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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
14/82

14 包囲戦

 ルクスルから詳しく聞いてみると、貧困街と言われているけど、実際は私たちが所属している盗賊団のアジトらしい。


「支部みたいなもの?」


 紛らわしい!


「建物は古いけど、ぼろぼろの外壁の中はちゃんとした家だよ」


 ルクスルが言った通りに、壁に穴が開いている家はあるけど、その隙間からは中の様子は見えない。崩れそうな壁を補強したうえで、中に何故かちゃんとした家を建てているらしい。

 こんな建築方法もあるのかと感心するけど、何でこんな面倒な作りに……。


「わざとこんなぼろぼろの街並みにしてるの。……盗賊団のアジトだから」


 日光が遮られて、路地が暗くなってるからね。普通の人は怖くなって引き返すか……。


「そのために、俺たちが見張ってるんだよ」


 怖そうな男の人たちは仕事中だったらしい。


「たまに興味本位で入ってくる奴がいるからな。出られないのを俺たちのせいにするのもいる……」


 道が微妙に曲がってたりしてて、方向感覚が狂いやすいらしい。私もここから一人で帰れる自信は無い。


「それで、どうするトテ。家、建ててみる?」


 少し興味はある。


 新しい見た目の家なら簡単に建てられる。

 でも今回は、すでに建っている家に合わせて、ぼろぼろの家を建てる必要がある。

 

「おもしろそうだから、建ててみたい」

「それなら、本当に誰も住んでいない空き家がある。そこから、俺たちは木材をひっぺがして使ってるんだ。……それでも、新しく建てるなら材料がまだまだ足りないな」

「領主の依頼なら材料費ぐらいもらえるんじゃない? 私、探してくるよ。まだその辺にいるだろうし」


 ……そういえば領主はついて来ていない。

 きっと私みたいに、ここに来るのは怖かったんだね。


「空き家はこっちだ。何件かあるから、そこの木材を集めれば家の一個くらいは建つだろ」


 走り出したルクスルを見送ってから私は男の人たちについて行く。……離れるのは寂しいけど、それ以上に、同じ団員の人たちにいつまでも怯えていては悪い気がした。引き攣った笑顔にならないように、不安気な顔にならないように注意した。


「トテってさー、何でここまでしてくれるんだ?」


 男の人に話しかけられてしまった。

 別に今まで男性と話したことが無いわけではないけど、緊張してしまう。私より年上だし、やっぱりまだ怖い。

 珍しくルクスルが近くには居ないし、知らない場所で男の人たちに囲まれているのだ。

 それでも、当たり前だけど、会話くらいできる。


「えーと、……困ってそうだったから?」

「これでも今まで問題無くやってきたんだぞ。新しい家は欲しいけど、そこに誰が住むかってなると正直面倒な話になる」


 新しい家には誰だって住みたいものだ。私の力は、ここでは争いの種にしかならないようだ。


「……私も本当は、ここにいるのは怖い」

「だろ? 無理すんな、帰ってもいいんだぞ」


 優しい人だ……。

 それなら私も本音で伝えるべきだ。


 私は他人のことを、そこまで考えていない。

 だから一度、……全部捨てて、逃げた。


 領主の話なんか聞いて、暗い路地の中まで入って、さっきまで怖がってた人たちを、私は手伝おうとしている。それでも、私がここに居る理由……。


「でも、……がんばったら、ルクスルが褒めてくれるから」


 それだけだ。


 大好きな人がいたから、私はここまでついてきたのだ。


「そうか……」


 満足な答えであるはずがない。


「……言っておくがな!」


 前を歩いていた男の人が、歩く速度を抑えて私に並ぶ。囲まれてしまった。……怒らせたかな?


「男だって、恋愛話は好きなんだぜ」


 その笑い方は首領とどこか似ていた。


「ルクスルのことが本当に好きなんだなー。甘えてる姿が姉妹みたいで可愛かったし、……どこが好きなんだ? お兄さんに言ってみ?」

「かっこいい、とこ……かな?」

「格好良いっつーか、怖くね? たまに殺気飛ばされるけど、何かいつも怒ってるんだよな、あいつ」


 怒ってる……かな? いつも笑ってるけど。


「ルクスルはすごく優しいですよ」

「そりゃあ、猫かぶってるからだろ。いつか躾とか言って、刃物取り出すぞ、きっと」


 え? ルクスルって本当は怖いの?


「最近は笑ってるけどよ、あの笑顔が逆に怖い」

「ルクスルだって、可愛いところがあるんです! 離れたくないーって泣いてましたし!」

「泣くの? え? あいつが!?」


 すっっっごい、なきますよ。

 たとえば……!


 …………。


 ……たとえば?


「何で、赤くなるんだよ?」

「……いえ」


 言ったら怒られると思う……。


 昨夜のことなんかを思い出してしまって、うつむきながら路地をさらについて行く。


「……着いたぞ。ここだ」


 周りにはいくつか廃墟みたいに崩れてしまっている家があった。屋根も無ければ、壁も一部が無くて、中には余った木材が積み上げられている。


「資材置き場みたいになっちまってるから、ここを何とかしてほしい。土地はあるんだから有効活用しないとな」


 まずは廃墟の家を綺麗に解体にして更地にしようかな。使う木材を一か所に集めて、一軒づつ造っていこうか。新しく造る家の壁は、ぼろぼろの家の木材を使えば周りの家と景観は合わせられる。


「これならすぐに造ることはできそうですけど」

「……俺はあの屋敷が建つところを見た。すぐって言うならすぐなんだろ? 家が出来ちまった後のことは気にすんな、こっちでなんとか話し合うさ」


 建てるならやっぱり頑丈な家かな。他の家には二階もあるようなので、高さを合わせるように造ってー。


 ……何か動いた気がする。

 置いている木材から、カタンと音がした。


「大丈夫だと思うが、一応離れろ。この辺りはネズミとか猫とかが住み着いてるんだよ」


 じっと見ていると、倒れている木材の隙間から小さな猫が顔を出した。

 ……しばし、見つめ合う。


「……猫だな、どっから町中に入って来たのやら」


 猫は逃げるでもなく、木材の間に座り込んでいる。それでも、その瞳は私たちから逸らされることは無い。


 ぴーーーー!


 ……笛の音?


 どこかで聞いたような。

 盗賊団が使ってた笛かな?


「――――デザンヌの笛だ!」


 音色で誰の笛かわかるらしい。……そういえば私の分は貰ってないや。森でルクスルから渡されたのは、返してしまったし。


「……何かあったらしいな。……トテ、俺らから離れるなよ」


 ルクスルは居ないしちょっと怖いかも。

 私は何もわかってないのに、みんなは緊張していて疎外感を感じる。


「――――どっから入ってきた!?」


 ……何が!?


 殺気が私を包みこむ!

 わけもわからずに、怖くて立っていられなくなる……!?


 男の人の背中が視界いっぱいに入ってきた。……かばわれている?


「ギャオン!」


 突風からの咆哮。


 何かに襲われそうになったことに気づいたのは、男の人が刃物を抜いて、何か大きな物を受け止めてくれた後、それが後ろに飛んで距離を取り、双方が睨み合ってからだった。


 ……狼?

 どこから来たの?


 ……疑問に思うのが遅すぎる。


 やっぱり私は戦えない。

 相手は攻撃の意思を牙に込め終わっているのに、私はどこかに隠れてやり過ごせないかとしか考えられない。


「――――離れるなよ!」


 逃げ出したい気持ちを落ち着かせる。

 ……それでも狼だ。さんざん森で狩って食べたのだ。


 さらに何匹かの狼が合流してくる。


 ……何匹いるの?

 囲まれてしまっている気がする。

 あちこちから、低い唸り声がする。


「――――ルクスルに頼まれてんだ!!」


 その名前を言わないで。


 叫びたくなる。

 

 何でこんな時に居ないの!?


 深く息をしようとすると、喉が小刻みに震えるのを感じた。


 笛の音がいくつも聞こえる。

 煩いくらいに鳴るそれは、何かが起こってしまったことを伝えた。


 ――――猫はとっくに逃げ出していた。


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