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劣等抱く方向量転移者 ~α世界線~  作者: ザ・ディル
二章 千変万化者
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十二話 千変万化者


 俺は、盗賊に襲われる前に、二つのプランを立てた。一つはモンスターが襲ってきたとき。

 そして盗賊に襲われたときのプラン。


 そのときに、ついでに聞いていたのは、ゴールデン密波(みつは)の能力だ。


「アタシは千変万化者(ステートチェンジャー)よ! 驚きなさい!」


状態変化者(ステートチェンジャー)? 名前はとにかく、それは攻撃的な能力として使えるのか?」


「当たり前よ。変幻自在(へんげんじざい)自由自在(じゆうじざい)千変万化(せんぺんばんか)として使えるわ! なめないでよね、こん……ゴールデン密波を!」


 もはや、こんこん言うのはわざとじゃないかと疑いたくなるほど、言い間違えているが、彼女の言葉を信じよう。


「分かった。取り敢えず攻撃的な能力でもあるんだな。それなら盗賊がきたとき、俺は商人を優先して護ることになるから戦いは密波に任せるよ」




*****



 盗賊から襲われているこの状況を完全に打破するには、アタッカーの密波が盗賊を倒すしかない。俺は、防御と攻撃を一緒に上手く扱えないから、攻撃側には参加できない。だから商人と雛を護る。


 俺は疑問に思う。密波だけで五人全員。倒せるのか? そんな疑問。


 密波は馬車から飛び出る。

 そして、ゴールデン密波は自身そのものを霧散し始めた。

 そして、姿を韜晦。

 密波は姿を完全に消した。


「えっ?」


 と、思えど、整理するとなるほど――状態変化者(ステートチェンジャー)は気体、液体、固体の全てを扱える人間なのか? などと、推測できる。

 何かつっかかりを感じるが気にしないでおこう。


 盗賊たちもビビっていた。


 しかし、こうなると俺もマズイ。

 密波が消えたとなれば、狙われるのは俺たち三人。気体となって消えたように見えたとしても、この場合は逆効果。密波が見えなくなったなら、ヘイト的な考えで言えば、俺が狙われる。

 しかし、その考えは杞憂に終わる。

 一人の盗賊の後ろに、密波が現れる。水蒸気が水になりそしてそのまま氷になるように密波が現れた。


 そして、


「まずは一()ぃ!」


 手をまるで刀のように、盗賊の首を斬るように入れ、そして密波の手は振り切る。

 盗賊の首は、簡単に落ちた。

 溢れ出る――盗賊の血。


「あがっ!?」


 何が起きたか分からない本人は、しかし痛みはあって、驚きを隠せない。


「うっさいわねー。さっさと(たお)して次々ぃ!」


 そう言って、密波は再び霧散。

 そして次の瞬間。首と胴体が切り離された盗賊が、さらにバラバラに解体された。

 誇張を抜きにして、それが生易しい表現だ。実際はもっと酷い。

 脳が溢れ、

 腸が溢れ、

 血も溢れ、

 地面にべたべたぐちゃぐちゃと。

 吐き気を催すほど、酷い惨状が眼前にあった。

 まるで人体模型をすべて崩したような、酷い状況。

 他の盗賊たちはその状況を見て、呆然している者もいれば、恐怖で泣き出す者もいた。


 そう思っているうちに、死体は増えていく。

 二人――三人――四人。

 全ての死体が端から端まで粉々にされた人間。巨大なミキサーに入れられて、シェイクされた人間だ。

 皮膚も関係なく

 肉も関係なく

 骨も関係なく

 内臓も関係なく

 肺も関係なく

 血管も関係なく

 無造作に粉々になった固体やら液体やらが地面に落ちる。人間が()った行為だとは思えない。盗賊は人間だったのかと思えるほど、原型がない。

 気持ちが悪い、気持ちが悪すぎた。吐き気がするが、必死に抑える。

 しかしあまりに気持ち悪かったことで、戦闘中にもかかわらず、戦闘場面を目撃するのを拒否して、俺は横を振り向く。そのとき、視界に商人を捉えた。

 商人は盗賊が無残に残酷に殺されるのを同様もせず、静観していた。

 何故だ?

 商人だろうが、狼狽えたりするだろ、この場面。

 あの悲惨な状況をまじまじとしていて見ているこの商人も、狂ってる……!


「お前ら、よくも母ちゃんを、父ちゃんを、兄妹を……許さない!!!」


 残り一人の盗賊は、雷系統の能力だったようで、自身に雷を纏う。

 さらには全体に、雷を辺り一面に撒き散らす。

 空を悠々と飛んでいた鳥たちが巻き込まれ、黒こげとなって、落ちる。


 いつの間にか、密波は俺の隣に現れていた。


「輪離、あいつ無理ぃー。私アレ斃せないやーごめんねー。だからアンタはアレ()っちゃって。アタシここで見張りしてるからぁー」

 

 ここまでしておいて……、最後には俺が殺せ、と。お前はそう言っているんだよな?

 そんなの

 そんなの

 そんなの――馬鹿げている。


 密波。お前が人を簡単に殺せるなら、俺は簡単には人を殺さない。

 もう人を殺すのはコリゴリだ。人を殺すことの愚かさは、もう十分に理解している。

 だからこそ、愚かな行為など、するものか。まして、助けられる状況なら。


「やってやるさ」


 俺は一度、人を殺したが、あれはどうしようもなく、どうにもならなかったから、殺してしまった。日本ならきっと罪に問われるが、この世界では、盗賊を殺しても大丈夫だと言われた。だから、確かにこの世界なら、盗賊なら殺すことが効率的で、正しいのかもしれない。

 だけど、あいつは、雷使いの少年は――残りの盗賊は助けることができる。あいつは、家族が殺されて怒った――怒っている。

 だからあれは――あいつは、まだ、間に合う。終わっていない人間だ。家族愛というものが、生きているのだから。悪の中にも確かな、大切なものが、大切な光があるのだから。


 転移(テレポート)

 一瞬で盗賊の目の前に。

 近くで見ると、少年だと分かる。いや、少年よりも、幼い。雷にはさっきから当たっているが、自動的に雷の力と方向を逆ベクトルにして跳ね返す。


「お前がしてきたことはいけない。盗賊の行為だからな。いけない。だけど。それは環境がいけなかったから――そうだろう? 人間は産まれる環境を選べない――育つ環境を選べない――何が悪で何が善なのか分からない――きっとそういう環境で育った――そうだろ? じゃないと、お前は家族愛をもっていない。今も狂っているのに、それでも両親や兄弟が殺されたことで怒ってんだから。お前は悪かもしれないが、正義になれる素質もあるよ。――俺が助ける。絶対。

 ――絶対に殺さない」


 決心して、行動に移す。

 少年の後ろに、瞬時に回って、裸締めをした。

 雷はベクトル操作で受け流す。速さは光だとしても、重さはそこまで感じない。再生者(リジェネーター)ほどの重さじゃない。だからこそ、裸締めを続けていられる。

 そして、雷の少年は思ったよりも早く気絶した。

 その場に少年を置く。

 俺は移動(テレポート)した。場所は商人の目の前。


「すいません。電話……じゃなくて、通信機のようなものってありますか?」


「使って、どうするんだ?」


「盗賊たちを逮捕する機関ってありますか?」


「当然あるさ」


「そこに通信して、あの少年を捕らえてください」


「……分かった」


 狐面を被った商人は、浴衣のどこにあったのか、通信機を取り出した。

 型で言えば、スマホのような端末機ではあるものの、石のようにも見える。

 その石は光り輝き出す。魔法石の一種か? と、俺は思いつつも、さらにその石は輝きだす。

 そして、どこかに繋がったようだ。


「よお、俺だ。『トリスティスの街』と『エイワーズの街』の丁度中間点のあたりで盗賊一人を確保した。至急、来てくれ。切るぞ」


 プツっ、などという音は当然聞こえない。やっぱり、スマホなんかではない。

 魔法石のような物は光の強さを弱め、ただの石のように輝きを失った。


「これでいいか? お前?」


「ありがとうございます。それで、いつ頃来るんですか?」


「すぐ来るさ」


 商人がそう言ったとき、すぐに、衣服が黒ずくめの人間が現れた。フードによって、男か女かさえも見分けがつかない、人間だ。

 商人は、雷の少年を指さしながら言う。


「あれが盗賊だ。適当に捕まえておいてくれ」


 商人がそう言うと、黒ずくめの人間は一瞬で少年のもとに移動し、一瞬でどこかに行ってしまった。

 少年は一緒に連れていかれたのだろう――気絶した少年は既にいなかった。


 人を殺さずに済んだ。そのことに俺は心底安堵した。

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