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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
17/82

17 毒入りスープ

元々、トテは毒入りスープを作るのが趣味のキャラでした。

でも、それだとお互い警戒して百合が始まらなかったので今の性格に落ち着きました。

「これは、ルクスル様、どうかなされましたか?」


 屋敷の玄関前に行くと、ムイギさんが座っていた椅子から立ち上がり私に(うやうや)しく礼をした。

 ……なんか、玄関前の椅子に座ってるのって変じゃない? こういう人用の部屋とか用意した方がいいんじゃないかな。

 首領も屋敷の管理の仕方がわかってないなら、領主にちゃんと聞いた方がいいよ。


「私に(さま)は付けなくていいよ」

「……そうですか。それではルクスルさん」

「うん。……トテが料理を作ったんだけど、味見をしてほしくて」

「それはよろこんで。……正直言いますと、誰もいませんのに勝手に作って食べるのもどうかと思いまして、お昼から何も食べておりません」


 何をやってるのだ、首領は。

 妙な事件が起きちゃってるし、忙しいのはわかるけどね。


「とりあえずこれ食べてみて。味見だから量は少ないけど」


 さっきご飯は食べてないって言ってたよね? 食べようとしなかったら、悪いけど毒を持ち込んだ人じゃないかって疑うよ? 少量だから、食べてもそれほど害は無いはずだ。 


「……これは?」

「うん?」

「……毒が入ってますね? 麻痺毒ですかね。微かにピリッとした舌の痺れが病みつきになりますな」


 食べる前から毒が入っているってわかってたのに、おいしそうに食べてしまった。


 毒を食べ慣れているってのは、元はどこかの盗賊団にでも居たのか、他の危ない仕事でもしてたのか……。

 領主の屋敷の仕事を任されているってことは、元は真っ当な仕事についていたじゃないかと思ってたけど、首領が連れて来たみたいだから、実は盗賊団のアジトだって教えてたのかな?


「……普通においしいですね。毒が入っているのだから、わかりやすくこの苦さを引き立てるために、強気な味付けにしなくては」


 ……そういうコメントはいいから。


「トテと料理を作ったら、毒が入っちゃってたんで、ムイギさんが用意したんじゃないかって疑いに来たんだけど」

「新人の私の言うことは信じられないと思いますが、私では無いですね」

「うーん、そっか」


 適当に相槌を打っておく。自分でも言ってる通り、簡単に信じるわけにもいかない。他に入れられそうな人はいるかな?


「ムイギさん、私たちの他に誰か入って来た人はいなかったんですよね?」

「はい。……と言っても、私はこの正面玄関に居ましたので、他に入口があればそこから出入りした人が居たかもしれません」


 ……そういえば、裏口があったんだ。

 それにこの屋敷は周りを柵で囲まれていないし、窓からだって簡単に入ってこれる。


「……この毒の感じですと、何か植物から取れた物のように思います。味に雑味が残っていますから」


 わかるのか!? 私も暗殺に毒を使うけど、自分に使うわけがないから、そんなことまでは調べたりはしない。


「……そういえば前に、毒トカゲの肉を焼いて食べたことがあったけどあれも苦かったなー」

「なんと! ……仲間ですね? トカゲは表皮から分泌される毒が、焼いても乾いてこびりついてしまうので残ってしまうんですよ。なので深く肉をえぐってから焼きます。あと血液にも毒はありますので、丁寧に血抜きをしませんと」


 何でそんなことまで知ってるんだ……。


「……今、言ったことをせずに召し上がると、大変おいしいのですよ?」

「嫌、まずかったし、苦かった。二度と食べたくはない……」


 でも毒を持っている生き物の食べ方を知っているのは助かるかも? 逆に言えば、安全な調理の仕方を知っているってことだから。


「おう、ルクスル。帰ってたか。……トテも一緒か?」


 玄関の扉が開けられて首領が入って来た。その後ろから団員がぞろぞろと。


「トテなら厨房にいるよ。みんなのご飯を作ってる」

「なに!?」


 ……そうだ、毒のこと言っておかないと怒られる。


「――――みなさん、帰って来たんですか!」


 トテだ。

 来てしまった。首領にまだ言えてないのに。


「トテが飯を作ってくれたって!?」

「はい、久しぶりでしたけど、ルクスルはおいしいって言ってくれました」


 毒が入っているスープを、危ないから全部捨てて作り直すって手もあるにはあるんだけど、せっかくトテが作ってくれたし、おいしいんだからいいよね?


 首領は私が出している嫌な雰囲気を感じたのか、険しい顔つきになってしまっていた。


「トテが作ってくれたんだからね」


 一応、念を差しておく。


「……どういう訳だ?」

「わかんない。何かの食材に毒が入ってたみたい」


 こそこそと話をしていると、トテが大鍋を台車で運んできた。

 

 何人か匂いで気づいたようでしかめっ面になってしまったが、トテが美味しく作れたと大満足の笑顔を向けられて何も言えなくなる。


「私とトテで作りました。美味しくなかったら、私だけに文句を言いに来てください」


 実際、みんなの殺気が凄いのだ。毒入りスープをこれから飲まされると考えると、殺し合いになってもおかしくない。

 トテを守るために、私だけを標的にするために言った言葉だったが、何故かみんな納得がいったというような顔をされてしまった。


 おい、私がこんなの作るような奴に見えるのか?


 食器が並べられ、それぞれが椅子に座り、スープがお皿に盛りつけられる。


「そういえば首領、狼がどこから入って来たのかわかったんですか?」


 この針の(むしろ)のような空気を変えるために、聞きたかったことを聞いてみた。

 もし犯人がいたのなら、そいつの仲間とかが屋敷に毒を持ち込んだ可能性が高い。


 狼の処理で忙しくて屋敷を空けた時なら、いくらでも忍び込めたはずだから。

 そいつが毒を入れたと証言してくれれば、トテが故意に毒を入れたわけではないってみんなにわかってもらえる。

 でもこのままじゃ、どこかの誰かが毒を持ち込んだんじゃないかと疑問に思う前に、何で毒を入れたかってトテに殺意の目が向けられたままになってしまう。


「門番に聞いてみても狼が突破されたって話は無いし、壁に穴が開いてたとか、崩れてたや飛び越えられたような跡は無かった。……何故かいきなり現れたってな」

「うーん、謎ですね。そのせいで団員がしばらく屋敷から居なくて、私たちでご飯を作るはめになって大変だったっていうのに」


 少し説明口調になってしまったが仕方がない。毒を入れたのは私たちではないって、わかってもらわないと。


「口に合うといいんですけど」


 ……準備が整ってしまったようだ。


 私も作るのを手伝ったのに食べないんじゃさすがに疑われる。これはおかわりも視野に入れるか。

 

「「いただきます」」


 トテも席に着いたけど、まだ食べない。

 みんなの味の感想の方が気になるようだ。


 観念して私が最初に食べ始める。

 さっきも味見したし、おいしいので問題はない。


「トテ、おいしいよ」


 みんなは空腹だということもあって、しぶしぶながらようやく食べ始めてくれた。


 このくらいで死ぬ奴らじゃないし、精神的に疲れるくらいだろう。


 あれ?


 ……そういえば!


「――――トテ!?」


 トテは毒物に耐性があるわけではなかった。


「何ですか、ルクスル? ……あれ?」


 味見を何度もしているし、毒物を過剰に摂取してしまったかもしれない!

 トテの手からスプーンが落ちた。


「ルクスル! 動けなくしたトテを部屋に連れ込みたいのはわかったが、俺たちまで巻き込むんじゃねえよ!」


 …………。


 酷いナイスフォローをありがとう、首領!


「トテ、意識はある?」

「……ほわほわします。何か、前にもあったような……?」

「ルクスル! 二度目なのか!?」


 ちがう!


 麻痺毒を喰らわせたのはトカゲで、まあいいか。


「……今日はいっぱい走ったから、疲れちゃったんだね。後始末はみんなに任せて寝ようか?」

「……ふぁい」


 トテを背中に乗せてから、みんなに軽く謝っておく。


 私のせいではないんだけど、トテを悲しませたくないばっかりに面倒なことに巻き込んでしまったからだ。

 ……まさか、そのせいでトテが辛い目にあってしまうとは。


「ルクスル……私に毒をもったんですか?」


 首領が怒鳴ってくれた時には、まだトテの意識はちゃんとしてたから聞こえてたようだ。


「違うよ、食材に毒が入ってたみたいで、……せっかく美味しく作れたのに、トテが悲しむと思って言えなかった、……ごめん」

「……おいしかったんですか?」

「うん、トテが作ってくれたんだもん」


 身体の力が抜けてしまったトテは異様に重く感じた。階段が辛い。


「前にもこんなことがあって、死にたくないって泣いてたよね。……今はどう?」

「……あったかいです」

「そっか」


 あれからずいぶん経った気がする。


 二人の関係が変わってしまうくらいには。


「……私がうごけないのをいいことに、いじめないでくださいね」


 そんなことするわけないでしょ。


 毒のせいで顔が火照ってきてるトテを見ても何ともないし、ふわふわと寝言みたいにつぶやくのが、いつもと違っててさらに可愛いとか思ってないから。


 ……本当だよ?


狼の侵入経路や毒を誰が持ち込んだかは結局書いていません。


これには理由があります。

百合を優先させた結果、何も考えていないって理由が。

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