十一話 油断大敵ゆえに準備を万端に
『エイワーズの街』門前。否、門後というべきか?
いよいよ、『エイワーズの街』の外の景色を見れることにワクワクする。
それはきっと雛も同じだろう。
話は変わるが、『エイワーズの街』から出るには、許可証が必要らしい。許可証のために、身分を証明するものが必要だった。
密波は冒険者として何回も外に出ているだろう。だから身分証明になるものを持っているはず。
そして、この狐面を被った商人だって、承認なのだから何回も『エイワーズの街』の外を行き来しているだろう。だから身分証明になるものを持っているはず。
だから問題ない――そう勘違いをしていた。
結果から言えば、身分証明になるものを持っていなかったのは、狐面の商人だった。
そして今、狐面の商人は賄賂でどうにかしようと交渉中。
「ほれ、金貨やるってのに、ここの門番は意固地だ。どうにも俺を通さないって顔してるな。金貨じゃ駄目か? 聖貨渡せばいいか?」
「そう言う問題では……」
門番は二人いたが、その二人とも、この狐面を被った人を通そうとはしない。それは名前は開示しないし、身分証明も持っていないから。……どうやって『エイワーズの街』に入ってきたんだ……?
というか、
「あの、商人さん?」
「どうした男のお前?」
「あなた、本当にクエストを発注した商人ですか? せめて確証となるものが欲しいんですけど……」
身分を証明できないとなると、単純に身分証を忘れたか、或いは身分を隠したいほどの人間。どちらかだ。
だから、この商人がどんな人間か確証を得なければ雛に害が及ぶのではないかと思った。
「なんだ、男なのに変に気を回すな。安心しろ、前払いしてやるよ」
そう言われて、金貨を一枚ずつ三人に配った。……報酬は全額で金貨一枚だったのに。
「だからクエストを追加だ。こいつらを言いくるめろ」
「無理ですよ、商人さん――」
「分かったわ!」
俺の言葉とは裏腹に、密波は動き出す。
「門番の方たちぃ、後ろの奴らには秘密ですけどアタシにはこれがあんだからね!」
そう言って、俺たちに見えないように、しかし門番に見える位置で密波は何かを見せた。
そのあと、門番たちは話し合い、誰かに連絡し、溜息。そして、
「通っていいですよ」
あれほど頑なに門を開けなかった門番が門を開けた。
一体何を見せつけたのだろう……。なんかこのメンツやばすぎな人な気がしてきた……。
「よくやった、冒険者」
商人はけらけらと笑っていた。
こうして、俺らは『トリスティスの街』に向かう。
*****
見通しのよい、原っぱ。道は広大、見透せる場所も広大。
その広大な中、馬の上に乗り、馬を扱う商人。馬は馬車を引っ張っている。
この馬車は、形で言えば若干歪で巨大な直方体。面積の一番小さな場所は風を通す。荷物を載せている場所は木材。しかし物などを日陰にするため、残りの三面は皮を使ったものだ。
そして俺は今、馬車の頂点の場所に座っている。それは日向ぼっこをしたいわけでもなく、高所が好きだからとかではなく、敵対しそうな相手を高い場所から見るためだ。モンスターが来れば伝えるし、明らかに盗賊そうな相手が見えれば、戦う準備をしなければならない。時には撤退も考えるべきではあるが、しかしこの場所に盗賊が現れるとは考えにくい。
一時間ほど『トリスティスの街』に移動しているが、冒険者三人と出会った程度だ。
思ったよりも人とは会わないし、モンスターにいたっては一度も出会っていない。だからこそ、安心している。まあ、ワクワク感は若干失せてはいるけど、このクエストで医療費を全額返済できるのは、本当にありがたい。唯一、否、唯二心配なのは、密波か商人が何か突拍子もないことを起こしそうで怖いことだ。
さらに一時間経ったところで、馬車を引っ張っている人たちがいた。
冒険者はいないように見える。皆が、それなりに服を着飾っているし、何よりも、家族っぽいのだ。
五人、だと思う。彼ら彼女らは和気あいあいと話していた。
だから安心した。
馬車と馬車の距離がほぼゼロになったとき、不思議だと思える声が聞こえた。
「万物――◇■〇――貫け……」
何を言っているのかと、耳を傾ける。
「我が剣はすべてを貫く。故に万物を穿ち、絶対に絶無の結果だけが残る。
貫て『穿剣』!!」
その詠唱が終わった瞬間見たのは、相手の馬車の――側面の板が破裂し、爆ぜた。燃える馬車逃げる人たち。
「ざまあねえぜ! これで手前らの馬車は粉々……は?」
俺らの馬車は壊れていない。
俺はあらかじめ手を打っていた。
方向量転移。
再生者と対戦したとき、能力を同時に発動できた。
だから、この能力は応用できるなと思った。それによって見い出した。
様々なことを実験し、ベクトルの面をあらゆる空間に固定できることを知った。そしてこの場所に、あらかじめ馬車にベクトル反射ができるように仕組んでいた。
まだ、三次元的にベクトルの膜を作ることは不可能だけど、二次元的になら、比較的簡単にできた。だから、攻撃が来そうな側面に、膜のように張った
相手の攻撃は迅くて分からなかったが多分『刀』の能力の一種だ。詠唱から分かった。
それらはともかく。
これで判明した。この家族のようなやつらは、実はそんなことはなく、盗賊だということ。
そのときのプランは既に密波たちにも話している。
「密波! 雛! 盗賊だ! 敵は視認で五人。倒すぞ!」
「うん」
「分かった。斃すわね!!」