思わないし」


 格好良くルクスルをエスコートしようとしたけど、不意の痛みでお互いの手が弾かれた。空気が乾燥しているせいだろう。


「……寒いね」


 邪魔されてしまったことに恥ずかしさで顔がほんのりと赤くなってしまうけど、そんなことは構わずにお互いの手を温めあう。


「――――ん?」


 家が壊れてしまっている人には隙間風が辛いだろう。早めに直してあげたいなんて思っていたら嫌な空気の流れを感じた。

 

「……火事?」

「たぶん焚火だよ、寒いからねえ。……せっかくだから、あたっていこうか?」


 ……休憩を兼ねて温まりに行くのも悪くない。


「私は寒くて限界なんだ。行ってみよう」


 何かが燃えるような臭いのする路地の方を見つめていたら、ルクスルに手を引かれた。方角はわからないけど、行ったことの無い場所のはずだ。


「ルクスルはあっちの方へ行ったことはありますか? 私は無いので迷っちゃいそうです」

「大丈夫、知ってる道だよ。あんまり行かないけどね」


 路地の向こうに、煙が薄く上っているのが微かに見える。煙の色は黒くて、家の中で料理をしているとかでは無さそうだ。


 近づいて行くにつれて、木材が燃える臭いが強くなってくる。


「そろそろ雪も降りだしそうだね……。トテは雪って見たことある?」

「ありますけど、王都ではあまり降らなかったので、少し楽しみです」

「……子供は無邪気でいいね」

「もう、子供じゃないですよ!」


 木が燃えて爆ぜる音がしてきた。

 私だって寒いので、つい急ぎ足になってしまう。


「おー、燃えてるね」


 歩いて行った路地の先で、木材が乱雑に組まれて炎が上がるほどに大きく燃えあがっているのが見えてきた。もちろん火事などではなく、ちゃんと焚火のようだ。周りに飛び火しないように広場の中心で燃えている。


「……あったかい」


 無意識に手の平を焚火に向けてしまう。木材が燃える臭いが服に付いてしまうことよりも、温まりたい気持ちを優先させて、炎に限界までちょこちょこと近づく。


「和んでるトテの表情は……いいね」

「私だって寒かったんですもん」


 暖かい炎があるだけで、今までが寒かったんだなって実感できる。仕事はまだまだ残っているのに、これでは離れるタイミングを逃してしまいそうだ。


「……トテは、この町に冬が来たらどうするの?」


 寒くなった時のことは考えたくは無い。それでも季節は変わっていくし、冬を乗り切るためには準備が必要だ。


「……寒いのは苦手ですから、屋敷の中を温めるための設備を探して……、この町にそういうのを取り扱っている店があるならお願いしに行って……あとは、冷えてくると温かいお風呂に入りたくなってしまうと思いますから、今のうちに薪は集めておかないと」

「そっか、……がんばろうね!」


 炎に照らされたルクスルの横顔は楽しそうに笑っていた。瞳が赤く照らされていて、何かを決意したようにも見えた。

 この盗賊団で、この町で、ずっとお世話になるのなら、私もできることを見つけていかないといけない。私がこの町に屋敷を造ってしまったのだ、みんなに寒い思いはしてほしくない……。


 炎の誘惑に負けてルクスルとのこれからを考えていたら、どこからか人の話し声が聞こえてきた。


「誰か来たみたいですね……」

「この焚火に火を点けた人じゃない? 炎の傍を離れたら駄目じゃないって言ってあげて」


 そういえば、こんなに燃えているのに管理っぽいことをしているような人はいなかった。一応、燃え広がらないようにはしているけど、誰も近くにいないんじゃ危ないなとは思う。


「……おう、何だお前ら?」

「こんにちはー、今日は寒いですね」


 ルクスルが近づいてきた数人の男たちに挨拶をした。声をかけられた男の人は怪訝そうな表情で私たちを観察している。

 自分たちが用意した焚火に勝手にあたっているのが気に食わないのか、女の子2人だけで広場で焚火していることに驚いているのかはわからないけど、男たちがそれぞれ木材を担いでいるところを見ると、どうやら前者らしい。


「そうだな、今日は冷える。今、木をもっとくべてやるからあったまっていけ」


 そう言うと、男たちは持ってきた木材をそのまま焚火に投げ入れた。燃えやすいように細かく割ることをしなかったので表面だけしか焼かれていないけど、炎の勢いが強かったので強引にあぶられていき、やがて爆ぜる音と共に煙を出しはじめた。


「……熱いです」


 火種の勢いが強くなり、炎が空に届きそうなくらい燃え上がる。投げ入れた木が焼け落ちた衝撃で辺りに灰が撒き散らされた。

 その大袈裟すぎる光景に私の身体が固まってしまうけど、ルクスルは歓声を上げて楽しそうに拍手をしている。


「すっごく燃えてるね、きっと良い木材を使ってるんだね」


 むしろ、良い木材は固くて燃えにくいと思うけど……。


「家の補修にも使えそうな立派な木材だよね。何で燃やしちゃうんだろうね」

「……寒いから、頑張って探してきたんですよ」

「そんな呑気なトテが大好きです」


 突然の告白だけど、さすがに頭の中は冷えてしまっている。この男の人たちがなんのつもりでこんな大きな焚火を用意したのかはわからないけど、無警戒で焚火にあたっているのはマズイ気がする。


「一応、報告はしておくか……」


 時々、パチパチと木が燃える音は聞こえていたけど、焚火は以外にも静かに燃えている。ルクスルが低く呟いた声が、やけに大きく響いてしまった気がした。


「それじゃあ、私たちは帰るね。……火の始末はしっかりね」

「……気ぃつけて帰れよ」


 強張って動けずにいた私の身体をルクスルが引っ張り上げて立たせてくれる。そのまま歩いて行ったら追いかけてくるんじゃ……と思ったけど、そんなことにはならずに、男の人たちは遠巻きに去って行く私たちを眺めているだけだった。


「……勘違い、だったんですかね?」

「いやー、怪しすぎでしょ。何しようとしてんのかは知らないけど、無視するわけにもいかないね。トテ、領主のところへ早く戻ろう」

「……そうですね」


 後ろを振り返りながら、今いる広場から元来た路地へ戻る。決して、怖くて確認しているわけでは無い。


「……トテ、前見て歩きなよ?」


 ルクスルの忠告が間に合わずに、前方の何かに頭が当たってしまった。

 恐る恐る見上げると、大きな木材を担いで路地から歩いて来た男の人にぶつかってしまったようだ。


「――――ぴゃっ!」


 喉の奥から空気が漏れた。


 あの人たちの仲間!?

 わけもわからない恐怖で、ルクスルの手を取って走り出した。


「ええー、わっ!? ……ぶつかって、ごめんなさーい!」


 ルクスルに代わりに謝ってもらってしまったのは悪いとは思うけど、もう我慢はできなかった。早くいつもの町に戻って安心したかった。


「おい! 見られたんじゃないのか!?」

「ほっとけって、問題は無えよ」

()()()()が捕まえてくれるだろ?」


 知らないふりでさっさと帰ればよかった。

 でも、捕まえるってことは他にも仲間がいたみたいだし……。


「……怖くて逃げだすなんて、トテは暗殺者にはなれそうにないね」

「そんなの、なれなくていいですから!?」

「ちょっと傷ついたけど、泣きわめいてるトテが見れたから良しとしましょう!」

「実は余裕ですね!? ルクスル!」

「……そりゃあねえ」


 ……それなら、あの人たちに何してるんですか?って聞きに戻った方がいいのかな?


 でも、振り返って後ろを確認する勇気は無いし……。

 追ってくるような足音は聞こえないから、ルクスルのにやついた笑顔があるだけだろうし。

薪を『くべる』

標準語だそうです。


日常的に使わない言葉は調べています。

訛りだったら恥ずか死ぬ。


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