物々しい来客だった
さて、エリシアとその従者であるユミルとロイが村に来て早1ヶ月弱。
どうやらこの生活にも慣れてきた様で結構馴染んできた3人。
ラムリスさん達が来る度に何処かへ隠れてしまうのだが、面識があるのだろうか?
まぁ商人は情報網が凄いらしいから、自分の事を知られるのはまずいのだろう。
なんたってお姫様、まぁ第9王女らしいけど俺達からしたら本来なら雲の上の人物だ。やんごとなき事情もあるだろう。
それは兎も角。
今日は月1のラムリスさんが来る日である。
何回か取引すればこちらも慣れたもので、予めラムリスが求める物を仕分けしておいて作業時間を短縮する気配りくらいはできる。
表情には出さないけど、あまり村に滞在したくない様だからね。
「お久しぶりですね、タクミ殿。」
「あぁラムリスさん、お久しぶりです。今ジュウゲンを読んできますね?」
「おお、すみません。あと今回なんですが、ご紹介したい方と謝らなければならない事がございまして…出来れば全員を呼んでいただきたいのですが。」
ラムリスさんがそう申し訳なさそうに言ってきた。
よく見ればラムリスさんの後ろにはいつも来る護衛の他に、なんか高貴な雰囲気が抑えきれない男性が1人、さらにその後ろにいつも以上の数の護衛がたくさんいた。
「…わかりました。全員を呼んできますので少しお待ちください。」
なんだろうか?
やはり後ろの高貴そうな人と関係があるのかな?
10分も掛からずに全員が集合した。ラムリスさんは何故か盛大に生唾を飲み込んで緊張した面持ちで話し始める。
「まずは、謝らなければならない事から。私は実は王家に仕える御用商人でして、実は皆様方の事を国王の命のもと調べさせていただいておりました。」
ラムリスさんがそういうや否や、俺の後方のハヤテから物凄い怒気…いや、殺気が放たれた。もちろん俺にではなくラムリスさんに。
「…ハヤテ殿のお怒りはごもっともと存じます。取引等に不正はないと断言できますが、それでも私があなた方を騙していたことに変わりはございません。」
ショウゲンが手を挙げてハヤテを制す。
ん?…ああもハヤテが簡単に引き下がるなんて…さては知ってたな?
「それは別に構いません。しかしその事と後ろの御仁の件は関係あるのでしょう?」
ショウゲンがそうラムリスさんを促した。
この村の代表者はジュウゲンだが、交渉ごとや外交の様なものは基本的にショウゲンが担当する。
「はい…ここからは…」
「ラムリス。よい、私が話す。」
「殿下…よろしくお願いいたします。」
ラムリスさんに紹介された男性は殿下と呼ばれた。王家御用商人…殿下…つまりそういう事だろう。
「ご紹介に預かった、この国の第2継承権を持つザックス・サンザールだ。本来ならばここは父…国王や最低でも第1王子が来るのが筋ではあるが…無礼を許してほしい。」
…いや、十分だと思うけど。
あ、やめて殿下。そんな孤児風の子供達に30代の身なりのいい男性が頭下げるとか状況的におかしいから!?
ほら!後ろの近衛騎士みたいな人達すんごい睨んでるから!
「こちらもお話が来た時は驚きましたが…どうやらショウゲンが先にちょっかいをかけた様子…こちらも無礼を働きました、許してほしい。」
ジュウゲンが頭を下げるが…え、じいちゃん何やったの?王族に無礼とかマジで何やったの!?
というかジュウゲン、事の経緯知ってるなら教えてよ…他のみんなはポカーンとしてるよ?
あ、いや、ばあちゃん…キクカがいい笑顔でショウゲンの耳を引っ張ってる。
「あとでお話があります…」ってさ。自業自得だと思う。
やっておしまいなさい!!
…いや、現実逃避はやめよう。
「殿下!!この様な下賎な者たちに頭を下げるなどおやめください!!殿下の品格が損なわれます!!」
うん、俺もそう思う。
「おやめなさい!貴方達!これは国王陛下の勅命ですよ!?」
「商人風情が知った口を!!」
え、この訪問って勅命なの?
一体マジで何したのさ…じいちゃん。
「やめないかお前たち!!ラムリスも言ったようにこれは勅命である!この命に背くというのは即ち国家への反逆行為である!」
あの…そこまで言わなくても、もう少し穏便にですね…?
今にも武器を抜いて飛びかかりそうなザックス殿下の護衛たち。
すると今度は本気の殺気がハヤテから放たれる。いや、ショウゲンとジュウゲンからも物凄い…静かな覇気みたいなの出てるけどさ。
なんかこう…某格闘漫画の動の気と静の気みたいな奴。
もう辞めたげて?マフユやヒスイがビクついてるから…
「殿下の名誉を守るためならば、このアスラ!その汚名、喜んで被りましょう!行くぞ!誇り高き殿下の騎士たちよ!!親のいない低俗なガキどもを討て!」
……あ゛?
いまあいつ、なんて言った?親のいない低俗なガキ?親がいない、居なくなる辛さを知ってんのか?あ゛?
どうやら俺は思っていた以上に短気だったみたいだ。
「アスラ!?何をやっている!皆も剣を引い…!」
「やめなさい!この方達と敵対しては…!」
…【最適解】、あいつらの最も戦意を削れる方法を。
【了解…この世界の魔法知識を得たことにより、選択範囲の拡張を確認しました】
【弱点強撃…並列展開…武器破壊……障壁突破…結合崩壊…抽出…統合】
【…分類:複合特級魔法…“死点必中”…発動します】
「…“死点必中”。」
【最適解】の補助機構により、俺にしか見えない赤いターゲットカーソルが、武器を抜いている騎士の剣にロックオンされる。
バキッ!!
「んなっ!?」
アスラと呼ばれた騎士の剣が根元から折れたのを皮切りに、次々と騎士達の剣が破壊されていった。数秒もしないうちに全ての剣の刃が地面へと落ちた。
「何が…」
「ま、魔法なのか…?」
「こんな魔法聞いたことないぞ!」
「剣がなければ予備のナイフで殿下をお守りしろ!!」
どうやら全く効いてないみたいだな。ならば自重はやめよう…
そういえば目の前に御誂え向きのものがあったな。
「…殿下、失礼ですが。この村を囲む4つの山…あぁあと3つしかありませんが…邪魔ですよね?」
1つは前にヒスイがある魔法で吹き飛ばしたからもうないからね。
「…確かにあの山のおかげでここに来るのは苦労したが…」
「だ、そうだヒスイ。あの山の3つともアレで吹き飛ばして良いみたいだぞ?」
さっきまでビクついた表情が嘘のように晴れやかになるヒスイ。
まぁ俺とかがあの魔法関係に関しては禁止令出してたからね。
でも今は関係ない。
「盛大に吹き飛ばせ。」
「りょっかいっと!“睡蓮花・連式”!」
睡蓮花か…いや、確かに水爆と言うのは気がひけるけどなんか違う気がする。
「タクミ殿…一体…」
ラムリスさんが困惑した顔で俺に聞いたが…もう直ぐ分かりますよ。
カッ!!!!!カッ!!!!!カッ!!!!!ドォッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
そんな爆音とともに村を凹の字に囲っていた山が根元から吹き飛んだ。
吹き飛んだそばから土砂や瓦礫が一気に気化してるんだけど…一体どんな熱量だよ。
各種フィルターが働いてるだろうから、音以外の被害はないんだけどさ…なんかこう…少しでも原理を知ってる身としては心臓に悪い。
「な…あ…な…」
殿下は口をパクパクとさせて飛んで気化する瓦礫を見上げ。
「これ程とは…」
ラムリスさんと元々のお付きの護衛のモリスさんとアナさんは顔面を真っ青にし。
「「「「……。」」」」
護衛達は立ったまま気を失っていた…やったのはこっちだが、護衛がいいのかそれで。
「殿下…私たちの目測が甘過ぎました。これは最早対等などと甘いことを言っている場合ではありません。全面的な協力関係を結ぶことを具申致します。」
ラムリスさんは膝をつき、ザックス殿下にそう言った。
あ、その話がまだあったんだ。結局なんの話をしに来たのか知らないんだけど…
「う…うむ…しかしそうなると私だけの判断ではどうしようもないぞ。一度持ち帰り私から陛下に報告せねばなるまい。だがそうなると…」
うん。そうなるとただ喧嘩をふっかけに来たみたいになるよね?
まぁそれは護衛達の忠誠心故に…とは言えるけど、此方からしたら迷惑極まりない。
「此方は構いませんよ?ラムリス殿、ザックス殿下。」
ショウゲンが和やかにそう言った。
…最近、じいちゃんの笑顔に妙な凄みを感じ取れるようになったのは気のせいだろうか?
「…申し訳ありません。代わりに本日持ってきた商品はそのままお納めください。代金は結構ですので…」
「いえいえ、商談は平等な立場であるべきです。キチンと代金はお支払いしますよ。」
恐ろしいね。王族相手に“貸し1つ”って言ってるんだよ?あのじいちゃん。
「ザックス殿下もゆめゆめ、陛下によろしくお伝えください。」
「あ、あぁ…此度は誠に迷惑を掛けた。近いうちにまた訪れる事になると思うが、よろしく頼む。今度はこのような事が起こらないと約束しよう。」
なんか殿下がここ数刻の間に10歳は老けたように見える。
…ごめんよ。やり過ぎた感は否めないけどさ…ならもうちょっと護衛の手綱を握っといて欲しかった。
「この度は誠に…」
「この失態は必ず…」
そう口々にラムリスさんとザックス殿下は口にし、哀愁漂う背中を見せながら帰路に着くのであった。
今度きたら優しくしてあげよう。
すみません、リアルの事情で更新が少しの間2日に1回になります。