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お約束だった


「おいおい、こんな所に別嬪さんが二人もいるとはな!おい、このゴルザル様にお酌しな!なんならこのあと部屋で二人いっぺんに可愛がってやるよ。」


「……ウッザ。」

「……はぁ…」


「タ、タクミ殿!マフユ殿とヒスイ殿が!」


「いや、あの二人なら問題はありませんって。」


「い、いえ!お二人の心配をしているわけではなく!い、いや、お二人も心配ですが、このままだとギルドが大変なことに!」


さて、ところ変わってガランギルド支部に併設された酒場。そこでお約束、と呼ばれる出来事が今まさに起こっていた。


最初こそ「これぞギルド!」「まさに冒険者!」と喜んでいたマフユとヒスイも、今はかなりの不機嫌さが見て取れた。


そう、まさにお約束の定番中の定番…『酒場で絡まれるイベント』である。


奇しくもこの世界の美的基準は日本と変わりないようで、マフユとヒスイはもれなくゲヘヘと醜悪な笑みを携えたゴロツキ風冒険者に絡まれていた。


そんな状況に顔を青くしたものが数名。まずはラムリス、二人の実力と魂上契約を知るがゆえにまぁそれは気の毒なほど狼狽えた。


そしてそんな騒ぎを遠くで作業していたギルドの受付嬢…リリアも、器用にポーカーフェイスながら顔面蒼白という面白い状態でギルドマスター室へと駆けこんでいく行くのがタクミには見えた。


「ゴルザル‼貴様、何をしている⁉」


「はぁ?…げぇ!?ギルマス!」


部屋からすごい勢いで飛び出してきたギルドマスターのローグは、その風貌からは想像できない位の威圧感のある低い声でゴルザルに眼光を飛ばす。ダトウ家という存在が、全容は知らなくとも王家と同列で扱うべきレベルと認識している数少ない人物だからだ。


「い、いや、俺はこの別嬪さん達に少しお酌をしてもらおうとしただけで…」


ゴルザルもゴルザルで、その声の主を認識すると驚いたようにして言い訳を始めた。まぁ見た目だけならすこぶる美少女と言っても過言ではない二人。新人の給仕か依頼を出しに来た少女…ぐらいの認識だったのだろう。


このギルドに限らずお酌とお誘い・・・は、最早酒場併設のギルドでは社交辞令のようなもの(現代ならばセクハラやモラハラの重大事案だが)である。


ギルドとしてもあまりにも酷いものは処罰を与えるが、元々は荒くれ者も多い冒険者という職業だ。多少のセクハラには目を目を瞑っていた。それはギルドと荒くれ者冒険者の癒着というわけではなく、そうしないと毎日二桁単位で処罰を与えなければならないからだ。


そうなってしまうと冒険者ギルドの運営がままならなくなってしまう。故の処置だったのだが…今回ばかりは相手が悪すぎた。


「ゴルザル…あとでギルドマスター室へと来い。それまでは地下牢に入っていろ!連れて行け!」


「はっ!?ちょっ、待ってくれよギルマス!こんなのいつも…くっ、放せ!なんでだよ!」


「ゴルザル…ギルド資格剥奪も覚悟しておけ…」


「なっ!?おい、巫山戯んな!何で今回に限って!!」


そう叫びながらドナドナされていったゴルザルという冒険者。タクミとしては二人が危害を加えられるとははなから思っていなかったし、流石に過剰反応かとも思った。しかしマフユとヒスイのフラストレーション具合から考えるならいい手だったのだろう。


…主にゴルザルの生命の危機という意味で。


「…ふぅ、済まなかったタクミ君。うちのギルドの者が迷惑を。」


「いえ、実害はありませんし元よりあの二人がどうこうなる様なものでもありませんからね。」


「…申し訳ない。ところでお二人はタクミ君の?」


「ええ、親類ですね。二人共、こちらはギルドマスターのローグさんだ。」


タクミのギルドマスターという言葉に二人はピクリと反応する。どうやらギルド登録という本来の目的は忘れていなかったようだ。


「マフユ・ダトウと言います。今日は冒険者登録に来ました。」


「同じくヒスイ・ダトウです。よろしくお願いします。」


先程までの剣呑な雰囲気は若干和らぎ、二人はローグへと挨拶を返した。流石にこれから登録をするギルドのトップへの礼節までは忘れていなかったようだ。というよりも漸く、といった嬉しさのほうが勝ったのだろう。


これには先程までの顔を青くしていたラムリスも胸を撫で下ろす。


「ああ、よろしく頼むよ。マフユ君は初めましてだが、ヒスイ君は魔物進行では世話になったね。何はともあれここでは人目が多すぎる。登録手続きも兼ねて私の部屋でいいかな?」


そんなローグの言葉に、周りの冒険者たちはざわつき出した。そもそも冒険者登録は特例を除き全員最低ランクからのスタートだ。故に登録は受付で済ませるのが通例で、ローグの対応は新人冒険者としては異例と言っても過言ではない。


ローグとしてはワグナーとの約束を愚直に守っているだけなのだが、不運な状況が重なり、事情を知らない周りの冒険者たちの懐疑的な目を集める形となってしまっていた。


「(うーん、やっぱり年相応にしか見えない二人の実力を推し量れ…という方が酷だよなぁ)」


それはタクミだけではなく、ダトウ家全体に言えることだが、やはり見た目と実力の乖離というのは余計な軋轢を生むようだ。それがこの異世界転生後に始めて感じた不便さだった。


「ぐぁっ!?」

「大人しく…がっ!?」


そうタクミが思案していると突如ギルドの奥が騒がしくなる。何事かとタクミはそちらに視線を向けるとそこには目を血走らせたゴルザルの姿が。手には刃渡り100cm程の血の滴る両刃剣を持ち、明らかに正常な判断が出来てなさそうな精神状態。


その異常性を感じ取ったのかギルド内部にいる冒険者たち困惑したようにゴルザルを見ていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、こんなところで終わってたまるかよぉ!!」


そうブツブツと言いながら一歩一歩マフユとヒスイへと近づいていく。状況的に終わる決定打を作ったのはゴルザルだが、最早本人にはそんな思考も残ってはいまい。


「こりゃまた…御誂え向き・・・・・な。」


タクミは呆れたような声色でそう言うとマフユに声をかける。


「ヒスイはこの前の魔物進行で実力を示してるから…マフユ、殺さない程度にな?」


「うん、わかった。」


そう言いながらマフユはゆっくりとゴルザルの方へと歩いていった。ラムリスとローグが何故!?と驚いた表情でタクミを見るが、努めて無視する。


荒い息のゴルザル、対してマフユはまるで散歩するかのような足取りで互いに歩み寄る。その距離およそ2メートル。互いに必中の間合い。


「クソ、クソ、クソ…がぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


ゴルザルは上段袈裟斬りの構えでマフユに詰める。


上段袈裟斬りは通常、対人においては余程の熟練者でなければ只々隙をつくるだけの御座なりな構えだが、どうやらゴルザルはその余程の方だったようだ。


怒り狂った表情とは裏腹に、脱力から初動までの滑らかな攻撃はタクミをしても中々と感じるほど洗練されていた。


俗に言う『無拍子』と呼ばれる攻撃速度でゴルザルの剣がマフユを上段から襲う。


そこで漸く周りの冒険者たちも金縛りが解けたかのようにゴルザルを止めるべく動き出したが、その振り下ろされた剣は「パァンッ」という鈍い破裂音がするとマフユに当たることなく横に逸れ…ゴルザルが白目を向きながら仰向けに倒れた。


「…何が起こった?」


ローグの独白は冒険者たちの総意でもあった。ローグ自身はタクミ、ヒスイの実力の一端は知っているため、マフユも只者ではないことは分かっているつもりだ。


しかしそれを差し引いても、マフユが何をしたのか全く分からなかったのだ。唯一、何かの破裂音が関係していることしか分からなかった。


「ギルドマスター、そんなに難しく考える必要はないですよ?只殴っただけなんで。」


タクミがさもありなん、といった感じでローグの…その他全員の疑問に答えた。


「殴った?じゃあまさか今の鈍い破裂音は殴った音だと?」


「ええ、俺の家では『貫打ぬきうち』っていうんですけど…まぁ居合い切りの殴打版とでも思ってください。それを人中の3箇所に叩き込んだだけです…なんで死んではないですよ………マフユ、死んでないよな?」


「もー、タクミにぃ。私が今更こんな初歩的な技で加減間違えるわけ無いじゃん!ヒスイじゃないんだから。」


「あー!何でそこで私を引き合いに出すの!?私だって…さ、3割くらいしか加減間違えないし!」


「「「「(それは3人に1人は死んでるのでは?)」」」」


そこだけはタクミ、ローグ、ラムリス、冒険者達の思考が一致した。


「そ、そうか…兎に角、ゴルザルを早く拘束しろ!武装解除し厳重にな!そして最早ギルド内部で処理出来る範疇を超えた、憲兵にも連絡しろ!…それとリリア、使い・・を…」


そう小声で告げられたリリアはコクリと頷くと伝書鳩に用紙を括り付け外へと放つ。


「タクミ君、ラムリス殿、マフユ君、ヒスイ君、この度は誠に申し訳ない。これは完全にギルドの落ち度だ。今後の事も含め、改めて執務室の方へお願いできるだろうか?」


そう先程の声とは対象的な声色のローグは、何処か体調が悪いのか顔色がすこぶる宜しくなかった。





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