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辺境の地に大豪邸を  作者: ひろにい
10/82

10 領主

ルクスルの性格がまだつかめません。

トテは悩ませとけばいいって感じなのですが、ルクスルが勝手に動かない。



「お邪魔します」


 私は声をかけながら店内に入る。ルクスルは無言。

 店の中では数人が皮の鎧のような物を手に取ってみていた。


「トテ、こっちがコート」


 楽しそうにおしゃべりできる雰囲気ではないので、大人しくルクスルに駆け寄る。


「可愛い奴、可愛い奴……。トテこれ着てみて」


 ルクスルから受け取ったコートを着て、その場でくるくる回ってみる。ルクスルは何故か顔を隠してうずくまっているが、できれば顔を隠せるフード付きのがいい。着ているコートを戻して、自分でも探してみる。


「……こっち? いや、こっちか!」


 一通り着て選び、最終的に薄茶色のコートに決めた。


「トテ、サイズはどう?」

「肩のところが少し大きいかも……、丈は、……大丈夫だけど」

「よし、直してもらおう! すいませーん、おじさん」


 店番していたおじさんが鬱陶しそうな視線をこちらに向けた。


「なんだよ、ルクスルか。……お前とは話したくねえ」


 ……嫌われてるようだ。


「私とは話さなくていいよ。でも、この子の話は聞いて、肩のところを直してほしいんだけど」

「ほう、素材はいいな」

「でしょー、可愛いでしょ? トテ、回ってあげて!」


 ……そういう意味じゃないと思うよ。服の材質とかだよ。


「小さくて、いいな! 俺のことはお兄さんと呼んでいいんだぞ」


 駄目な人だった。

 一歩、距離を取っておく。


「肩だな、そこを直して……、もっと着飾った方がいいんじゃねえか? ……帽子被ってみるか?」


 以外なことに、その眼は真剣だ。

 帽子か……、暑い地域じゃないみたいだし、いらないんじゃないかな。


「ふんふん! 他はどうすればいい? 私、そういうことはわからなくて……」

「可愛い子に可愛い服を着せるのは義務だぞ! だが、ただ可愛い服を着せるだけじゃ駄目だ。どの服が可愛いか、それが似合うかどうか願いながら探すんだよ!」

「よくわからないや、可愛いならいいんじゃないの?」

「だから、お前は駄目なんだよ!」


 私も言っている意味がよくわからない。

 職人ってこういう物なのかな?


「とりあえず、これを被らせてみてくれ」


 渡せれた帽子を被ってみる。自分では似合っているのかわからないのは残念だ。


「……いいな!」

「……いいんじゃない!?」


 二人に褒められて、少し上機嫌になる。

 買う気は無かったけど、似合っているならいいかな。


「嬢ちゃん、武器は何を使うんだ?」

「トテは戦えないよ、……本当にそうなの、トテ?」

「……戦えません!」


 はっきりと否定しておく。

 前線に出るなんて、怖くて無理。


「その小ささなら、大剣を背負わさせるのがロマンなんだが、それだと可愛いコートには似合わんと思ってな」

「重いと振れないじゃん」

「……だから、ロマンなんだ! まあ、せいぜいナイフくらいか。普段は背中に隠しておくんだぞ」


 だから、戦いません。


「ナイフも可愛い方がいいかな?」

「命にかかわることだから軽々しく言えないが、ナイフまで可愛いと弱く見られるからな、装飾が綺麗な奴の方がいいんじゃないか」

「よし! 次はトテに似合うナイフを探しに行こう」


 似合う奴じゃなくて、使える奴を探してほしい。……使えそうにはないけど。


「ルクスル、ナイフはまた今度でいいよ」

「……それもそうだね、私がいるから大丈夫か。部屋に麻痺毒付いたナイフあるから、それはあとで渡しておくね」


 それもいらないんだけど。でも、護身用としてなら持っておいた方がいいのかな。


 コートと帽子の代金を払って店から出ると、誰かが叫んでるのが聞こえた。

 もしかして町中で戦ってる? 獣が入って来たとか……。


「広場の方かな? トテは私から離れないで……」


 他にも多くの人が集まろうとしている。ルクスルからはぐれないようについて行くと、町の広場にはたくさんの人がいた。中心に居て話をしているのは、盗賊団の首領、おじいさんだった。こんなところで何してるんだろう。


「……うあー、あれたぶん、勧誘してるんだよ。盗賊団に……」


 こんな町中でそんなことしていいの? 領主とかに怒られない?


「トテ、あそこに居るのが領主。……あの人の居るってことは公認なんだね、戦闘とかじゃなくて、屋敷関係の仕事っぽいから、こんなとこで勧誘してるんだよ」

「じゃあ、大丈夫なんだね。……そうだ、私領主に聞きたいことがあったんだ」

「ええー、トテに近づけさせたくない。私が変わりに挨拶してこようか?」

「駄目だよ、ルクスルは専門的な話できないから。……お風呂入りたいでしょ?」

「……お風呂!?」


 ルクスル、うるさい……。


 周りの人がみんなこっちを向いてしまった。視線に耐えられなくて、ルクスルで隠れようとしても無理だった。


「ルクスルじゃねえか、こっち来い」


 ほら、おじいさんにも見つかった。

 大人しくゆっくり近づいて行くと、ルクスルが領主に見えないように私を後ろにかばう。でも、領主に用があるのは私だ、その一歩前に出た。


「私はトテと言います。……あなたが領主さまですか?」


 帽子を取ってから挨拶する。私の顔を知っているかも知れないけど、礼儀を怠って盗賊団のみんなにまで迷惑はかけられない。


「そうだ。……君か、屋敷を建ててくれたのは」

「はい」


 恭しく礼をする。しばらく森にこもっていたが、作法は忘れてはいなかったようだ。


「トテ、やめて!」

「そうだ! トテやめろ! かゆい!」


 え?

 領主と話しているんだから会話に割りこまないで!


「……教育がなっていないようだな。ムカイ?」


 身体が強張る。……領主を怒らせた?


「悪いな、まさかここで領主に会うとは思ってなかったもんで。……トテ、こいつがここの領主だ。こいつ呼びで構わないぞ」

「いいのですか?」

「違う! 聞く時は、いいんじゃね? だ!」

「イインジャネ?」

「良いわけないだろう!」


 私が首領に言葉遣いを誘導されていると、領主が膝立ちで目線を合わせてきた。


「……私のことは、お兄ちゃんと、そう呼んでくれるか?」

「やです」


 変な人だった。対応は素でいいらしい。

 それなら、聞きたいことだけ聞いてさっさとここから離れよう。まだ、家具を見ていないし。


「屋敷にお風呂を作ったんですけど、川から水を引いてもいいですか?」

「お兄ち、……え?」

「風呂だと!? 俺が許す!!」


 おじいさんに許可をもらっても……。


「トテ! 風呂があるのか!?」

「ありますよ。……屋敷の中を見てないんですか?」

「んな暇ねえよ! こいつに、屋敷がもう出来たって自慢しに来るのに忙しかったんだ!」


 うわあ……。それは駄目でしょ。

 このままじゃ、屋敷の部屋の意味を知らずに、領主の部屋を倉庫にしかねない。仕事部屋と寝る部屋は別に作ってあるって教えておかないと……。


「……トテ」


 ルクスルがそっと後ろから抱きついてきた。……何かしおらしいけど、どうしたの?


「トテが、すごく遠い存在に見えた……」

「領主だもん、礼くらいはするよ」

「それでも、もうやめて……。トテはここじゃなくても生きられるって感じちゃうから」


 そんなことは無い。私はこの盗賊団にお世話になるって決めた。


 ルクスルの隣に居るって決めたのだ。


「……ルクスルだって、この町にたくさん知り合いが居るんだね?」


 少し意地悪してみる。


 言葉は間違えない。

 やきもちなのは自覚している。


 ここはルクスルが住んでいた町だ。私よりルクスルを知っている人が居るのは当たり前だ。それでも嫉妬してしまう。


「……だから、私にルクスルのことをもっと教えて欲しいんだ。ルクスルを一番好きなのは私だって、みんなに教えてあげたいから」

「……いいの? もう、我慢しなくていい?」


 我慢、してたの? 今もみんなの前で抱きつかれているけど。


「私もルクスルのことで負けたくないから……」


 ……結局、ルクスルが好きなところに行けてない。私のための物を、ルクスルはずっと探してくれてた。


 みんながルクスルのことを知ってて、私の知らない、昔のルクスルを知ってて。

 ……でも、ルクスルは私を守るのに忙しくて。そんなルクスルは、いつものルクスルじゃなくて。


「好きな人のことは、全部知りたいんだよ?」


 ……余裕が無いルクスルを知っているのは私だけかな。


 でも、そんな姿も見られちゃってるからなあ。


次話はお風呂回の予定。

同性なら一緒に入るのは合法だけど、真面目な話をさせるつもりなので、変なことは起きませんよ。

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