九話 クエスト
『ギルド』に俺と雛は入った。
活気づいている酒場と言い換えてもいいほど、中は賑わっている。
俺は雛を引き連れながらカウンターに向かう。目的は冒険者となってクエストを受けること。そのために受付嬢に話しかける。
「すみません。自分と、隣にいる人も冒険者になろうとしているんですけど、手続きお願いできますか?」
「はい、いいですよ!」
先日聞いた通り、お金を払うこともせず、冒険者になる手順を踏み、俺たちは冒険者になる。
「はい、これでお二人は冒険者です。頑張ってくださいね!」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとう」
感謝を口にしてカウンターから離れる。
続いて、クエストが貼られている巨大なコルクボードの場所に行った。
2,30のクエストがコルクボードに貼られていた。
ある程度、調べは付いていた。条件がある程度安全であり、高報酬のものがいいだろう。虫のいい話のようにも思えるのだが、そのようなクエストがあるのだ。それは、初めて『ギルド』に来たときに貼られていたが、何故だかイマイチ人気がないようで今日まで残っていた。
俺はそのクエストの内容が書かれた紙をコルクボードから外し、手に取り、雛に訊いてみる。
「雛、このクエストってさ。難易度高そうに見えるか?」
俺が指さしたのは、簡単に言えば護衛任務。
クエスト内容は、商人一人を護衛して『トリスティスの街』にまで連れて行く依頼。
『トリスティスの街』。三態の変化――気体、液体、固体を主として栄えた『街』、と聞いている。栄えた理由は、温度調節によって栄えた。『トリスティスの街』にいる大半の能力者が状態変化を操れる類である。その能力者たちをもとに、完成させたのが、温度調節をある程度までなら自由自在に扱える箱。名称は聞き忘れたが、それほど素晴らしいものがあるのだという。それが『トリスティスの街』には設置されているので、常に、適温の環境のまま一年を過ごすことができる。
また、『トリスティスの街』は様々な状態変化を用いた道具を作ったことで有名なのだという。そして、『エイワーズの街』からは意外と近い。話に聞く限りでは往復しても、一日もかからないと聞く。さらにはある程度道も整備されているので、モンスターに出くわしたとしても弱いレベルのモンスターと考えられる。
だから、危ないところは特にない。盗賊だって、そこまで出くわさない。人がよく行き来するはずなのに、その場所に盗賊などが現れたら、冒険者が集まってきてやられるだろう。だからこそ、そもそも護衛のクエスト自体がおかしいように思える。それを思い、雛に難易度が高いか聞いたのだ。
「高くない、と思うよ」
雛も同意見のようだ。やっぱり、オカシナ部分はない。破格な条件。これを逃す手は、ない。
しかし、
「冒険者は三人、ね」
クエストを受注する条件として、冒険者を三人要望していたのだ。
この依頼を出した商人は相当慎重な人なのか、ここまで慎重だと他の冒険者も怪しいと思えるのか、そもそも三人の冒険者を集めるのが難しいのかは、わからない。
とにかく、このクエストは受けておきたい。
俺がそこまでこだわる理由は、この依頼を達成すれば医療費をすべて返済できるのだ。それは、報酬を均等にしても、同じ。だからこそ、適当に一人誘いたい。
あたりを見渡すとドラゴンマスターがいた。
しかし、彼を誘うのは止めておこう。報酬がすべて奪われる可能性がある。
次元や生命操作師こと麗美さんはいない。つまり、俺が話し合える人物はいない。
「困ったな……」
見たことある冒険者はいるっちゃいるが、喋ったことはないし、相手の能力もよく分からない。能力くらいは分かってないと、信用しにくい。相手の能力が分かればたとえ仲間割れが起きようが、相手から安全に逃げればいい。能力が分からない場合の対処法が難しいのだ。でもまあ、聞き出せば問題ないよな――、
「ちょっとアンタたちー?」
後ろから声が聞こえ、百八十度に回転すると、そこには金髪の女性がいた。
「そのクエスト、アタシにも参加させて!」