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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
19/82

19 まずは、柵を建てました

 食堂に着くと、まだ居たのは首領だけだった。他の団員はすでに食べ終わって出掛けてしまったらしい。


「トテ、もう大丈夫なのか?」


 おじいさんは心配してくれたけど、いろいろな考えが頭の中でぐるぐると回る。間接的とはいえ、毒物を作ってしまったのだ。みんながどういう反応するのか会うのが怖い。

 毒を入れた人たちは捕まえたみたいだけど、それでも私がやったことが許されるはずも無い。


「団員は気にするなって言ってたぞ。美味かったってよ」


 ……うれしい言葉は聞けたけど許されない。私が自分を許せない。


 今回はみんなは無事だったけど、もし効く毒だったら大変なことになっていた。それに気づかずに入れてしまったのは私だ。……これからは食堂に入りづらい。


「トテ、ご飯がいい具合に減ってるから全部よそうね。大盛になっちゃうけど食べられるよね」

「……私は少しでいいですよ」

「ダメだよー、ちゃんと食べないと。それでトテ、今日はどうする? 予定とかある?」


 ここしばらくはずっと町に遊びに行っていた。何も自分のことはできてないけど、そろそろちゃんと仕事をした方がいいだろう。


「私はトテと遊びに行きたいな」

「ルクスル、お前は忙しいに決まってるだろ、人も増えたんだから、お前は仕事に戻れ」


 昨日はたくさん狼を狩ったけど、食べずに燃やしてしまった。食糧庫の方を見たけどそれほど肉が余っているようには見えなかった。団員が何人いるのかはわからないけどすぐに無くなってしまうだろう。


「トテも仕事がある。手伝ってもらえるか?」

「はい、大丈夫です」


 私は迷惑をかけてばかりだ。

 首領に仕事があると言われたのだ、少しやる気が出て来た。


「昨日はトテが寝た後に屋敷に勝手に入って来た奴らがいたんでな。領主の屋敷だから侵入者には警戒が必要だってことで、屋敷の周りに柵を作って欲しい」

「私たちは大丈夫なんだけど、トテがいるんだからね。襲撃されてから気づくんじゃ遅すぎるんだよ」

「……そこは悪かった。今までも襲撃されるのは日常だったが、トテの他にも戦えない者はいる。だが、ただ作っただけだと簡単に乗り越えられる。高く作るとか檻のように囲う手もあるんだが、それだと見栄えが良くないからな。獣が侵入できない程度だ」


 今の領主の屋敷はどうしてるのかと聞いたら、あっちはちゃんと門番がいるそうだ。四六時中見張ってくれてて、それでお給料をもらっているらしい。……ここはそんな余裕ないそうだ。


「仕事って言ってもそれくらいだな。その後はどうする? あまり出歩いて欲しくはないんだが」


 部屋で大人しくしてようかな。ルクスルも居なくなるみたいだし、部屋の片づけでもしていよう。


「料理のことは気にしなくていいからね。毒が入ってるのは珍しいけど、美味しくないご飯の時の方が多いから」

「専門の料理人ってのがいないからなあ」

「そういえば毒料理に詳しい人がいたから、今度は私が毒トカゲのスープ作ってみるよ。もし美味しくできたら、トテがやったことも笑い話になるからね」


 ルクスルがうれしいことを言ってくれるけど不安だ。いつの間にそんな人と知り合ったのだ。あの苦さをどうにかできるとは思わないけど。


「おいルクスル、そいつは信用できる奴なのか?」

「首領が引き抜いてきたんですけど……。昨日、屋敷の入口に居たムイギさんですよ」

「……あいつそんなことできるのか」


 あの人か……、何でそんなことに詳しいんだろう。もしかして怖い人なのかな?


「今度こそは、トテに一番に食べてもらいたい」

「できれば遠慮したいです」


 私たちが最後にご飯を食べ終わったので、お皿と一緒に使った鍋も洗って片付けておく。その間、団員たちが食糧庫で作業をしているのが見えた。……みんな、ここに居たのか。


「おっ、トテちゃんだ」


 ……話しかけられてしまった。

 すごく気まずかったから、軽く会釈だけして逃げようと思ったのに。


 それでも相手から話しかけてくれたのだ。


 私から話しかける勇気は無かったのでありがたいけど、ここで何か言わないと、これから先もみんなに会わす顔は無い。


「ごめんさいでした。変な物を作って……」

「美味かっただけましだよ。今、毒入ってる食材を探して処分してるから、また作ってくれよな」


 私と会話をしてくれたというだけで泣きそうになる。


 正直、料理を作るのはまだ怖いけど私がやりたいと始めたことだ。簡単にはあきらめたくはない。


「はい。次はちゃんと作りますので」


 この屋敷で一緒に暮らしている仲間なのだ。


 私はここで、出来ることを少しづつ覚えていきたい。


「今度、私が毒トカゲのスープ作るんで残さず食べてよね!?」

「……ルクスル、……何言ってんのかわからんが、自白が早すぎる!」


 さすがに毒に慣れている団員でも嫌らしい。


「痺れても笑って許してくれるよね?」

「お前が全部喰えよ!」

「何でよ!? せっかく久しぶり料理を作ろうと思ったのに!」


 やっぱりルクスルはあまり料理は作らないようだ。……どうりで。


 ルクスルが場の雰囲気を和ませてくれたおかげで気持ちは軽くなった。


「よし! それじゃ始めるか。材料は用意してある」


 首領と一緒に屋敷から出ると、庭の隅の方に金属の柵が積まれているのが見えた。これを繋げて屋敷の周りを囲むようだ。

 手伝ってくれる団員も居た。さっそく準備を始める。


「トテ、それじゃあ、後でね」


 ルクスルは数人の男の人たちと走って行ってしまった。帰ってくるまでには完成させておきたい。


 ――――。


「……領主の屋敷の柵が汚れてるのはカッコ悪いので綺麗に拭きましょう」

「お前ら手伝えー」

「「へーい!」」


 ――――慣れてくれたみたいだ。

 少し寂しいが、騒がれるよりは良い。


「トテは弟子は取らないのか?」

「……教えようがないですから」

「何が起きてるのかわからんからなあ」


 作り方を説明するのは無理だ。

 材料が成りたい物へと導く手伝いをしているだけなんだから。


「まあ、柵が完成したのなら問題はねえ。強度もいいみたいだしな」


 それじゃあ、私の今日の仕事は終わりかな。ルクスルはまだ戻ってこないし、柵も作り終わったから部屋で工具の整備でもしようか……。


「トテはどうするんだ?」

「部屋に戻ります」

「屋敷の中は調べているが、一応気を付けろよ。それでなくても、トテは見てて危なっかしいからな」


 心配しすぎだ。部屋には鍵をかけておくし、無断で入ってくることはできないだろう。


「それじゃあ、何か不具合でもあったら呼んでください」

「おう、あとでな!」


 柵が出来上がっても確認作業は残っているようで、首領は他の団員に指示を出して安全なのかと強度を調べている。


 私は仕事をしている団員たちを横目に屋敷に戻った。

 昨日は入口にいたムイギさんは見当たらない、本当にルクスルたちと一緒に、毒トカゲを捕りに森に入ってしまったんだろうか……。

 

 私たちの部屋の中は、しばらく人が居なかったので空気がひんやりしている。


 簡単な棚を作って、工具をそこにひとつづつ並べた。


 まずはさっき使った工具から。スコップを取り出し、布で軽く拭く。


「……土が付いてる」


 工具を整備するのも、独りになるのも久しぶりだ。


 曲がってしまってないか、欠けてないか丹念に調べる。

 私の仕事道具だ。使えなくでもなってしまったら、大変なことになる。


「あー、油が足りない……」


 錆を防止するためにいつも塗っている。

 今回は大丈夫だけど、早めに補充した方がいいかな。


 磨いた工具は棚に戻していく。

 濡れたように鈍く光る工具たちを見てると、使わずに飾っておきたくなるけど、その増した切れ味は試してみたい。

 使うのも、飾るのも好きなのだ、私は。


「トテいるか? 首領に部屋に居るって聞いたぞ」


 部屋の扉がガチャガチャ鳴る。


 工具たちを種類ごとに並べ替えるのに忙しいのに。

 それを、うなりながら眺めていたかったのに。


「何か用ですか?」

「……とりあえず開けてくれないか?」

「嫌ですよ。」


 ルクスルが居ないのに、こんな人を部屋に入れたくはない。


「暇なんだろ? 飯食いに行こうぜ!」


 そういえばそろそろお昼だ。

 でも、この人と食べに行く気はない。ルクスルはいつ頃戻ってくるかな?


「あきらめるなって言ったのはトテだろ? 出てくるまで扉の前で待ってるから……。言っとくが団員は絶食なんてあたりまえだぜ」


 しつこい。


 ルクスルがこの人を蹴散らしてくれるのを待つのもありだけど、悪い人ではないはずだ。昨日は助けてもらったし、一回くらい一緒にご飯を食べるのもしょうがないかな。


「……今回だけですよ」

「おっ、もう出て来たか! ちょろいな!」


 酷い言い草だけど、そんな優しそうな目で見ないで欲しい。その視線はいつか見たルクスルと同じだ。伝えたい言葉を間違っているだけじゃないのかな。


「食堂行って食べたら終わりですからね。もう出来てるんですか?」

「は? 違う違う、町に行って食べようぜ。昼間は忙しくて誰もいないぞ」


 ええー。

 この人と町まで行くのか……。


 お断りしたい、ルクスルが来るまでくらい我慢できるけど……。


「手を繋いでもいいか?」


 ぐいぐい来るな、この人は。


「まあ、いいですけど」


 繋いだ手はルクスルのとは温度が違う。


 もちろん大きさも違うし、握ってくれる力も全部違う。


「……まさか、あっさり繋いでくれるとは思わなかった」


 恥ずかしそうに頬をかくこの人には悪いけど、ドキドキもしないし、ぽかぽかもしない。


 繋いだ手の意味は、離れないためではなくて、はぐれないためだ。まだ町には行き慣れてはいないし、迷子にでもなったらルクスルが心配してしまう。


「ルクスルに見つかったら面倒だから、早く行こうぜ」


 その心底うれしそうな顔には答えられない。


 気持ちが動かないから、手なんか平気な顔で繋げられるのだ。


「デジーさん、足早いです」


 心が冷めているから、その驚いた顔を恥ずかしがらずに見返せるのだ。


 ――――私の心は、すでに渡し終わっている。


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