刀狩りだった(後)
「しかし…いつ見ても見事よのぉ。」
所変わり、村の貴賓室にて夜叉姫はお茶請けに出された菓子をムシャムシャと咀嚼しながらそう呟いた。夜叉姫の対面に座るのはタクミとコウイチ。夜叉姫が何か仕出かさないかの監視…もとい厄介事担当。
「ん?何がだ?」
無視しても答えるまでうざ絡みをされるのが目に見えている為、タクミはそう相槌を打った。
「お主等の『閉心術』がじゃよ。暗殺者の心を閉ざし感情を乗せずに殺す…これは懐刀家だけに限らず暗殺者ならば必須の技能じゃが、お主等の『閉心術』はちと違う。お主等の『閉心術』は最早異能と呼ぶべきレベルじゃからの。」
「異能…か。確かに僕たちの『閉心術』は自分の心を閉ざすだけじゃなく、君達の『載能』にも有効だからね。」
「それじゃ!何故お主等は無機物である刀に対して『閉心術』を掛けれるんじゃ!」
閉心術とは狭義的には、相手から心を読ませないように閉ざす技術だが、これを暗殺者は仕事をこなす際に動揺などの感情を一切排除するために使用する。しかし懐刀家の『閉心術』は、自分だけではなく他者にも影響を及ぼすことが可能という、夜叉姫が異能と呼ぶにおかしく無い仕様をしていた。
「お主等が他人に『閉心術』を掛けるという異能はこの際よい!じゃが何故妖刀に『閉心術』を掛け、『載能』の保護機能である呪詛を無効化できるのじゃ!」
『載能』が載せられた妖刀は、刀が所有者から強制的に引き離されると所有者を呪詛によって呪殺するという機能がある。先のゴルザルの件がコレに当たる。櫛灘の妖刀は成長する。それは使えば使うだけ強くなるという意味だが、『載能』が載せられた妖刀は最初に抜刀した人間を所有者として登録する。所有者以外の人間が妖刀を使ってもそれはただの切れ味の良い刀である。
その為、仮に所有者が妖刀を盗まれたり、『刀融』の初期段階で支配の浅い状態で所有者が妖刀を手放したりした場合、その妖刀は成長の機会を永遠に奪われる可能性がある。そこで櫛灘の刀鍛冶達は妖刀を打つ際に呪詛を含ませ、妖刀を故意過失に関わらず手放した場合に呪殺させ所有者の初期化を行うのだ。
そう…保護機能とは妖刀を守るための機能であり、持ちてのことは何も考えていない。ただ妖刀を成長させることしか考えていないのだ。
「…無機物の刀とはいえ、櫛灘の『載能』入りの妖刀は成長する刀。成長する…つまり生き物として俺たちは解釈することでお前らの妖刀に『閉心術』を掛けれる。まぁ…実際にはもっと細かくて面倒な事をやってるが、害悪品を世にばら撒くお前らに教えてやる義理はないな。」
「むぅ…棘のある物言いじゃな、タクミよ。お主等だって妾達の妖刀を使っておるじゃろう?」
「正確には、使っていた…だろ。この世界に来てお前らの妖刀は使ってないし、この刀もジュウゲンが外側だけ似せた別物。そもそも魔法が存在するこの世界で所有者を呪い喰い散らかす妖刀なんて、文字通り害悪品でしかないだろうが。」
確かに地球の頃の櫛灘の妖刀というものは、広く重宝されていた。表の世界では美術品として、裏の世界では殺戮の道具として。『載能』は妖刀を成長させるための補助機能だが、少なからず所有者にもメリットというものは存在した。それは妖刀に打ち込まれた櫛灘達の経験のフィードバック。
櫛灘は刀鍛冶であると同時に、刀をより深く理解しより良い刀を打つために、必ず何かしらの剣術を修めることが課せられる。櫛灘で刀鍛冶と名乗れる者たちは、同時に剣術の達人とも言える者達なのである。
そんな二足の草鞋の達人が打った刀には『載能』の副次効果として少なからず打ち手の経験が含まれる。全ての経験ではないが少ないと言っても達人の経験。所有者へのフィードバックによる身体操作の最適化…これにより例え素人が妖刀の所有者となっても並以上の剣士へと変貌を遂げる理由である。
さて…では暗殺者として最高峰に位置する懐刀家が、櫛灘家の妖刀を使うメリットとはなんだろうか?それは単純明快、櫛灘の打つ刀が最上業物だから…それだけだ。
奇しくも地球に於いての最高の鍛冶師の称号を持つ櫛灘の妖刀が、懐刀家に取っての最高のパートナーだったというだけだ。最高の耐久性、最高の切れ味、最高の持ち手への馴染み方…ただそれだけ。
しかし今は魔法が存在するこの世界で、それらは無用の産物。態々『閉心術』を使用してまで心を蝕もうとする刀と向き合う必要もない。
「地球の価値観を持ち込むな…とまでは言わないが、此方の価値観に合わせる努力はしろ、夜叉姫。俺たちは既にこの国の王族と主従契約を結んでいる。この国に害を及ぼす一族と品を俺たちが無視するとでも?」
一瞬にして剣呑な雰囲気を発したタクミに、夜叉姫は怯えるでもなく憤るでもなく、つまらなそうに溜息を吐いた。
「はぁ…なんじゃ、この国は既に懐刀のお手付きか。ならばこれ以上、刀を蒔くことは控えるかのぉ。」
アッサリとそう言い放つ夜叉姫。何故なら櫛灘も懐刀の怖さを知る一族。誰が好き好んで喧嘩を売りたいものか。
まだジュウゲンが現役時代の話だが、当時の櫛灘の鍛冶師の一人がある時ジュウゲンの護衛対象に悪質なちょっかいを出したことがある。その当時のジュウゲンはまだ若く、今のような柔軟な思考は出来なかった。詳細は省くが、結果的に櫛灘の一つの拠点が全滅。当人である鍛冶師と見習い六名が死亡するという事態が発生したのだ。
因みに当時の櫛灘と懐刀も刀の取引を行なうパートナーだったが、それはそれ、これはこれ…という考えだったとか。
「分かればいい。で?残りの五振りの刀はどこら辺に蒔いたんだ?」
「……ガランのある商会に売ったの。何でもある村の訓練用に使う武器が欲しく数打ちを掻き集めて追ったから、格安で。」
そこで急に歯切れの悪い口調で話し始めた夜叉姫。
「ある商会?まぁお前らは自分の打つ刀の気配が分かるからまとめて売ったなら一つ見つければ芋蔓式にわかるか。」
「うむ…ついでに言うとじゃな。妾の刀の気配がこの村にあるのじゃが…」
「おい待て…まさかその商会って、ラムリスさんとこのか!?」
「う、うむぅ…ラムリスとやらは知らぬが、気配がこの村にあるということはそうなんじゃろう、なぁ…」
と、そんな所に村の警備隊に所属する女性が血相を変えて部屋に駆け込んできた。今の話の流れからすると嫌な予感しかしないが、まだ決まったわけではないと自分に言い聞かせる。
「タ、タクミ様!ご会談中申し訳ございません!火急の用でして!」
「…大丈夫です、で、どうしたんですか?」
「訓練用に支給された武器を手に取った数名が急に暴れ出し、手が付けられません!管理者のハヤテ様は現在居られないためタクミ様にお知らせしに来た次第です!」
「…因みに、その人達が持ってる武器はなにか分かります?」
「は?…武器の種類ですか?…全員片刃の反りがついた剣だったかと…」
「…分かりました。俺とコウイチが行くので周りには手を出さず防御に徹するよう伝えてください。すぐに行きます。」
了解しました!と女性は再び慌てるように部屋を出ていった。
「タ、タクミや…」
「夜叉姫、確か腕試しをしたかったんだよな?じゃあ…後で俺とコウイチとのスパーリングをしようか?お前サンドバックな?」
それはそれは、今日一番の爽やかな笑顔で夜叉姫に死刑宣告を下した。
騒ぎはタクミとコウイチが暴れてる警備隊員を制圧し、刀を回収したことで鎮静化しました。
タクミ「よし、じゃあスパーリングを始める。夜叉姫、刀は禁止だ。なに安心しろ俺等も刀は使わん。」
コウイチ「そうだね、武器を使ったらスパーリングにならないからね。」
夜叉姫「狡いぞ!?お主等は全身凶器のようなもんじゃろが!妾、刀がないとただの幼女じゃろ!?」
タクミ&コウイチ「そりゃそうだ(でしょ)、お前(君)サンドバックだもん。」




