六話 エイワーズの館
ドラゴンマスターと生命操作師の戦いを見終わった俺は、『街』を適当に散策した。
働く人々、商売人。なにやら怪しそうな店。思ったよりもいろいろある。
住宅街のほうに行くと、住民の人たちが大勢いた。再生者によって被害が多い場所を中心に修理している専門者がいて、住民が専門者と協力するという構図を俺は遠くから見ていた。……自分は手伝ったほうがいいだろうか? というか俺は物置小屋を意図して壊したんだよな……。
このままでは罪悪感で押しつぶさてしまう気もする。よし、手伝いに行こ――、
「あなた、異世界人ですよね?」
「――!?」
思わず転移を使用。距離をとる。
「やだなあ、驚かないでくださいよ」
少年だ。先ほどの、ドラゴンマスターと生命操作師の仲介の役を買っていた少年。確か名前は、
「次元さん……?」
「そうですよ。僕の名前は結城次元です。そういうあなたは、再生者とやらを斃してくださった方、ですよね? 再生者を斃してくださって感謝しますよ。あのとき、再生者を殺せる冒険者はいなかったと思っているので、ホントもう、感謝しきれないくらい、感謝しています」
「それは……ありがとうございます?」
「なんで疑問系なんですか……。まあいいです。それよりも、暇なら『エイワーズの街』の案内しましょうか? あなたキョロキョロしてるからまだ道を知らないでしょう? もしそうであり、かつ、時間もあれば一通り案内しますが、どうしますか?」
「えっと、じゃあ、お願いします」
こうして、少し不思議な少年に『エイワーズの街』を案内させられる。
*****
見知らぬ道を歩く。それもそうだ。ここは本当に未知しかない場所なんだから。
次元は俺に興味を持っているようで、様々なことを話してきた。
その中で、俺の能力が方向量転移だと話すとかなり興味を引かれだ。
「へえ、輪離さんは方向量転移者ですか。それは冒険者向きの能力者ですね」
「だよな」
「そしで、先ほど話していた少女は感情を操る、だとか。こちらはアレですね、巧みに使えば商売でボロ儲けできそうですね。ぜひその道を検討したほうがいいと思いますよ」
「いや、さすがにそれは――」
「――冗談ですよ。僕もそこまで邪道じゃない。ところで輪離さん。あなたはその少女――雛さんと一緒に冒険者になりたいと思っているんですか?」
「分からない。ただ、雛は幸せに暮らしていればそれでいい」
「幸せに暮らしていければそれでいい、ですか。気持ちはわかりますが、もしもそれが冒険者になりたいことが雛さんの幸せだと、雛さん自身がそう思っているなら、輪離さんはどうするんです?」
「…………」
「不躾な質問でしたね、すみません、なかったことにしてください。それよりも着きましたよ。ここが『エイワーズの館』です」
次元が案内してくれたのは『エイワーズの館』。西洋風な館で、異常な土地面積を誇る館。それが、『エイワーズの館』。
この『街』の名前は、『エイワーズの街』だ。その理由は道中に次元から聞いたが、エイワーズがこの場所を『街』にすることに成功したから、なのだそうだ。そして今現在、エイワーズという人物は生きているらしい。
エイワーズ。本名、エイワーズ=ルデルス。
嘗てエイワーズは、王国にいた門番だったらしい。しかし、門前での戦闘でとある異能力者と戦い敗け、門を突破されたため、王国から追放された。そしてこの場所でここを『街』にすることに成功した。ちなみに、そのエイワーズに勝った異能力者は異世界人なのだという。異世界人というが、死んだときに話した櫛玉の発言から、その異世界人は間違いなく日本人だろう。いつかは異世界人同士で戦う可能性もあるのだろうか?
「多分いないとは思いますが、呼んでおきましょうかね」
そう言って、次元はスタスタと歩きながら、城門ともいえるほどの巨大な門前に足を運ぶ。その門前の延長線上にある外壁にインターホンがあり、そのインターホンを次元が押した。
「…………。どうやら、留守みたいですね。エイワーズさんは結構忙しいので、こういうことはよくあることらしいです」
ため息をつく次元。
俺は気になったことを話す。
「留守にすることがよくあるらしいって……、エイワーズって人はあまり見かけないのか?」
「あまり見かけない、というのは間違いないです。何せ、僕はまだエイワーズさんを見たことがありませんから」
「見たことないのか? 次元は『エイワーズの街』の人間だろ?」
「ええ、そうですよ。ですけど、僕は見たことがない。ですが、住民内で見たことエイワーズさんを見たことがある人は意外と多いです。体感だと、住民の半分くらいはエイワーズさんを見た人はいるらしくて、だから信憑性は全然あるんです。そして実在もしてるでしょう」
「てっきり全員がエイワーズって方の面識があると思っていたんだが、違うんだな」
「ええ、エイワーズさんは忙しいでしょうから。忙しい理由は、噂としていくらにも散りばめられていますが、個人的には王国によく行っているという説が気になりますね」
「王国に嫌われているんじゃないのか?」
俺は思っていたことを口にした。
エイワーズという人物は、王国に追い出されたのだ。その理由が異世界人に敗けたから。それを考えれば王国から嫌われいてるのではないかと思った。
「嫌われてないですよ、多分。王国の門番役は大役です。王国の貴族以外――主に平民が、一度の失態でも許さないって感じの人たちが多いらしいので、形式上王国から追放されたんだと思います。それを考慮すると、王国の住民には嫌われていますが、別に王国内の貴族には嫌われてないでしょう。ですから、裏方として王国を支えているのだと、僕は推測します」
かなり筋が通っていそうな推理だ。もっとも、俺は王国のこともあまり知らないし、それ以外のことも何もしらないレベルなので、それ以外の道筋を考えることは不可能なんだけど。
「その可能性は十分ありそうだね」と率直な感想を言いつつ、「そう言えば」と話題転換させて、次元にあることを聞こうとする。
「次元の能力って何なんだ?」
「言ってませんでしたね。僕の能力は一言でいうなら次元刀ですね」
「次元刀ってなんだ?」
「今から見せましょうか?」
「できるなら、是非見ておきたい」
そう言って、俺は能力――次元刀の力を知ることとなる。