過ち 第2話
こうするって、俺は決めたんだ。
裏切った背徳感、そして罪悪感。
その全てが俺の背中を走っていく。怖い、ただ怖いという気持ちしか、俺を支配する気持ちなんてなかった。
話す気さえも、全部失せていく。
けれど真実を話さなければ、きっと全員が後悔する結末に、きっと全員が走っていくだけ。さっさと話さないと。
人を殺した時以上に、全てが怖い。
捨てられた孤児達全員が、俺を信じてくれた。あの忌々しい思考でさえも、全員が洗脳されたように信じている。
今なんだ。洗脳を解くワンチャンスは。
けれどみんなは、裏切った俺をどう見るのだろう? 俺のことは、もう仲間だとは、二度と思ってくれないのかな。
それだけが、唯一怖かった。
死刑執行になるよりも、ずっと怖かった。戻った先に居場所がない。俺を白い目で見てくる事だけが怖い。
また、背中に背徳感と罪悪感が走る。
「-----大丈夫? あー・・・」
聞き覚えはないが、どこか懐かしい声が聞こえた。一瞬、少し混乱していた意識が、どこかに吹き飛んでいた。
「惟月、だっけ?」
灰色の机が見える。上を少し見てみる。
「スゴイぼーっとしてるけど、平気?」
“なんかいる?”と、誰かに尋ねる声・・・けれど誰も返事をしない。少しの合間、沈黙が流れた後も、尋ねていた。
飲み物を飲む? と尋ねていた。
「・・・えーと、惟月?」
俺を呼ぶ取調官・・・水瀬智樹と名乗っていた男性が、なぜか突然俺を呼ぶ。彼を見る。とても困惑している顔だ。
「何か、飲みたいものとかはある・・・?」
俺の目に視線を合わせて、そう言った。俺は首を横に振った。そして、さっきから尋ねていた意味も分かった。
そりゃあ・・・困惑する・・・。
「ぼーっとしているみたいだけど・・・平気?」
なぜだか、相手は俺を心配している。
危険重要人物と言われているらしい俺に、そんな慈悲はいらないはずだ。けれど、相手は俺に対して、慈悲を見せる。
「・・・平気、別に」
慈悲を見せて、相手に吐かせる? それが今の警察の方法?
いや、きっと違う・・・コイツだけが、違うだけだろう。慈悲なんて、こんな場面で見せるようなものじゃない。
慈悲なんて、こんな奴に与える必要なんてない。




