27 串焼き
傍から見れば、門番の静止を振り切って町に入って来たような行動だ。
「危うく捕まるところだった……」
ルクスルのその言葉もまるで侵入者だ。それでも町の人たちに変な目で見られてはいないようなので、さっそく修理を依頼されている建物へ向かおうと思う。
…………。
「トテ、せっかく来たんだから何か食べよう?」
「……そうですね!」
……どこに行けばいいかなんて、聞いていなかった。
首領にちゃんと確認しておけばよかったと後悔しながら、ルクスルの提案に乗って、まずはお昼ご飯にしようと考えを改めた。
いきなりご飯って言い出したということは、ルクスルも話を何も聞いてなさそうだけど、歩きながら他の団員を見つけて聞けばいいやと、楽しむことを優先させる。
「……たまには、違う物も食べようか」
「それでもいいですけど、いつものおばさんが、すっごくこっちを見てますよ……?」
手なんか振ってくれてる、あれは……呼んでるのかな?
「……今更だけど、トテはお肉好き?」
「好きですよ。なので、あのお店に行きましょう」
「しょーがない、人気者はつらいね」
ルクスルといつもの串焼き屋さんに向かう。恥ずかしいので、ここではもう手は繋いでいない。
「ルクスル、あんた歩き方変じゃない?」
「ちょっと怪我しちゃってねえ」
さっそく、おばさんにばれた。
「そういう時は、肉を食べなさい」
「そうするよ、串焼き2つで」
「トテちゃんも来てくれたのね、いつもの奴でいい?」
「はい!」
おばさんが持って来てくれた串焼きを店先で食べる。……あれ?
「ここにあった、椅子はどうしたんですか?」
たしか、前に来た時はあったはずだ。片付けちゃったのかな?
「……あれねえ、壊れちゃったのよ。ほら、狼が町中に出たでしょ?」
「それなら、私が直しますよ。いつものお礼です!」
私が役に立てそうな時がやっときた。そう思ったら、ルクスルが内緒話をするように私の耳元に顔を近づけてきた。
「トテ、言い忘れたけど、人目があるところでは物凄い速さで作っちゃ駄目。誰が見てるかわからないからね」
「……そう、ですね」
「作るのは別に構わないんだよ。ただし、私は楽しそうに物作りしてるトテを眺めるのに忙しいから手伝えないけどね」
「……いつものルクスルで、安心しました」
元々、町には建物の修理にきたのだ。ついでに店の椅子を修理していれば、遊んでいるなんて思われないだろう。
「お肉食べてからでいいですか?」
「いいよ、ゆっくりしていきな」
出会ったら声をかけてもらえる仲なのだ、大切にしたいし……。
店先から眺めた町の人たちは、忙しそうに歩き回っている。
思っていたより町の中はボロボロだ。足元が昨日の雨でぬかるんでいるところもあるし、補修用の木材が乾かすためなのか屋外に並べられているせいで、道は狭くなってしまっている。
「あそこで暇そうに歩いてる人がいるから手伝ってもらおうよ」
ルクスルが指さす先に、何人かの人たちに囲まれて忙しそうに指示をしている人がいた。建物の修理の様子を確認して回っているようで、屋根の上にいる人に声をかけている。
「えー、あの人ですかー?」
「……少し助けてもらっちゃったからね。あ、……気づかれたから、呼ばなくても来るよ」
怖そうにこちらを睨みながら近づいてくる男の人。上等そうな服には小さな木片がくっついているけど、そんなことを指摘するのはためらわれるような異様な雰囲気を出している。
「おい、遊んでないで手伝え」
みんなに指示を出していた領主がここに来てしまったせいで、私たちはその取り巻きたちに囲まれる形になってしまった。
みんな忙しそうにしているのに先にご飯を食べてしまっているので、申し訳ない気持ちになる。
「串焼きの味が変わってしまっていないか、調査しているんだよ?」
「それを遊んでるというんだ!」
ルクスルの軽口のせいで怒られた。
「……何か、余裕ないね?」
「直す建物の数が把握できていないからな。ここは大通りだから景観を損ねるわけにもいかなくて、細かな傷も直す必要がある。……その調査が全然終わらん」
「領主は大変ですねー?」
「だが、それも何とかなりそうだ。トテが来てくれたからな!」
「トテには別の用事があるよ、この店の椅子を直すんだって」
「……2秒で終わらせろ」
「そんな早業、見せられるわけないじゃん」
家が大変な時に椅子を直すとか言い出したせいで、2人が言い争いになってしまっている。おばさんの方に振り返ると、苦笑いをしながらこっちは大丈夫だからって言ってくれてるような気がした。
「……ルクスル、2秒で作ります」
「だめー」
「店の奥で見えないようにやりますから」
「……それならいいか、実は私もそろそろ疲れて座りたいから、お願い」
食べ終わったお肉の串をおばさんに回収してもらう。
「あまってる木材ってありますか?」
「直ぐに用意する」
領主が率先して走り出した。どこまで私に手伝ってほしいのだ。
店先に置ける椅子の大きさを眼で図る。落ち着いて休めるように背もたれがあって、椅子がぐらついたりしないように地面もここだけ整地しようか?
「ルクスル、椅子を運ぶの手伝ってください」
店の奥から声をかけた。
「まっかせてー、……ごめん、重い」
「お前ら、手伝え!」
「「おお!」」
領主も一緒に運ばなくても……。
店先に置いたのは長椅子だ。何回かしか来ていないので以前の形は思い出せず、まったく同じには作れなかった。
「トテが作った椅子ー♪ おばさん! お肉もう一本! 私が初めてこの椅子で食べた客になるから!」
「椅子を作ってくれたお礼にサービスしておくよ! トテちゃんにもね。領主さまたちも食べていくかい?」
「せっかくだからいただこう。……ここで作戦会議をするぞ」
そこまで大きな椅子ではないので、全員は座れない。ルクスルの隣に私が座って、領主が少し悩んだ後、私の隣に。……挟まれる感じになってしまった。
「……狭いんだけど」
「すいません、もう少し大きく作ればよかったですね」
「違うのトテ、領主が邪魔だって言いたかったの」
「邪魔とはなんだ」
……喧嘩しないでほしい。両側から声がして、せっかく椅子で休めているのに落ち着かなくなる。
「トテちゃん、椅子作ってもらっちゃってありがとね」
おばさんが感謝しながら焼きたてのお肉を渡してくれた。
「トテ、お肉を食べたら……甘い物も食べたくならない?」
「忙しいと言ってるだろ!?」
「待って待って、――――待って」
ルクスルの本気の声。……ここで?
……そんなに食べたいんですか? 仲間ですね。
「トテが甘い物を好きみたいだから、探してるんだよ。どこか知らない?」
私のためみたいだけど、人に物を訪ねる眼じゃ無いですよ?
「……それなら全力で思い出そう。この辺りには……無いんじゃないか? 少なくとも南側にでも行かなければ」
「あっちは行きたくない」
「だろうな」
……南側。そこに甘い物が?
「ここにもお菓子を売る店作ってよ」
「場所はいくらでもあるが、材料の調達が難しい。それに作れる人間もいないしな……」
シュアさんは作ってたけど、材料のハチミツは謎の店から手に入れたし、定期的に買えるかもわからない。それに甘みがハチミツ頼りはさすがに飽きるかも?
「とりあえず、考えておくが保留だな。まずは建物を直すことに専念してもらいたい」
「そうだね、今日の目的は聞けたし、何もしないで帰ると首領に怒られる」
各々が串をゴミ箱に入れて作業を再開しようと気合を入れた。休憩はどうやら終わりのようだ。
領主は早めに大通りを直してもらいたいと言ってきたが、ルクスルが目立つところで私に作業してほしく無いと言い、一本路地に入ったところの建物を直すということで妥協してもらった。
その辺りは狼との戦闘が激しくて、家の壁も崩れてしまったらしい……。
話をいい加減進めろと、私のゴーストが囁くのよ……。
甘味編に進みたいけど、狼の件を先に何とかしなければ。
何も考えずに書いたせいで、密室殺人のような『どうすんだよ、これ?』な展開になってしまったけど、合鍵100個隠してたってことで……。




