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劣等抱く方向量転移者 ~α世界線~  作者: ザ・ディル
二章 千変万化者
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三話 『エル』という世界の常識


 

 (シャドウ)先生は俺たちの方に向かい歩いてきた。


「どうやら、ある程度のことは話せたようだね。医者として――いや、一人の人間として、君たち二人の会話の中に入るのは申し訳ないけれども、少しばかり、話さないといけないことを思い出したんでね。急遽、割り込んでしまったよ」


「そうなんですか? 話さないといけないことっていうのは?」


「君が救った少女について話すんだ」


 そう言いながら、(シャドウ)先生は歩みを止めて雛の方を向く。


「確認。名前は恋情敵(れんじょうがたき)(ひな)で合ってるかな?」


「はい」


「君は、異世界からきた?」


「いいえ」


「エルの住人?」


「はい」


「産まれてからの、記憶がない?」


「はい」


「――!?」


 !? 記憶がない!?

 それって、


「雛は……記憶喪失なのか?」


「うん。私、昔の記憶がない。気が付いて、少ししたらあの男――再生者(リジェネーター)の男に会った」


「やはり、そうなんだね」と、(シャドウ)先生は吃驚(きっきょう)もせずに淡々と話を続ける。「雛さんがエルの世界を知っていそうだったのは、輪離さんが来る前から確認済みだった。色々と質問して、それらから推測するに、エピソード記憶のみの消失って感じかな? 知識はあっても、思い出は全て消えてしまった。あってるかな?」


「記憶はないけど、多分そうだと思う」


 ……思い出のみが消えた。それは、異世界に行くために、記憶障害になるという、ある程度テンプレに沿っているような感覚を抱くが、しかしそれだけが全てではないことはよく知っている。世界が複雑にできているように、この記憶障害というのも、何か複雑なことが発生して現在に到っていることも考えられる。雛はエピソード記憶がないだけで、この世界――エルそのものは知っているようだ。

 俺が想像もつかない出来事があったのかもしれない。

 その考えはひとまず置いといて、雛は記憶喪失だということを頭に入れておこう。記憶喪失なのだから、様々な常識が抜けているかもしれない。いや、抜けてないとおかしい。それを考慮しながら話すのも大切になってくるだろう。


「ということは、二人とも生まれ育った『街』が、この世界ではないんだね。あ、雛さんはこの世界の可能性が高いけど、どこの『街』で産まれたかは覚えていないってところかな?」


「多分、そう」


「そして輪離くん、君は異世界から来た人間。

 それらのことを上の者たちに報告すると、何やら面倒なことになりそうだけど、まあそれが事実なら仕方ないかな。そのように報告しないと、後々面倒だ」


 なりやら独り言のようにつらつらと喋っているが、イマイチ何を言っているのか分からない。


「というか輪離くん、君は多分、『街』については知らないよね?」


「知らないですね……」


 この世界に来てから、『街』というワードが頻繁に出ているが、その意味は地球のころの街という意味とは、少し異なっているのだとは勘付いていた。


「『街』、というのはね、平たく言えば、条件がそろっている場所に付けられる名前なんだ。条件はいろいろあるから細かくは言わないけど、人口が多く、衣食住が揃っていれば、たいていは王国(メソッド)から認定される。王国(メソッド)というのは、簡単に言えば、『街』を認定するかどうか決定できる機関だ」


 (シャドウ)先生の言った言葉を反芻し、自分なりの言葉にまとめる。

 つまり『街』というのは、小さな村。そしてそれを束ねる機関が王国(メソッド)。こんなところだろうか。


「そして」と(シャドウ)先生は言葉を紡ぎ、「私たちのいる場所は『エイワーズの街』と呼ばれている。これは覚えていたほうがいい」


 つまりこれらの用語は、この世界――エルの世界の常識的な知識、ということか。

 そしてこの『街』は『エイワーズの街』。俺はある程度、それらの言葉を自分なりに理解した。理解したが、まだまだ疑問点がある。


「お気遣いありがとうございます、(シャドウ)先生」


「そんなに畏まらなくてもいい。一応言っとくが、私は敬語を使われるのは嫌いではないし、好きでもない。もし、君が無理をしているのなら、自然体が如く、話しかけてほしい」


「……そうですか。ですがお気遣いなく、自分はこれが性に合っているので。

 話は変わりますが、(シャドウ)先生、質問があります」


「何かな?」


「その……自分は無一文なんですが、治療費とかって払ったほうがいいんですか?」


 見落としていた、現実感ある問題。少女――雛に出会って喜びを感じ、しかし今ようやく現実感が沸き、そんな些細なことが気になっていた。いや、もしかしたら些細じゃないかもしれない。とんでもない額を請求させられる可能性もあるかもしれない。


「あー、そのことね。確かに、治療費は払ってほしいけど、今は払わなくていいよ。君たちはエルの世界のことをまだ知らないだろうし、エルの世界(ここ)でのお金の稼ぎ方を知らないだろうから、今は払わなくていいよ。ただしね輪離くん、怪我が完治したら、返済するようにしてほしい」


「それで大丈夫なんですか? 大丈夫だとして、返済は分割のほうがよかったりしますか?」


「別に分割じゃなくてもいいし、期限とかも設ける予定はないよ。君たちはいきなり知らない場所にきて、このような事態が起こっているんだ。私もしその立場だったら、そのほうが安心すると思うんだ。だから、別に焦らなくてもいいよ。

 ただ、そうだな。君たちは二人とも、ほぼ全快しているけど、二日は体調の経過を見ておきたい。基本的に外出は『エイワーズの街』内なら、どこを散策してもいいが、もしも体調が悪化したら、すぐに病院に戻ってきて欲しい。

 あとは、その間に『エイワーズの街』のことをよく知ってほしいかな。そしてどこで働くか決めればいい。そうすれば自然と収入も入るし、衣食住も何とかなる。『エイワーズの街』はそういうふうにできているからね。

 働く場所としてのオススメはね――」


 このあと、(シャドウ)先生から働く場所としてオススメな場所、そのほか様々なエルの世界の事について話してくれた。

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