20 デート、のようなもの(野郎と)
白い方が勝つわ
「トテは何が好きなんだ?」
「苦くなければ、なんでもいいですよ」
お腹は空いている。
好き嫌いは、一部を除いては無い。
そういえば、デジーさんはルクスルとは違って私の意見も聞いてくれる。町に着いても、慣れてくれたのか私の歩幅に合わせてくれてる。
「苦い物って、むしろ探すのが難しいんだぞ。珍しいんだから、あったら喰っとけ」
「……もしかしたら、今日のご飯に出るかもしれませんよ」
ルクスルたちは毒トカゲを探しに行ってしまったはずだ。ちゃんと普通のお肉も捕ってきてくれるとは思いたいけど……。
「好きな物は食いながら探すか。俺にとっては地元だからみつくろってやるよ」
ルクスルにも好きな食べ物は何かって聞かれたっけ。次に一緒に来た時にこれが好きって言ってあげたいからそれは助かる。
「はい、お願いします」
「よし、まずは肉いくか! それぞれ味に違いがあるからな。美味しいって思った物は教えてくれ」
店の前でお肉を焼いているところへ向かうのでついて行く。
「あれ? 前に会った子だねえ。…………今日はルクスルとは一緒じゃないの?」
「今日は俺! デート中だ!」
デートではないでしょう。
否定するのも面倒なので、お肉を焼いているおばさんには視線で伝えた。お腹の方が空いています。
「トテ、どれが気になる?」
デジーさんが聞いてくれるけど、焼き色と匂いだけではお肉の味の違いは分かりそうもない。
「……すいませんおばさん。前にルクスルと食べたのはどれですか? それ以外でお願いします」
「これだったかしら。なに、美味しくなかった?」
「いえ、美味しかったので、他の味のも食べてみたいんです」
渡された一本を口に頬張る。
前は緊張していて、あまり味はわからなかった気がする。この味も美味しい。せっかくなので、ルクスルと一緒に食べたのも注文してみた。
「こっちのほうが好きかも」
ルクスルのおすすめだ、美味しくないわけがない。
店員のおばさんは微笑ましいのを見るように笑っている。反対にデジーさんは何か思い詰めた顔をしていた。
「これは私のですよ」
「……そういうことじゃねえよ」
溜息をつく顔は寂しそうだ。
せっかく連れてきてもらったのだ。そんな顔をさせるのも悪いので、私も感謝のしるしに笑顔を向けてあげる。
「……なんで」
「何か言いましたか?」
さらに考えるように気分が沈んでしまったデジ一さんの気持ちがわからない。昨日、告白してきた時の元気はどうしたのだろう?
「……美味いかって、聞いたんだ」
違うでしょう。ぶつぶつ何かを言ってた。
「美味しいですよ。……ルクスルのおすすめですから!」
「――――そっか」
ようやく笑ってくれた。
「次行こうぜ。ガツンと食った後は、甘い物だよな」
「甘いの!」
心躍るフレーズだ!
さっそく行こう! 私は道が分からないんだから早く案内して欲しい。
「こっちだ。走るなよ、大人しくついて来い」
「もちろんです! 子供じゃないんだから!」
引っ張られながら、引っ張りながらも細い路地に入っていく。
「……この奥だ」
「暗いですね」
貧困街かな。道に詳しいわけではないし、前とは入口は違う。
「「…………」」
デジーさんまで無言になっている。まだ入ったばかりなのに、迷ったとか言わないよね?
「……ここだ」
そこは店の看板もない、空き家のような家だった。
こんな良くわからない場所に連れて来られて、私はデジーさんについて行っても本当に大丈夫なのかな?
軋む音をたてながらドアのような物が開かれる。
「……居るか?」
確認する声は私にも聞こえないくらいに低い。
……何か嫌な予感がするから走って逃げてしまおうか。
「デジーか、扉を閉めろ」
奥の方から隠れていた人が出て来た。
その声も言葉も、悪いことをしているような雰囲気を出している。
怖くて誰かにすがりたくなるが、ここにルクスルは居なかった。
「子供か……」
「あれが欲しくてな、こいつにも分けてやりたい」
「……ふん、持ってくる」
よくわからない会話だ。あれってなに?
「トテ、今からすることは誰にも言うなよ。特にルクスルにはな」
「……なんで?」
「あいつなら、ここの商品を買い占めちまう気がする」
奥から持ってこられたのは、小さな小瓶。
「なにこれ?」
「……ハチミツだ」
――――!?
昔、見たことがある!
「付き合ってくれたお礼だ」
いいの!?
声も出せずに驚く私にデジーさんは笑いかけてくれた。
後から聞くと、ここは違法な手段で手に入れた品を取引する場所だそうだ。盗賊団はそういう筋の物も取り扱っているらしい。
ほくほく顔で小瓶を抱きしめる私には、そんなことは聞こえていない。これを見たらルクスルはどういう顔をしてくれるだろうか?
「その顔を俺に向けてほしかったんだがな」
店を出て隣を歩くデジーさんはそんなことを悲しそうに言う。
さっきも見せたじゃないですか、まだ足りないんですか?
「ありがとうございます ♪」
こんな物を頂いたのだ、お礼はいくらでも言える。
「トテが好きだよ」
「前も聞きましたよ、どうしたんですか? 元気ないですよ」
「好き、……なんだよ。……俺じゃ届かないか」
届いてますよ?
手も繋げる距離ですけど……。
「……ありがとな」
「はい、こちらこそ。ルクスルへのお土産ができました!」
「……そっか。良かったな」
ようやくデジーさんは前を向いて歩いてくれた。
差し出された手は自然に繋げた。
無邪気な子供みたいに笑う横顔にはもう悩みなんてなさそうだ。でも、軽く握って私を引っ張ってくれる手には大人の優しさを見た。
「……お兄ちゃんみたいです」
言ってしまった言葉は消せない。
「そいつは良かった」
それでも、デジーさんは怒ることも無く笑ってくれた。
その眼差しにルクスルを思い出す。
好きって答えたらキスされて、訳も分からず押し倒されて……。
そういうのではなく、デジーさんのように、距離感を図るように少しづつお互いを知っていく……。
――――そんな当たり前の恋だったら。
ルクスルは私の隣に居ただろうか?
「トテ、ルクスルに泣かされたら俺に言え。助けてやるから」
「いつもですよ」
「なんで!? トテはそれでいいのか?」
「はい、大好きなので!」
少し強引でも、毎晩暴走されても、恥ずかしくて泣かされても好きなのだ。
「あ、ルクスルです」
好きな人が鬼の形相で走ってきても、この気持ちは、……好きだと答えた気持ちは変わらない。
「トテーーーー!! この変態が!!」
「おわっ!?」
ルクスルが繰り出す顔面パンチをデジーさんがギリギリでかわした。
「トテ!? こいつに変なことされなかった!?」
「デジーさんはいい人でしたよ? お土産ももらいましたし」
「――――こいつの名前なんて覚えなくていいの!」
「酷くね!?」
ルクスルはお冠のようだ。
「手を繋いじゃってるとこも見てたんだからね!」
「仲良さそうに見えただろ?」
「うらやましい!!」
ルクスルとは手くらいいつも繋いでるでしょ。
「トテ! トテが足りないの! 抱きしめて!?」
「あー、はいはい」
ぎゅって、してあげた。
……うーん?
「ルクスル、臭いです」
「うそーー!!?」
「見た目でやばいって気づけ!? どんだけ返り血浴びてるの!」
黒いコートを着ているのでわかりにくいが、肌のいたるところにどす黒い物が付いていた。
ルクスルが頑張ってた証だけど、嫌な物は嫌だ。
「……ふふーん、これも計算のうちよ」
「一度、嫌われるのがか?」
「負け惜しみー。私たちは女の子同士だから、……一緒にお風呂に入っても怒られないのよ!」
「えー、ルクスルと入るの怖いんですけど……」
絶対に何かするって、その眼が言ってる。
「トテお願い! 可愛い唇を奪ったりなんてしないから」
「……むしろ唇だけで勘弁してもらえないですか?」
「キスだけで! 満足できると! 思ってるの!?」
……怖い。
「デジーさん?」
さっき守ってくれるって言ってくれましたよね?
「トテ、……俺には無理だ」
どうやら、覚悟を決めるしかないようだ。
出てこなければやられなかったのに!




