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刀狩りだった(中)


「ねぇマフユ。」


「…何?ヒスイ。」


「聞いてた話だと確か『怒』の妖刀所有者って話だったよね?でも…」


「そう聞いた記憶は確かにあるわね。でも…」









「「『怒』どころか『哀』の所有者合わせて四人居るんだけどぉぉぉぉぉぉ!?」」


「ぐぉぉぉぉぉぉ!!!」

「憎い、全てが憎い!!」

「シクシクシクシク…嘆かわしい…」

「全て泡沫の儚い夢…故に、斬る…」


マフユ、ヒスイは珍しくジュウゲンから二人での回収任務を任されていた。珍しく…というのは、マフユとヒスイのペアでの任務がである。前世ではまだ高校生ということもあり、また現代において暗殺稼業の仕事量は減少傾向にあるということで、二人には主に女性要人の護衛任務が多く割り当てられ、暗殺などの汚れ仕事は回ってきたことがなかった。


そしてその護衛任務もまだ上位陣から見たら未熟な二人のために、監督者としてそれぞれにユミカやカオリがペアとして付く。なので純粋な二人きりの任務というのはこれが初めてだったマフユとヒスイ。


内容は櫛灘の悪癖である放流した妖刀の回収。櫛灘の妖刀は鞘から抜いた瞬間に所有者の感情を一つに縛る刀。それにより雑念が振り払われ刀の太刀筋や本人の技量が洗練され…結果的に強くなる。それでも元々の所有者の剣の腕があればの話であるが、素人が持っても中々に効果があるというのが笑えない。


「ちょ、これ、不殺だから、かなり、やり辛いんだけど!」


「以下、同文!」


四本の妖刀による縦横無尽の攻撃。如何に戦闘技術を積んだ懐刀家の二人といえど中々に辛い。そもそも懐刀家は暗殺を生業とする家だ。戦闘に移行する事が愚策とも言えるため、戦闘技術はあっても暗殺技術の練度には劣る。歴戦の経験を誇るジュウゲンや元から軍用合気術を修めるハヤテなどは例外として、そこら辺の有象無象には負けないにしても純粋な戦闘職に対してはやはり一歩劣ってしまう。


しかも今回の対象は四人とも前衛であり剣士であるという珍しい冒険者パーティー『鬼灯の房』。ランクはパーティーとしてはDランクであり、中堅どころの戦闘経験豊富な人間達だ。それに妖刀の力が加わればさもありなん。どうやら此方も露天商にて購入し、今回試し斬りのため手頃な討伐依頼を受けたようで、目標対象のオークを討伐したのはいいもののそのまま妖刀に呑み込まれた所に、周りに人はいない森の中だった為これ幸いとマフユ達が躍り出た…という経緯だ。


殺していいなら楽なのに…とヒスイが脳筋チック且つ物騒な事を呟きながら剣筋を捌くが、手詰まりなのには違いない。パーティーということで感情に呑まれつつも連携をとる為、人数差も然ることながら刀対素手という絶対的アドバンテージもあり攻めあぐねる二人。


「ヒスイちゃん、マフユちゃん、手伝いましょうか?」


「まだ大丈夫!」


そんな悪戦苦闘する二人に声をかけたのはアリサ・ベリクラム。元帝国情報局所属、元軍人刈りという物騒な肩書を持つ妖艶な美女。そしてその後ろに何時でも助けに入れるように佇んでいるのはヨハイム・ドルラグマ。此方もアリサと同じ経歴を持つ明らかに殺人者という強面の風貌をした偉丈夫。だがその実、アリサが殺人拳、ヨハイムが活人拳の流派をそれぞれ修めているあべこべの二人。


今回はヒスイとマフユを心配したタクミが、二人の助っ人として手配していた。亡国の元軍人ということで現在はタクミ達の村に世話になっており、タクミの願いならばと二つ返事で了承したアリサとヨハイム。普段は二人共酒場のウェイトレスと村の警備隊員という全くの異種業に従事しているが、腕は鈍っていない。こと戦闘という一点に絞った評価ならば、ヒスイとマフユよりも腕は立つだろう。


「ヒスイちゃんとマフユちゃん、中々苦戦してるわねぇ。」


「まぁ不殺確保が前提条件だからな。殺して良いのなら既に勝敗は決しているだろう。」


アリサとヨハイムは、ダトウ家の大まかな成り立ちと専業・・の話をタクミから聞いている。元から一般人でないと分かっていたし、ソチラ方面だとは思っていた為驚きは少ない。まぁ当初の村の自分より年下の少年少女たち全員が暗殺者とは思わなかったが。


帝国の惨状、中佐の事情、今後の事など目まぐるしく対応に追われ、結局はタクミ達の村で世話になることに落ち着いていた。帝国のスラムに置いてきた子供たちや帝都の知人たちのことを残念に思わなくもないが、結局は命あっての物種。哀悼の意を掲げつつ、中佐との折り合いをつけ、村での生活に馴染んでいる。そこら辺は流石帝国の闇を見てきた元軍人と言える切替の早さだ。


「「っ、アリサさん!ヨハイムさん!ヘルプ!」」


流石に分が悪いと感じた二人は躊躇なくアリサとヨハイムにヘルプを出した。目的は妖刀の確保と所有者の捕縛。目的を間違えないあたりダトウの教育が行き届いていると言える。


そこからの展開は早い。ヒスイ、マフユ、アリサ、ヨハイムはそれぞれ一人ずつ対応することに。アリサは鳩尾に強力な掌打を、ヨハイムは顎に拳を当て脳を揺らす、ヒスイは眉間・鼻下・喉の三点急所を突き、マフユは男性の息子を潰すつもりで蹴り上げた。


全員が殺さないまでも戦闘不能にするには十分な…マフユの相手はある意味死ぬ…ダメージを与えたはずだった。しかし剣士達は倒れる素振りも意識を失う素振りもなく、痛みすら感じていないように戦闘を続ける。


「むっ…これはまさか。」


ヨハイムが何かに気付いたように呟いた。


「えぇ…ジュウゲンさんが言っていた『刀融』かしらね。」


『刀融』…櫛灘の妖刀における侵食・・の第二段階。初期段階は妖刀による感情制限。そして次の段階として感覚の制限が挙げられ、今回の場合は痛覚が制限を受けているといえるだろう。


「うわぁ…櫛灘の妖刀って話しに聞いてたよりエグい能力持ってるんだね。」


「フッ!…ってマフユ!何呑気に観察してるのよ!痛覚遮断してるなら私達のアレ・・で意識飛ばすよ!」


尚、暴れ続ける剣士達は、最早顔から生気というものが感じられなくなりつつあった。『刀融』は名の通り妖刀との同一化を図るもの。しかもそれは妖刀が使用者の一部に成るのではない、使用者が妖刀の一部になるのだ。主導権はあくまで妖刀であり、そうなれば最早生きているとは言えない状況になってしまう。


流石にそれは防がなければならなかった。しかし不殺確保の命が出ている以上、ヒスイやマフユの魔法では万が一にも加減が利かず殺してしまう可能性がある。ならばとヒスイはマフユと共にアレ・・で動きを止めるしかないと考えた。


「えぇ…アレやると翌日喉潰れるんだけどなぁ。仕方ないかぁ…」


「しょうがないでしょ!アリサさん、ヨハイムさん!後で治すから耳潰して‼」


ヒスイがアリサとヨハイムに指示を飛ばす。『耳を潰せ』…常人なら耳を疑う言葉だ。しかしアリサとヨハイムは躊躇なく指で両耳の鼓膜を潰した。疑う余地もなく、躊躇う余地もなく、何かを感じ取り素早く。


「「いくよ…■ ■ ■ ‼」」


「「「「‼」」」」


ヒスイとマフユの口から言語と呼ぶには形容しがたい音が発せられると、直ぐ様剣士達は身体を硬直させ、小刻みに震え…泡を噴きながら倒れ込む。倒れ込んだ剣士の視線は何処か虚空を見つめるように彷徨っており、明らかに精神に異常をきたしていることが伺えた。


「あ"あ"ぁ…やばい"のどいっばつでいった…」


「ゴホ…わだしはまだマシがな?」


ガラガラのカスカスに声を枯らしている二人にアリサとヨハイムが近づく。


「どうなったの?」


「何かをしてコイツらが倒れたのはわかるが、何も聞こえんから状況が分からん。まぁ耳を潰して正解だったとは思うがな。」


両耳から血を垂らしている二人だが、痛がる素振りも見せずに平然としていた。流石は元軍人といったところだろう。


「あ"、そうだった。」


ヒスイは自分が両耳を潰すように指示を出したことを思い出し、二人に鼓膜の構造を明確にイメージしながら回復魔法をかける。こうすることで治癒の速度向上と傷の間違った癒着を防ぐ効果があるのだ。


「ありがとうヒスイちゃん。」


「い"え、咄嗟の事だったのにごぢらこそ…」


「え…大丈夫?喉ガラガラよ?」


いつもの可愛らしく溌剌とした声からは程遠い変わり様に、アリサは心配するとともに戸惑った。ヨハイムも口には出さないが心配する雰囲気を醸し出している。


「大丈夫でず。明日には治り"まずから。」


「……ヒスイ、答えれなければそれでも良いのだが…もしやアレは『精神汚染』、か?」


「…えぇ、といっでも魔法ではないので永続的な効果はなくであくまで一過性のものでず。まぁ無理に分げるなら…『言語中枢圧迫型精神汚染言語ミーム』といったどころでずかね?」


「…成程、俺たちの知り得ない方法で知らない事をやったということだけは理解した。ともかくコイツらを村まで運ぼう、二人の喉も心配だしな。」


「ええ、そうね。この剣士達は私達が運ぶから二人は妖刀の納刀・・だけお願いできるかしら?」


「了解でず。」




ヒスイ・マフユ・アリサ・ヨハイム。妖刀四本回収完了。



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