七話 次元刀
次元刀の力を知るために、俺と次元は『エイワーズの館』から離れた。
場所は『エイワーズの街』中心――ではなく、その外れ、木々が生い茂る場所。大木もあり、雑草もある平原、そんな場所。
「ここら辺りでいいかな」
次元は辺りを見渡しながらそう言った。
「一応先に釘を打っておきますが、最低でも半径五メートルは離れてください。そうしないといろいろ危険です。まあ、輪離さんの場合は転移で逃げてください」
「分かった」
そう言いつつ、俺は次元と五メートル以上距離をとる。
同時に疑問――次元刀という能力が気になる。
次元刀。名前だけ聞くと、イメージがふわふわする。次元を操る刀? あまりイメージがつかない。
一体どのような能力なのか。
「まずは、刀を出しますね」
まずは刀を出しますね? 何を言っているんだ?
次元は刀を持っていない。まして、近くに刀もなさそうなのにどうやって――と思ったが、その思考は無意味となる。
次元の右手を、軽く拳を作っている状態にしていた。
いつの間にか、その手の内から目映い光を放っていた。その光が、形状を変化させていく。それはまさしく、刀の形。光は消え去り、刀が出来上がった。
「これが、『刀を出す』ってことです。それでこの刀が、僕によって発露させたので、勝手に次元刀になります。わかりますか?」
丁寧に問いただしてくれたのは、俺を異世界人だと知っているからだ。ありがたい配慮だ。
俺は疑問に思っていることを口にする。
「ある程度はわかります。でも、それって、『刀を出す』じゃなくて『次元刀を出す』ってことじゃないんですか?」
「なるほど、異世界人はその部分をあまり知らないのか」と言い、次元は説明を始める。「簡単に言えば、刀の能力者って意外と多いんですよ。そして、刀の能力者はイメージするだけで、先ほどのように刀を出す――刀を召喚するといったほうが正鵠を射ているかもしれませんが。とにかく。刀関係の能力者は意外と多く、人それぞれ刀の特徴は違います。能力は同じだとしても、刀の硬さだとか、重さだとかが変わるってだけですが。僕はまだ小柄な体格なのでそれに合う刀となると、必然的に刀は若干小さくしないといけないですけどね」
「つまり、刀の能力者なら、自由にいつでも刀を出せるってことか」
魔力から、武器を作るっていう類に少し似ているな。
「付け足すなら、光の状態のときに、イメージに変化を加えればある程度は刀の大きさを変えられます。」
かなり汎用性が高いな。異世界人の自分が思いつかないほどの使い方も多そうだ。
「ここからは次元刀の能力の説明です。もう一度注意しますが、なるべく離れてくださいね。……準備はいいですか?」
俺はコクリと頷いた。
それと同時に切っ先を地面に向ける。それはまるで、これから抜刀術の類を放つように。
足と足をぐっと離す。それはまるで、クラウチングスタートする人のように。
そして、刀を横一文字に振るう。次元の目の前に物体はなく、空を斬る。さらにはクラウチングスタートの溜めを開放し、思いっきり前に前進。前進した距離、五メートル以上。驚異の身体能力だ。
そして――そして――横一文字に空を斬ったその部分には亀裂が走り始める。
刀を振るったその部分は――空間は、ひび割れていく。
そして、辺りにある草花を飲み込む。それは小型のブラックホールと例えていいほどの驚異。そして数秒後、そのブラックホールは消え、亀裂も消え、もとの空間に戻る。しかし吸い込まれた草花はもう戻らない。
「これが、次元刀の力の一部です。もちろん、詠唱すればいくらか力は増大します」
「詠唱? ってことは、今のは詠唱破棄ってことか?」
「ええ。と言っても、今回は『助走』をつけていたので、本来ならいきなり次元刀を振るってもあそこまでの威力はないですね」
『助走』か。確かに、自分もベクトルを使うとき、足を相手にぶつけながらベクトルを扱っていた。何もしないでベクトルの力を使っても、『助走』を付けたときの力は発揮できないだろうな。
「一応、他にも次元刀の使い方は有りますが、大抵は今見せたのと、逆のパターン――吸い込むのではなく、吐き出す方をよく使いますね。その二つ以外はあまりしないので覚えてなくていいです。いつか、輪離さんともパーティを組む日を楽しみにしてますよ」
次元はそう言ってくれたが、これが方便なら……と考えている自分がいて嫌だった。
というか、俺はまだ冒険者になると決めたわけじゃない。もしも、俺が冒険者になるからという理由で、雛も冒険者になるとしたら、俺は冒険者になる気は――一切ない。
次元が技を見せてくれたあと。
軽く『エイワーズの館』以外の場所も案内されて、病院に戻るときには夜になっていた。