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劣等抱く方向量転移者 ~α世界線~  作者: ザ・ディル
一章 方向量転移者(ベクトルテレポーター) VS 再生者(リジェネーター)
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三話 方向量転移


 俺がテレポートで移動した先は、物置小屋。広さは六畳くらい。

 不法侵入なのでは? そんな考えが頭を(よぎ)ってしまうが、今はそんなことはスルーだ。法律よりも生命(いのち)優先。


 それよりも。

 問題は抱えている少女をどこに隠すかだ。安直なところに隠せば、再生者(リジェネーター)に絶対殺される。少女を起こすのが一番楽だけど、気絶状態の人を起こすすべを俺は知らない。

 気絶状態で足手まといなら――

 ――この少女を囮にして、この小屋に再生者(リジェネーター)が入ってきたときに返り討ちにさせる戦法でも取るか――、


「それはヒーローとは呼べないな……」


 飽くまでも、このときにおいてはヒーローとしてやっていこう。短期間(・・・)のヒーローなら、多分問題ないしだろうし。


 ヒーロー、か。


「ヒーローというか、正義というか――俺はそこらに属さないほうがいいんだよな」


 ヒーローにはなりたかったが、大抵の人はそれを正義ごっこだと言うだろうし、何より今までの経験則から俺はヒーローとか正義とか、それらに属さないほうがいいことを、理解していた。

 もし、もしも俺が正義の役をやれば、周囲に不幸が降りかかる。

 正義のために動こうとしたら空振り。いや、空振りどころの話じゃない。俺は人を殺してしまうほどに、正義には向いていない。


 ……。

 そんなどうでもいいこと、今は考えるな。

 切り替えろ。今はこの少女をどうやって助けるか、だ。


 俺は物置小屋内を見渡す。

 戦闘に使える道具は、無さそうだ。


 ならどうする? この少女を殺せば面倒な考えをしないで――――

「――少女を殺すなんて……、それは完全な悪役の台詞だ。もっと、悪役のようで、それでも正義であるかのような――ダークヒーローよりのアイデア……」


 地球で考えなかったことを考え過ぎて、頭がどうにかなってしまいそうだ。それでも、少女を助けるために、頭を働かせろ!

 ――もう少し、ロジカルがあって、だけど若干狂暴(サイコ)な考えを持て。それが俺が正義を貫くための最適解だ。ヒーローよりもダークヒーローのような考え方!


 ……。

 …………。


 ――見つけた。


 完全な悪役ではないけど、悪役ではあるような策。

 この物置小屋も家屋の例に漏れず、"木造"建築物。そして今の俺の能力……。多分、ベクトル操作とテレポートを巧く行えば、再生者(リジェネーター)も倒せるし、この少女も救えるはずだ。最も、ベクトル操作とテレポート、これら二つを同時に、かつ、巧みに操れるなら……だけど。

 ならまずは、


「できるかどうか、確かめるか」


 呟き、そして行動に移る。


 適当な木材をテレポートの対象に指定。

 木材をテレポートしたとき、目の前に現れることをイメージ。

 そして最後に――、


「できるんだな……」


 内心、驚いた。驚愕した。

 本当に実現できるのだと、感嘆した。


 テレポートする物を指定して、思った場所にテレポートしたと同時にベクトル操作を行った。それが、今の俺にはできた。

 これなら大丈夫なはずだ。問題ないはずだ。

 この少女を助け出せる。


 問題があるなら、自分。

 ヒーローになれない、そういう性質を持っている自分。

 ……言い訳をするなら、自分の性格に問題がある。問題しかなかったから、ヒーローになれなかった。まあ。ともかく。


「成功を祈るしかないか。俺自身が正義の味方になるために、わざわざ回りくどい解決方法にしたんだから――ヒーローとは呼びにくい解決策を用意したんだから。きっと成功する」


 声に出して、そう言い聞かせた。





 そして。

 そして。

 息を整えて策を実行する。


 自身をテレポート。


 地上から十メートル離れた場所に移動した。こうした方があいつを見つけやすい。

 (あいつ)はどこにいる?


 そう思い、辺りを見渡し、そして眼前に映ったのは、


「マジかよっ……」


 いくつかの家屋があった。その家屋が数軒、数軒だが、破壊されていた。そしてその場所に再生者(あいつ)がいた。この破壊すべてを、再生者(あいつ)がしたのだと痛感した。


 獰猛。狂暴。凄絶。

 見境なく。適当に。(しらみ)潰しに俺とあの少女を探していた……。

 これからやることを考えれば、そのほうが罪悪感は薄くなる。ここはポジティブな思考を持とう。

 だけどこれ以上、あのスキンヘッドの男の行動を、好きにはさせない。


 まずは、俺自身を囮にして、相手の思考を束縛する。


「おい、お前っ!!」


 声を出す。それも俺なりの全力で。


 奴は、俺の方を向く。

 俺は地上に下りた。計画通りに事を運ぶには、こうすることがベストだ。


 そして、あいつが俺を襲うなら直線だ。緊張するな。集中しろ!


 鼓舞する。そうでないと、プレッシャーに押しつぶされそうだから。

 少女を助けるまで、ヒーローになれれば、それでいい。そしたら俺は適当に、この世界を生きているだけでいい。だから今回だけは、ヒーローをさせてください。

 そう願った。


「ガルルルルッ!」


 その瞬間。獣声を上げながら(リジェネーター)はこちらに来た。

 もはや、人間とは言い難い。それほど獰猛で、猛獣のような雄たけびを上げて、こちらに向かってきた。

 体力が残っているのか、先ほどの速度と変わらない速さで襲ってくる。時速百キロメートルを超えていると言ってもいい。それほど(はや)い。

 だから、襲ってきたと、感じたと同時にすぐに空中に移動(テレポート)する。地上との距離を先ほどの十メートルよりももっと低く、五メートル程度の場所にテレポートした。


 再び(リジェネーター)は大地を蹴り上げて、俺を追ってくる。もちろんテレポートで逃げる。

 そして(リジェネーター)は、俺を襲わなくなった。

 一番の獲物である少女を見つけたからだ。

 物置小屋――少女がいる場所。俺はここに誘導するためのテレポートをしてきた。


 (リジェネーター)はシニカルな笑みを浮かべる。もはやスキンヘッドの男の面影なんて見当たらない。それほどまでに獣になることに慣れてしまったようだ。骨格を自由自在に変化させるゆえの影響だろうか?


「これじゃあ再生者(リジェネーター)と呼ぶよりも骨格変化者(チェンジフレーマー)とでも言ったほうが適切かもな……」


 再生と、骨格変化。骨格変化というよりかは、リジェネートの応用力を活かしているのかもしれないけど。そんな戯言は兎も角として、だ。これからのことに集中しないと。


 すでに(リジェネーター)は物置小屋を見ていた。それは今いる上空から視認できる。

 ここまで事を運べたのは、上出来だ。だけど、この先はスピーディ・オブ・スピーディに事を運ばないとゲームオーバー。もちろん、この場合のゲームオーバーはイコールで死ぬ、そんな意味がある。


 数瞬で、(リジェネーター)は物置小屋に向かって最大の速度で走り出してくる。初速だけで最高速度をたたき出す。本当に異常だ。

 だけど、今回ばかりは良い方向に働く。

 獣だから、本能のままに行動することは読んでいた。そして、小屋をぶち破ろうとしてくる瞬間を狙って……俺は自身の能力を――二つ同時に発動する。


 方向量(ベクトル)転移(テレポート)――方向量転移(ベクトルテレポート)


 それによって、ある物を転移(テレポート)させて、さらには転移(テレポート)と同時に方向量(ベクトル)を操る。

 今回、方向量転移(ベクトルテレポート)させた物は、木材。それも物置小屋すべて(・・・・・・・)の木材を対象にした。木材で建築された物置小屋――木材の量はハンパではない。


 ありったけの方向量(ベクトル)を出力し、木材同士を擦らせる力を極大(マキシマム)に。

 摩擦熱を意図して引き起こした。

 木材自らが燃える温度まで引き上げるのは、人の力なら不可能なレベル。だけど、俺自身の能力(アビリティ)を巧く扱うことができれば、バーナーで木を燃やすよりも早く火を――炎を作り上げることが可能。そして何よりも、小屋を作れるほどの木材の量。それは簡単に言ってしまえば業火となりて、(リジェネーター)を襲うものとなる。そしてそうなることを俺は予想していたので、既にテレポートで、物置小屋にいた気を失っている少女を回収していた。


 全速力で小屋に走った(リジェネーター)は一瞬で止まることはできたとしても、その事象を認識できるまで、ワンアクションの時間ができる。そこをついた。


 策戦は成功した。

 業火の海に再生者(リジェネーター)は飛び込んだ。あれで生きている人間は普通はいない。


 再生者(リジェネーター)のケガは、攻撃を受けなければすぐに回復できる。だけど、延々と攻撃を続けていれば、治る速度よりもダメージの速度が早ければ再生者(リジェネーター)はあっけなく死ぬ。


 しかし、一つ見逃していた。


「ホントにコイツ……人間なのかよ……」


 この策戦が成功しようとも、肉体回復の伝播(でんぱ)速度が(まさ)ってしまえば、炎で延々と炙ろうが、ほとんど意味はないこと。そんな見落としてはいけないものを、見落としていた。

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