懸念的中だった
一騒動あったが、夜叉姫とメイドを落ち着かせ話し合いの出来る茶屋(喫茶店風)に場所を移す。勿論店長に無理を言って人払いは済ませてある。
「それで?お前達はこの世界に来て何日目だ?」
「むぅ?数えてはおらんが…凡そ20そこらじゃな!」
「そうか…なら次の質問だ。何本放った?」
櫛灘の一族。古来より裏で栄し武器職人の集団。裏で、とは闇の側面を孕んだ言い回し。つまりは懐刀と似たような境遇だが、もう一つ櫛灘には特異な性質があった。
それは女しか生まれない…そして女だけが発現する異能とも言える力だ。櫛灘の一族はその異能を駆使して特別な武器を作り、それを販売して生計を立てていた。
そして懐刀もその恩恵には確かに与っていたのだが、タクミ達が櫛灘に難色を示すのは、そのマッドサイエンティストの気質に対して。
櫛灘の打つ武器…取り分け刀剣類は打つその全てが例外なく『魔剣』や『妖刀』といった類。しかもその多くが持ち手を呪う被呪系のもので、しかも刀剣自身が常に成長し続ける。故に持ち手にはコウイチのような閉心に長けた者や精神的に屈強な者でなければ扱えない。
にも関わらず、櫛灘は自身が打った刀を敢えて安価で世に放ち、程よく成長した頃合いを見計らって回収…そして回収した刀剣を再度分析し新たな刀剣の糧とする。という迷惑極まりない方法を取ることで有名なのだ。その過程で何人死のうが、それに巻き込まれて都市が一つ壊滅しようが櫛灘は気に求めない。良くも悪くも職人気質。
先の呪死した冒険者もその被害者の1人だろう。
「妾たちもこの世界に来て少しは混乱しておったからのぉ。環境を整えてまともに作成段階に入れたのはここ数日じゃから…ま、九本といったところかの?」
「き、九…」
コウイチがその数を聞いて絶句した。櫛灘の打つ刀剣は例外なく『妖刀』の類。それは世間一般に知れ渡っている『妖刀村正』レベル…ではない。『妖刀村正』が可愛く見えるレベルで高い完成度、そして櫛灘の異能が込められている真の『妖刀』だ。それが既に九本も世に放たれている。
コウイチだけではなくその場に居合わせたタクミとジュウゲンも眉をひそめた。
「…因みにそれは誰の作刀じゃ。振り分けも聞かせてもらおうかの?」
「ふむ、確か妾作が三、『九曜』作が二、『羽衣』作が三、『夜』作が一じゃな。」
「つまりは『怨』、『哀』、『怒』…そして『無』が既にどこの誰かが所持している、と。」
櫛灘の異能…それは武器に感情を持たせ、持ち手の感情を支配する『載能』という。刀剣に自我を持たせるのではなく、単一の感情を載せ、持ち手にその感情のみを強要するのだ。
櫛灘の永遠の探求テーマは『ヒトを斬る際の最も効率の良い感情』である。人が生物を斬る際、どれだけ熟練の剣士であっても感情の揺れは発生する。それは意識的、無意識的であってもだ。人が人たる所以が感情に起因する以上それは仕方ない。しかし達人であっても一瞬の気の迷いで敗北する事はままある。
ではその可能性を摘むにはどうすればよいか?という観点で作刀を行なうのが櫛灘の一族なのである。持ち手の精神に由来しない完全な刀剣を目指している。…是非は置いておいて。因みに無駄な先のゴルザルの腕が急激に伸びたのは無駄な感情を排した結果、それ迄に身に着けた体の動きが最適化されたのと、単純に刀剣の性能差故だ。
「しかし寄りにも寄って『夜』が刀を打つとはの。あやつは隠居した身ではなかったか?」
「確かにバァ様は…おっと、『夜』様は隠居したのじゃが、この世界に来る際に皆この姿レベルまで若返ったからのぉ。創作意欲が止まらんわい!…と腕試しで打ったそうじゃ。」
夜叉姫の口調から察することが出来るがジュウゲンやショウゲン同様、夜叉姫達も一部の者たちは実年齢と外見が激しく乖離している。
話を聞くにだいたい夜叉姫レベルの外見年齢に統一されているようだ。どうにも櫛灘も一族の会合中に死んだらしく、その場に親戚の子どもがおりその年齢に引っ張られたらしい。
「なんと迷惑な…」
「しかしタクミ、そうは言っても奴らの刀剣を野放しは出来まい。前の様に政府の追跡システムもないこの世界、放っておけば何が起こるか分からん。」
「ということは…?」
タクミとコウイチは嫌な予感がした。正確には前にも同じパターンに見舞われたことがあるからだが。
「うむ…刀狩りをするしかなかろうて。」
「「マジか…」」
普段はそんな表情は出さないコウイチさえもしてしまうほどの嫌そうなしかめっ面。場の空気が重くなる一方で夜叉姫は一人、お茶請けに出されたケーキをのほほんと頬張っていた。




