刀狩りだった(前)
「この世の全てが許せない‼理不尽が!不合理が!差別が!!!!」
怒りに身を任せ、憤怒の表情で刀を振るう女冒険者。怒り狂うその表情とは裏腹に、繰り出される剣技は非常に合理的かつ流麗。
「ほぉ…『怒』の妖刀に魅入られて理性は飛んでるはずなのにこのキレ。お前さんもともとがいい腕だな…となると多少手荒になるか?」
それに対峙するのは無手の少年…もとい、ジュウゲンから刀狩りを命じられたハヤテ。そんな二人が死闘とも呼べる戦いをしているのはガランのど真ん中だった。
「サザンカは一体どうしちまったんだよ…さっきまで普通に話してたのに。」
「わ、分からないわ…さっき露天商から買ったって言う刀を見せてくれるって言って抜いた瞬間…」
遠目からサザンカと呼ばれた女冒険者とハヤテの行く末を見守るのは、仲間の冒険者だろうか。魔女風と盗賊風の女冒険者だ。
傍から見れば狂気に当てられた冒険者が、道行く少年に対して凶行に及んでいる…とも見れなくもないが、ある程度武術に理解があるものならばわかる。
この女の冒険者はかなり出来ると。実際にこのサザンカという冒険者は、ガランでも有数の上位ランク冒険者だ。たがその猛攻を軽々といなし、相手をどう拘束しようかと悩む素振りを見せている少年こそ、更に強い…そう理解せざる得なかった。
「ふむ…元凶は櫛灘とはいえ得物に呑まれているのもまた事実。ここは未熟故の勉強代と思ってもらうしかないな…っと!」
サザンカの横薙ぎに合わせて、ハヤテは真下から無拍子による蹴り上げを持ち手に向け放つ。
「「くっ⁉/おっ?」」
前者は不意を突かれた事と、持ち手(柄)を蹴り上げられた衝撃に苦悶の声を上げるサザンカ。後者は手の指を砕くつもりで蹴り上げたのにも関わらず、その状態から力を逃がし、尚且つ刀を取り落とさなかった事によるハヤテの小さな驚き。
「なるほどこりゃ良い師に恵まれた…なっと!」
驚きはしたが予想の範囲内…とでもいうかのように、ハヤテは体勢を崩したサザンカの刀を持つ手首を極め、抵抗させることなく地面へと投げる。
「かはっ!?」
地面へと背中から叩きつけられた事により肺の空気が押し出され、一瞬意識がブラックアウトするサザンカ。その瞬間を見計らいハヤテの手が刀へと素早く伸びた。
「(用心に越したことはないな…『閉心』…)」
刀と鞘を素早くサザンカから奪い取り、納刀…そしてようやく場が静寂に包まれる。
「ここか私闘をしてるのは!おい、そこの二人動くな!」
静まった空気を再び震わせたのは通報を受け駆けつけた衛兵が三人。顔を真っ赤にして来ているのは街の平穏を脅かしたことに対する怒りか、はたまた急いで駆けつけたことによる酸欠か。
「お前らだな!?市民から通報のあった街なかで私闘をしていたという者は!取り敢えず二人共詰め所に来てもらうぞ!」
衛兵の一人がそう言いながらハヤテへと詰め寄ってくる。私闘というよりは傍から見ればハヤテをサザンカが襲って、それを返り討ちにした…という構図なのだが。
「あー…お務めご苦労さま…と、協力したいのは山々なんだが…生憎こちらも急を要するんでね。」
「このガキ、何をごちゃごちゃと!」
「『ダトウ』の者だ…こう言えばソチラの隊長さんは分かるかな?」
そう水を向けた隊長格らしき衛兵は、ハヤテのその言葉を聞くと目を見開き驚いた。
「ッ……まさか、君が『ダトウ』と?」
「…は?隊長、一体何を…」
「俺が『ダトウ』ではなく俺達なんだが…まぁ一緒か。」
「ワグナー伯爵様から概要は聞いている、その場合の対応も。ではその刀?というものが君の目的か。この者はどうする?」
話が要点を絞って簡潔に進められる。蚊帳の外の他の衛兵は困惑顔だが、ハヤテにとっては話が早くて助かる。そうして衛兵隊長が指し示したのは先程まで暴れていた女冒険者。いつの間にか仲間であろう二人も寄り添いながらハヤテと衛兵隊長の話の成り行きを見つめていた。
「うん、刀の制御を予定外に外れた反動で当分意識は戻らないだろうし、街なかでいきなり暴れたという悪評も一定期間は流れるだろう。一旦俺たちの村に逗留させるとするかな?よろしければお仲間さんもどうぞ?」
「「え…?」」
てっきりサザンカは勾留されると思っていた仲間の冒険者。そうなれば弁護、最悪は逃走も辞さない構えでいた二人だが、突然の提案に困惑しか返せなかった。
「村からもしものために運搬用の人員を手配してもらってる。その女性はその人達に任せると良い。」
「え…あ…はい。」
「わかったよ…」
「宜しい。では隊長さん、これで俺たちは失礼するよ。ああ、あとコレ。」
ハヤテは去り際に小さな麻袋を衛兵隊長へと手渡す。袋からはチャリンと硬貨の掠れる音がすることから金だろう。
「ご足労のお詫びと協力金さ。ワグナー伯爵からも許可を貰ってるから賄賂なんかじゃないから安心すると良い。この騒動に出会した住民に酒を奢って、更に詰め所の衛兵たち全員に奢っても足りるくらいには入ってるから。」
衛兵隊長はその言葉に疑問を抱きながら袋の中に目を向ける。音の仕方から多く見積もっても金貨二、三枚。流石に全員には…と思っていた隊長だが。
「なっ!?」
「これからまた迷惑かけるかもしれないからね。刀の件もだけど、『ダトウ』関連にしても…持て余すようだったら皆に奢ったあとに領主と使い道を検討するといいよ。よろしく頼むね、隊長さん。」
そう苦笑いしながらハヤテは去ってゆく。衛兵隊長…このガランの全衛兵を束ねるガラン衛兵守備隊総隊長ガルシスは、去ってゆくハヤテに向けて静かに敬礼を取った。
白金貨二枚の入った麻袋を握りしめながら。
ハヤテ。妖刀一本回収完了。
白金貨二枚=タクミ達の村(街)を建設するために使った建設費、人件費、その他経費とほぼ同等の金額。
ハヤテの『迷惑』の意訳=櫛灘の妖刀の件、ダトウ家がワグナー伯爵へ頼んだ根回しによる本来の衛兵の仕事の理念を曲げる件、ヒスイ達若年組がこれからギルドにかける迷惑を見越して…といった感じ。




