十話 ゴールデン密波とかいう偽名女
金髪にツインテール。容姿端麗。黒のブラウスに短めのスカート。黒タイツ。
なんか逸脱している格好な気もするが、それがこの異世界では普通かもしれないと、ツッコミを我慢する。
金髪の彼女が、俺たちに指をさし、クエストに参加したいことを表明していた。
「……名前は?」
「こん……ゴールデン密波よ。ん? 何その顔? なんか文句ある?」
「いや……」
文句を口にするなら、「それは偽名だろ」だ。
こん、と最初に喋った時点で、手で口を押さえ、そのあとにあの名を名乗った。自分の名前を忘れるわけないから、彼女は絶対に嘘を吐いたと、誰でもわかる。
馬鹿だ。相当なレヴェルの馬鹿だ。
「偽名でしょ、それ?」
雛は我慢できず、突っ込んでいた。
「はあ!? 何!? アタシが嘘ついているとおもってんのおおおおお!? しょーこーだせー! はやくー!」
酔っ払いか! と言いたくなるのを我慢して俺は、冷静に密波に話しかける。
「偽名でもいいですよ。取り敢えずは密波さんと呼びます。それで? このクエストに参加していただけるのは本当ですか?」
「ん……、ほんとうよ。このアタシ――こん……ゴールデン密波様がアンタたちのクエスト手伝ってあげるわ!」
「報酬は均等にしますよ? それでいいですか?」
「仕方ないわねえ。それで許してやるわよ!」
……正直、こんなキャラ濃い人を選びたくないが、仕方ない。割り切ろう。これでメンツは揃った。
「じゃあ、密波さん。自分はクエスト受注しますけど、いいですか?」
「とうぜんっ! 速く行ってきてよね!」
なんだろう。雑なツンデレになりそうな金髪ツインテール少女だな。
そう思いつつも、カウンターに行き受付嬢に話しかける。
「このクエスト受注したいんですけどいいですか?」
「はいっ! 分かりました。えーっと、クエストで冒険者は三名以上とのことですが、残り二人はどこですか?」
「あー……今連れてきます」
失念していた。そりゃあ三人で行く確認が取れていないと駄目だよな。
俺は二人を呼んできた。
「お三方それぞれの名前を教えてください」
「遠藤輪離です」
「恋情敵雛」
「ゴールデン密波よ!」
「……分かりました。受注次第、商人のかたに連絡しておきますが、……本当に、このクエスト受けて大丈夫ですか?」
どういう意味か分からない。
たまらず質問する。
「どういうことです?」
「この商人のかた、身元が分かりかねるので――」
「クエストを受けてくれたのは、君たちかな?」
受付嬢の声が遮られて、代わりに後ろから中声的が聞こえた。
振り向くと、そこには細身の、狐面を付けた人がいた。
男だ。かなりの長身。
そして何よりも違和感なのが、浴衣姿で『ギルド』に来ているということ。
「よお、俺がそのクエストを発注した商人で依頼者だ。さて、今から護衛に付き合ってもらうぞ。こっちこい」
言われるがまま、俺は狐面を付けた男の後を追っていく。というか、先に雛と密波が行ってしまえば、行くしかない。本来は、受付嬢にいろいろ聞くべきだったが仕方ない。急いで後を追っていこう。
しかし何か勘づいて俺はカウンターの方を向く。受付嬢はとても心配していたようだった。
何故だろう? もしかして、先ほど言いかけていた「身元が分からない」ことを危惧しているのだろうか? 正直、そこまで問題ないように思える。異世界で、身元がないなんて当たり前だろう。身元は日本でさえ判明しない人間が入るくらいだ。異世界に身元が分からない程度の人間がいたって、別に問題ないと思い、そのまま『ギルド』を去った。