確定だった
「改めて、この度は申し訳なかった。」
ギルドマスターの執務室で全員が席につくと、ローグは改めて頭を下げた。これはワグナーとの約束云々というよりも、本人の気質によるものだ。
それを正確に読み取ったタクミは苦笑いを浮かべた。
「ローグさん、先程も言いましたが実害は無かったんです。もう謝罪は十分に戴きました。」
「…そうだな。はぁ…ゴルザルもギルド内で抜剣するなど馬鹿なことを。もう少しでCランク昇格も見えていたというのに。」
そこでタクミは「おや?」と疑問を抱いた。今の話だとゴルザルのランクはDだ。タクミ自身もDではあるがこれは飛び級制度を使った裏技によるもの。
それに対してゴルザルは普通に昇格試験を受けた正規ルートからのDランクだろう。
しかし先程の上段袈裟斬りはタクミから見ても中々の技量が伺えた。ランク評価の詳細は詳しくないが、あれでDというならばギルドのランク制度というものは中々厳しいのだなとタクミは感じた。
「へぇ…さっきの袈裟斬り中々に見えたんですけどね。彼ほどの技量があってのDとは、Aともなると一騎当千を体現する様な存在でしょうね。」
「……。」
そこでふとローグの眉毛が微かに跳ねる、と同時に思案顔になった。
「どうしました?」
「…ゴルザルはあんな性格ですが剣の腕はソコソコのモノでした。しかし先程の剣技、ゴルザルにしては流麗過ぎたと思いまして。それにゴルザルの使う武器は大剣だったはずなんです。」
ゴルザルの持っていた剣は大剣ではなくサーベルに近い形状のものだった。流石にCランク昇格圏内という大切な時期に、武器を持ち替える意味もないはずだ。
「まぁ騒ぎを起こしたことで憲兵から取り調べを受けるでしょうから、その時にでも…」
と、そんなときドアがノックされ、返事も聞かず入ってきたリリアが少し焦った様子でローグに耳打ちする。
「…なに?ゴルザルが?」
主語が抜けた会話だが、どうも厄介ごとのようだな…と他人事に構えていたタクミ。しかしローグの視線がタクミを捉えたと同時にある直感が過ぎった。
「(あ…これ厄介事に巻き込まれるパターンだ)」
奇しくもそれは当たる。宝くじや福引なんて一回も当たったことがないのに、こういう時に限って当たるのだ。
「ゴルザルが、どうしたんですか?」
「…先程、ギルドの地下牢で急死した。」
「マフユ、加減間違えたんじゃない?」
「なっ!?ま、間違えてないよ!私のせいにしないで!」
ゴルザルの急死にヒスイが横目でマフユを咎める。もちろん本気ではないが、人が死んだ後に出てくる言葉ではないのは確かである。
「ああ、そこは心配しなくていいよ、死因は外傷性ではない。鑑定魔法を使える者が言うには呪殺…正確には呪詛返しのようなものらしい。」
この世界には属性を元とする魔法の他に概念や時空間に干渉し行使する魔法が存在する。その中で一際特殊な系統の中に呪属性というものがある。
人工天使の双子の片割れも使用していたし、現在エリシアに掛けている仮死状態を維持する魔法の中にも呪属性は組み込まれているが、普通は常人が使用に足るような魔法、属性ではないのは確かだ。
呪属性に限らず基本属性(五行)から外れた系統外属性(呪属性を始め基本属性以外の特殊属性)は、その使用に大きな副次効果が現れることが多い。
それは呪属性で言うならば精神に現れ、耐性がなければ使い始めて凡そ半日ほどで廃人になるだろう。系統外というのはメリット以上のデメリットが存在する。唯一デメリットらしいデメリットがない系統外属性が身体強化などを行える無属性くらいだろうか。
この世界は魔法≒イメージという側面が強い為、そのイメージさえ明確に固まれば、極論としては誰でも使える魔法という存在。そもそもの話だが、『呪い』というモノを明確にイメージ出来るという時点でその人間は精神性に異常をきたしているだろう。※ダトウ家の人間にこの際、精神性について言及するのは今更である。
「…因みになんですが、ゴルザルの手から剣が離れた瞬間に苦しみだしませんでした?」
その問いに答えたのはリリア。その顔には驚きの表情が張り付いていた。
「は、はい。頑なに剣を話そうとしないので数人がかりで…その直後に突然苦しみだしまして。」
「(あー、これはあれだ…当たりだわ。)なるほど…その剣は今どこに?」
「誰にも触らないよう言伝を出しているので、まだゴルザルさんの傍らにあると思いますけど。」
「…それはよかった。マフユ、ジュウゲンにメールを。そしてコウイチをこっちに寄越してもらって。」
「で?これがその件の剣かい?」
ギルド隅で床に放置されたままの剣を、村から急いでやって来たコウイチがしげしげと眺める。
タクミはこの剣が、櫛灘製の秘剣の一種だと踏んでいた。というか秘剣だと確信していた。その根拠は剣に込められた『怨』。
櫛灘の秘剣は『感情を内包する剣』といい、ある種魔法的な効果を有するのが特徴なのだ。今回の『怨』が込められた剣は、言わば呪いの剣。
持ち主を何らかの形で呪い、その対価として身体強化が上がるものの、もし剣が持ち主から離れたと判断された場合、呪詛返しとしてその持ち主に跳ねっ返りがくる。
典型といえば典型的な秘剣の特徴と酷似していた。
「どう?コウイチ。」
「うん、タクミの睨んだ通りだよ。この剣は櫛灘のもので間違いないね…ということは、何だけど…」
「確実に一人以上は、来てるんだよなぁ…」
タクミがこの場にコウイチを呼んだのは他でもない。コウイチが自身の閉心術を活かし、向こうではこの『怨』の秘剣を愛用していたからだ。そしてそのコウイチが断言したのだからもう疑いようは無かった。
「うん、しかも来てるとしたら夜叉姫か、黒姫かどっちかだね。」
「「はぁ…」」
寄りによって…と二人のため息と。
「ここかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな幼子の叫び声が重なったのは同時だった。




